発売日: 2011年7月26日
ジャンル: フォークポップ、ピアノポップ、バロックポップ
内省と再出発——Vanessa Carltonの新たな章を開く4thアルバム
Vanessa Carlton の4thアルバム Rabbits on the Run は、それまでのポップロック的なアプローチから大きく方向転換し、よりオーガニックでアート志向のサウンドへと進化を遂げた作品 となっている。
本作では、商業的なヒットを狙うのではなく、よりアーティスティックな表現を追求 しており、Carlton 自身がプロダクションに深く関与。ロンドンのアビー・ロード・スタジオでアナログレコーディングされた本作は、温かみのあるサウンドと、フォーク、バロックポップ、インディーロックの要素を融合 させた、キャリアの中でも特に独自性の強いアルバムとなっている。
Carlton 自身が影響を受けた リチャード・アダムズの小説『ウォーターシップ・ダウン』（Watership Down） や、スティーブン・ホーキングの宇宙論 などをインスピレーションとして取り入れ、哲学的で幻想的な世界観を描いている。
全曲レビュー
1. Carousel
アルバムの幕開けにふさわしい幻想的な楽曲。人生の巡りと時間の儚さ をテーマにしており、オルゴールのようなピアノの旋律が夢幻的な雰囲気を醸し出している。
2. I Don’t Want to Be a Bride
タイトルの通り、伝統的な結婚観にとらわれない生き方を歌った 曲。Carlton の意思の強さが感じられ、ギターとピアノのミニマルなアレンジが美しい。
3. London
フォーク調のアコースティックギターが特徴的な楽曲で、ロンドンを舞台にしたロマンティックなストーリーを描いている。
4. Fairweather Friend
ストリングスとピアノが織りなす壮大なバラード。信頼と裏切りをテーマにした歌詞 が心に響く。
5. Hear the Bells
実験的な要素を取り入れた、ミステリアスな雰囲気の楽曲。鐘の音が曲全体に響き渡り、幻想的でスピリチュアルな世界観を作り出している。
6. Dear California
軽快なフォークポップ調の楽曲で、カリフォルニアでの思い出と新たな旅立ちへの決意 を歌っている。
7. Tall Tales for Spring
ピアノとストリングスが美しく絡み合う、夢と現実の狭間を描いた詩的な楽曲。メロディの展開がドラマチックで、Carlton の繊細なボーカルが際立つ。
8. Get Good
アコースティックギターを主体とした、温かみのある楽曲。人生において成長し続けることの大切さ を歌ったポジティブなメッセージが込められている。
9. Marching Line
アルバムのラストを飾る壮大なバラード。希望と新たな未来への決意を感じさせる歌詞が印象的で、Carlton のキャリアの新たな出発を象徴するような楽曲 となっている。
総評
Rabbits on the Run は、Vanessa Carlton のキャリアにおける最もアーティスティックな作品のひとつ であり、過去のポップロック的なアプローチから離れ、よりフォークポップやバロックポップに近い洗練されたサウンド へと移行したアルバムだ。
本作では、彼女の持つ詩的な歌詞のセンスが際立ち、人生、時間の流れ、自己の探求 といったテーマを深く掘り下げている。また、アビー・ロード・スタジオでのアナログレコーディングがもたらす温かみのあるサウンド も特徴的で、デジタル処理されたポップとは一線を画す、オーガニックな質感が魅力となっている。
おすすめのリスナー:
- Be Not Nobody のポップなサウンドよりも、よりアート志向の音楽を求める人
- Regina Spektor や Tori Amos のような、フォークやバロックポップ寄りのシンガーソングライターに興味がある人
- 物語性のある歌詞や、哲学的なテーマを持つ楽曲に惹かれる人
おすすめアルバム
1. Fiona Apple – The Idler Wheel… (2012)
実験的なピアノポップで、Carlton の音楽的進化と共通する点が多い。
2. Regina Spektor – What We Saw from the Cheap Seats (2012)
独創的な歌詞とフォーク寄りのサウンドが本作とよく似ている。
3. Tori Amos – Scarlet’s Walk (2002)
旅や成長をテーマにしたフォーク寄りのピアノポップアルバム。
4. Aimee Mann – Lost in Space (2002)
シンガーソングライターとしての物語性が強く、Carlton の作品と共鳴する部分がある。
5. Norah Jones – Not Too Late (2007)
ジャズやフォークの要素を取り入れた落ち着いたサウンドが、Rabbits on the Run の雰囲気と似ている。
Rabbits on the Run は、Vanessa Carlton のアーティストとしての新たなスタートを示す作品 であり、シンプルながらも深いメッセージを持つ楽曲が詰まったアルバムだ。ポップミュージックの枠にとらわれず、詩的でシネマティックな音楽体験を求めるリスナーにとって、特別な一枚となるだろう。
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