発売日: 1981年10月
ジャンル: パワーポップ、ニューウェーブ、ロック
迷走と進化の狭間——The Knackの試みた音楽的深化
1979年のデビューアルバム Get the Knack でパワーポップの象徴となりながら、急激な成功とメディアの反発により短期間で人気が低迷してしまった The Knack。2ndアルバム …But the Little Girls Understand（1980年）での失敗を経て、バンドは新たな方向性を模索 し、1981年にリリースされたのが Round Trip である。
本作は、プロデューサーに Jack Douglas（Aerosmith、John Lennon などを手掛けた名プロデューサー） を迎え、より緻密で洗練されたアレンジ、幅広い音楽性を取り入れた作品となった。しかし、前作からの売上低迷を挽回するには至らず、結果的にバンドはこのアルバムを最後に一度解散 してしまう。
それでも、本作には「Pay the Devil (Ooo, Baby, Ooo)」「Boys Go Crazy」など、The Knack らしさを残しながらも、実験的なアプローチを試みた楽曲が多く収録されており、後年再評価された隠れた名盤 とも言える。
全曲レビュー
1. Radiating Love
ファンキーなリズムと洗練されたサウンドが特徴的な楽曲。従来のパワーポップスタイルとは一線を画すアレンジが印象的。
2. Soul Kissin’
グルーヴィーなギターとリズムが際立つ、ダンサブルなナンバー。Doug Fieger のボーカルもどこか余裕を感じさせる。
3. Africa
The Knack にしては珍しく、ニューウェーブ的なシンセの要素を取り入れた実験的な楽曲。当時流行していたTOTOの「Africa」と同名だが、まったく異なる曲。
4. She Likes the Beat
キャッチーなメロディと軽快なリズムが特徴。ビートルズ風のポップセンスを感じさせるナンバー。
5. Just Wait and See
ミドルテンポのバラード風の楽曲。バンドの成熟した一面を見せるが、The Knack のエネルギッシュな魅力とは少し異なるアプローチ。
6. We Are Waiting
ニューウェーブ色が強く、当時の流行を意識した楽曲。シンセの導入と独特なコード進行が印象的。
7. Boys Go Crazy
本作の中では最も The Knack らしいパワーポップな楽曲で、キャッチーなギターリフとアップテンポな展開が楽しい。
8. Pay the Devil (Ooo, Baby, Ooo)
本作のリードシングルで、アルバムのハイライト。エッジの効いたギターとブルース風のボーカルが特徴的で、バンドの新しいアプローチが試みられている。
9. Another Lousy Day in Paradise
アコースティックギターが印象的なバラード。シリアスな歌詞とメランコリックなメロディが際立つ。
10. Art War
本作の中で最も実験的な楽曲で、ロック、ニューウェーブ、ファンクの要素が融合した異色のナンバー。
総評
Round Trip は、The Knack の音楽的成熟を示す意欲作 でありながら、商業的には振るわなかった不遇の作品である。前作までのパワーポップ路線からの脱却を図り、ニューウェーブ的な要素を取り入れることで、バンドとしての幅を広げようとしたが、ファンからは賛否が分かれた。
しかし、「Pay the Devil (Ooo, Baby, Ooo)」や「Boys Go Crazy」など、The Knack らしいエネルギッシュな楽曲も含まれており、単なる迷走作とは言い切れない。むしろ、バンドの挑戦と進化が感じられる、隠れた名盤として再評価されるべきアルバム だろう。
本作のリリース後、バンドは解散し、Doug Fieger はソロ活動を開始。しかし、後年になってThe Knack は再結成され、1990年代以降も活動を続けることとなる。
おすすめのリスナー:
- パワーポップの枠を超えた The Knack の音楽を聴きたい人
- ニューウェーブやAOR的なサウンドが好きな人
- The Cars や The Police のような1980年代のポップロックが好きな人
おすすめアルバム
1. The Cars – Panorama (1980)
ニューウェーブとパワーポップを融合させた作品で、Round Trip の音楽性と共通点が多い。
2. Blondie – Autoamerican (1980)
ジャンルの幅を広げ、ニューウェーブとポップのバランスを取った作品。
3. Cheap Trick – All Shook Up (1980)
The Knack と同様、ハードロックとパワーポップの間を行き来するバンドの実験的なアルバム。
4. The Police – Ghost in the Machine (1981)
The Knack が取り入れたニューウェーブ的な要素が、より洗練された形で表現されている。
5. XTC – Black Sea (1980)
パワーポップとニューウェーブを融合したサウンドで、The Knack の方向性と似た要素が感じられる。
Round Trip は、The Knack の商業的な成功からの脱却を試みた意欲作であり、1980年代初頭のポップロックの進化を捉えた作品 でもある。リリース当時は低評価だったものの、現在ではThe Knack の隠れた名盤として、改めて聴き直す価値のあるアルバム だと言える。
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