
発売日: 2004年11月1日
ジャンル: オルタナティヴ・ロック、アートロック、インダストリアル、ポストロック
- 反戦と怒りの寓話——A Perfect Circleの実験作
- 全曲レビュー
- 1. Annihilation (Originally by Crucifix)
- 2. Imagine (Originally by John Lennon)
- 3. Peace, Love and Understanding (Originally by Nick Lowe)
- 4. What’s Going On (Originally by Marvin Gaye)
- 5. Passive (Original song)
- 6. Gimme Gimme Gimme (Originally by Black Flag)
- 7. People Are People (Originally by Depeche Mode)
- 8. Freedom of Choice (Originally by Devo)
- 9. Let’s Have a War (Originally by Fear)
- 10. Counting Bodies Like Sheep to the Rhythm of the War Drums (Remix of “Pet”)
- 11. When the Levee Breaks (Originally by Kansas Joe McCoy & Memphis Minnie / Led Zeppelin Version)
- 12. Fiddle and the Drum (Originally by Joni Mitchell)
- 総評
- おすすめアルバム
反戦と怒りの寓話——A Perfect Circleの実験作
A Perfect Circleの3rdアルバムeMOTIVeは、バンドのオリジナル楽曲ではなく、社会的・政治的メッセージを持つ楽曲のカバーを中心に構成された異色作である。本作は、2004年のアメリカ大統領選挙の時期にリリースされ、戦争、権力、支配構造への抗議をテーマとしている。
アルバムの内容は、60年代から80年代の反戦歌や社会批判的な楽曲を現代風にアレンジし、ダークでインダストリアルなサウンドに落とし込んでいる。ToolやA Perfect Circleの持つ哲学的な視点を活かしながらも、より直接的なメッセージを込めたアルバムとなっている。
また、完全なカバーアルバムではなく、新曲Passiveやアレンジの大幅に変わった楽曲が含まれており、A Perfect Circleの個性を際立たせる仕上がりになっている。
全曲レビュー
1. Annihilation (Originally by Crucifix)
オープニングを飾るのは、80年代のハードコアパンクバンドCrucifixの楽曲のカバー。オリジナルの激しいパンクサウンドとは異なり、静謐で呪術的なアレンジが施されている。メイナード・ジェームス・キーナンの語るようなヴォーカルが、曲の持つ破滅的なメッセージを際立たせている。
2. Imagine (Originally by John Lennon)
ジョン・レノンの平和の象徴とも言える名曲を、ダークで不吉な雰囲気に変えたカバー。幻想的でありながらも冷たいアレンジが施され、まるで「理想の平和が欺瞞に満ちている」と問いかけるような仕上がりになっている。
3. Peace, Love and Understanding (Originally by Nick Lowe)
オリジナルの明るいトーンを完全に排除し、ミニマルでメランコリックな解釈を加えたカバー。皮肉めいた雰囲気が漂い、現実の世界に対する冷めた視点が強調されている。
4. What’s Going On (Originally by Marvin Gaye)
マーヴィン・ゲイの代表曲を、より幽玄で内省的なバージョンに仕立てている。原曲のソウルフルなメロディは抑えられ、静かで悲しみに満ちたアレンジが特徴的。
5. Passive (Original song)
本作で唯一のオリジナル楽曲であり、元々はキーナンが所属していた別プロジェクトTapewormの楽曲として構想されていた。ダイナミックな構成とエモーショナルなヴォーカルが際立ち、アルバムの中で最もA Perfect Circleらしい楽曲となっている。
6. Gimme Gimme Gimme (Originally by Black Flag)
パンクバンドBlack Flagの曲を、インダストリアルで無機質なサウンドに変貌させたカバー。オリジナルの激しさとは違い、無感情で冷たいアプローチが支配している。
7. People Are People (Originally by Depeche Mode)
Depeche Modeのシンセポップな楽曲を、よりダークで重厚なアレンジに変えたカバー。リズムの変化や不安定な音の配置が、原曲の持つ社会的メッセージをより不穏なものにしている。
8. Freedom of Choice (Originally by Devo)
Devoのニューウェーブ的な楽曲を、より攻撃的なギターサウンドに変えたカバー。楽曲のテーマである「選択の自由」が、むしろ幻であるかのような皮肉めいた解釈が加えられている。
9. Let’s Have a War (Originally by Fear)
Fearのパンクソングをヘヴィで荒々しいアレンジに変えた一曲。戦争への皮肉と暴力の連鎖を強調した、怒りに満ちたカバーとなっている。
10. Counting Bodies Like Sheep to the Rhythm of the War Drums (Remix of “Pet”)
前作Thirteenth StepのPetをリミックスし、インダストリアルなビートを強調したバージョン。軍国主義や戦争プロパガンダを象徴するような不気味なサウンドスケープが広がる。
11. When the Levee Breaks (Originally by Kansas Joe McCoy & Memphis Minnie / Led Zeppelin Version)
Led Zeppelinがカバーしたことで有名なブルース楽曲を、さらにスローテンポでドローン的なアレンジにしたカバー。終末的な雰囲気が漂う仕上がり。
12. Fiddle and the Drum (Originally by Joni Mitchell)
ジョニ・ミッチェルの楽曲を、完全なアカペラで表現したカバー。キーナンの孤独な声が、アルバムの締めくくりとして静かに響き渡る。
総評
eMOTIVeは、A Perfect Circleのディスコグラフィの中でも最も異質な作品であり、音楽的実験と政治的メッセージの融合を試みたアルバムである。カバーアルバムでありながら、単なるリメイクではなく、それぞれの楽曲を独自の視点で再構築し、原曲とは異なる解釈を提示している点が特徴的だ。
本作は、2000年代初頭の政治的混乱や戦争への批判を強く反映しており、単なる音楽作品という枠を超えた社会的メッセージを持つ。そのため、エンターテインメント性よりもコンセプト性が重視され、アルバム全体に漂う暗さと冷淡な雰囲気は、A Perfect Circleの他の作品とは一線を画している。
政治的なテーマに興味があるリスナーや、インダストリアルなサウンドに惹かれる人には魅力的な作品だが、バンドの従来のスタイルを期待して聴くと戸惑うかもしれない。しかし、そのメッセージ性と独自の解釈は、リスナーに新たな視点を提供する一枚となっている。
おすすめアルバム
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Nine Inch Nails – Year Zero(2007)
反戦・反体制をテーマにしたコンセプトアルバム。 -
Tool – 10,000 Days(2006)
A Perfect Circleのメンバーが関与する、深遠なテーマを持つ作品。 -
Depeche Mode – Violator(1990)
シンセとダークな世界観を融合させた名盤。 -
Marilyn Manson – Holy Wood(2000)
政治・宗教批判をテーマにしたインダストリアル・ロック。 -
Failure – Fantastic Planet(1996)
A Perfect Circleに影響を与えた実験的なオルタナティヴ・ロック。
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