
発売日:2016年5月27日
ジャンル:ポップ、R&Bポップ、ダンス・ポップ、トロピカル・ポップ、ヒップホップ・ポップ、ガール・グループ・ポップ
概要
Fifth Harmonyの2作目のスタジオ・アルバム『7/27』は、グループの商業的成功を決定的なものにした作品であり、2010年代半ばのアメリカン・ガール・グループ・ポップを象徴するアルバムである。タイトルの『7/27』は、Ally Brooke、Normani Kordei、Dinah Jane、Lauren Jauregui、Camila Cabelloの5人が、アメリカ版『The X Factor』でグループとして結成された日付、2012年7月27日に由来する。つまり本作は、単なる2作目ではなく、Fifth Harmonyというグループの出発点を改めて記念し、自分たちの存在を再定義する意味を持っている。
デビュー・アルバム『Reflection』では、「BO$$」「Sledgehammer」「Worth It」といった楽曲を通じて、自己肯定、女性の自立、R&Bポップとヒップホップ・ポップの融合を打ち出した。特に「Worth It」は国際的なヒットとなり、Fifth Harmonyをアメリカのガール・グループとして大きく認知させた。しかし『Reflection』は、強いシングル曲を持ちながらも、アルバム全体としてはまだ方向性がやや散漫で、グループとしての音楽的な統一感には発展途上の部分があった。
それに対し、『7/27』は、より洗練されたポップ・アルバムである。全体のサウンドは、2016年前後のメインストリーム・ポップにおけるトロピカル・ハウス、R&Bポップ、ヒップホップ由来の低音、ダンスホール風のリズムを取り込み、前作よりも軽やかで、現代的で、ラジオ向きになっている。特に「Work from Home」は、その方向性を最も成功させた楽曲であり、Fifth Harmonyのキャリア最大の代表曲となった。
『7/27』の中心テーマは、自己価値、恋愛における主導権、欲望、労働と関係性、女性同士の連帯、そして若い女性の自立である。前作『Reflection』が「自分には価値がある」と高らかに宣言するアルバムだったとすれば、本作ではその自己価値が、より大人びた恋愛関係や身体性、経済的・感情的な駆け引きの中で表現される。「Work from Home」では、仕事と恋愛、親密さが軽妙に重ねられ、「That’s My Girl」では挫折から立ち上がる女性への励ましが歌われる。「All in My Head (Flex)」では、身体的な魅力と夏の開放感が前面に出る。「Not That Kinda Girl」では、相手に簡単に従う存在ではないという態度が示される。
本作は、Fifth Harmonyの5人組体制で発表された最後のアルバムでもある。リリース後、Camila Cabelloはグループを離れ、ソロ・アーティストとして大きな成功を収めることになる。その意味で『7/27』は、5人のFifth Harmonyとしての完成形であり、同時に次の分裂を予感させる作品でもある。アルバムでは5人それぞれの声が前作よりも整理され、個性がよりはっきり聴こえる場面が増えているが、一方でCamilaの独特な声質とフレージングが強く印象に残る曲もあり、後のソロ展開への伏線としても聴ける。
音楽的には、Fifth Harmonyは本作でアメリカのガール・グループ史における複数の系譜を継承している。Destiny’s ChildのR&Bポップ的な自己主張、TLCのリズム感、Pussycat Dollsのパフォーマンス性、Spice Girls以後のガール・パワーのポップ化、そして2010年代のトロピカル/ヒップホップ化したラジオ・ポップが重なっている。ただし、Fifth Harmonyの場合、ハーモニーの緻密さよりも、5人のキャラクターとフックの即効性、そして現代的なプロダクションが前面に出る。
『7/27』の制作には、StarGate、Kygo、Ammo、DallasK、Harmony Samuels、The Monsters and the Strangerz、Tinashe、Ty Dolla $ign、Fetty Wap、Missy Elliottなど、2010年代ポップ/R&Bの重要な制作者やゲストが関わっている。これにより、本作は単なるガール・グループ作品というより、当時のアメリカン・ポップ市場の流行を巧みに反映した作品となっている。特にTy Dolla $ignを迎えた「Work from Home」は、ポップ、R&B、ヒップホップの境界を滑らかに横断し、Fifth Harmonyをグローバルなチャートの中心へ押し上げた。
歌詞は全体的に分かりやすく、キャッチーで、時にスローガン的である。深い内省や文学的な複雑さよりも、態度、リズム、フック、印象的なフレーズが重視される。これは批評的には表面的と見なされることもあるが、Fifth Harmonyの音楽においては大きな強みでもある。彼女たちの楽曲は、聴いた瞬間にテーマが分かり、身体が反応し、サビを口ずさめるように作られている。
日本のリスナーにとって『7/27』は、2010年代半ばの洋楽ポップにおけるガール・グループのあり方を理解するうえで非常に有効な作品である。Little Mixが英国的なヴォーカル・ハーモニーとガール・パワーを前面に出したのに対し、Fifth HarmonyはよりアメリカのR&Bポップ、ヒップホップ、トロピカルなラジオ・サウンドへ接近している。本作は、その違いを最も分かりやすく示すアルバムであり、Fifth Harmonyのキャリアにおける代表作である。
全曲レビュー
1. That’s My Girl
アルバム冒頭を飾る「That’s My Girl」は、Fifth Harmonyのガール・パワー路線を強く打ち出すアンセムである。タイトルは「それでこそ私の女の子」という意味で、傷ついたり、倒れたりしても再び立ち上がる女性を励ます内容になっている。アルバムの幕開けとして、グループの強気でポジティブな姿勢を明確に示す楽曲である。
サウンドは、ブラス風のフレーズ、重いビート、力強い掛け声が中心で、前作『Reflection』の「BO$$」や「Worth It」とも連続性がある。軍隊的、スポーツ的、応援歌的なエネルギーを持っており、ステージや映像で映えるタイプの曲である。メロディよりも、リズムとフレーズの強さが前面に出ている。
歌詞では、恋愛や人生で傷ついた女性に対して、涙を拭き、再び立ち上がるよう促す。これは単なる自己肯定ではなく、女性同士が互いを励ます連帯の歌である。Fifth Harmonyの楽曲には、自分自身を強く見せる曲が多いが、「That’s My Girl」では、他者に向けて力を渡す姿勢が強い。
5人の声は、個別の繊細な表現よりも、全体のエネルギーを作るために使われている。サビの集団的な響きは、グループ名の「Harmony」が象徴するような一体感を感じさせる。「That’s My Girl」は、『7/27』を力強く始めると同時に、Fifth Harmonyがリスナーに向けて提示する女性の自立と回復のイメージを明確にする楽曲である。
2. Work from Home feat. Ty Dolla $ign
「Work from Home」は、『7/27』最大の代表曲であり、Fifth Harmonyのキャリア全体でも最も重要な楽曲である。Ty Dolla $ignを迎えたこの曲は、2016年のポップ・シーンにおけるR&Bポップ、トロピカルなリズム、ヒップホップ的な低音の融合を象徴するヒットとなった。
タイトルの「Work from Home」は、在宅勤務を意味する言葉だが、歌詞では仕事の比喩を恋愛や身体的な親密さに重ねている。仕事、労働、時間、努力といった言葉が、恋人との関係の中で軽妙に使われる。これは非常に現代的なポップの言葉遊びであり、日常的なフレーズをセクシュアルな文脈へ転換することで、強い記憶性を生んでいる。
サウンドは、ミニマルでありながら中毒性が高い。重いが柔らかいビート、ゆるやかなシンセ、軽いトロピカル感、反復されるフックが組み合わされ、過度に派手ではないのに非常に耳に残る。前作「Worth It」のようなブラス・リフ中心の強い主張とは異なり、「Work from Home」はより滑らかで、余白があり、大人びた質感を持つ。
Ty Dolla $ignの参加も効果的である。彼の声は、Fifth Harmonyの明るく強い女性ヴォーカルに対して、柔らかくR&B的な男性側の応答を加える。ラップというよりメロディックなヴォーカルとして機能し、曲全体のムードを崩さない。
「Work from Home」は、Fifth Harmonyが単なるガール・グループ・アンセムだけでなく、洗練されたR&Bポップでも大きな成功を収められることを示した楽曲である。『7/27』の中心であり、2010年代ガール・グループ・ポップの代表曲である。
3. The Life
「The Life」は、成功、贅沢、自由、パーティー感をテーマにした楽曲である。タイトルは「その人生」「理想の生活」という意味を持ち、Fifth Harmonyがポップ・スターとしての華やかな世界を楽しむような内容になっている。
サウンドは、軽快なダンス・ポップを基盤にしながら、トロピカル・ポップの明るさも感じられる。ビートは強すぎず、リズムは開放的で、全体に夏らしい雰囲気がある。「Work from Home」のメロウなグルーヴから続くことで、アルバム前半にリラックスした明るさを加えている。
歌詞では、夢のような暮らし、パーティー、友人、成功の感覚が描かれる。深い内省ではなく、今この瞬間を楽しむことが中心である。Fifth Harmonyの音楽には、自己価値の主張と同時に、成功した若い女性たちの祝祭的なムードもある。この曲はその側面を担う。
「The Life」は、大きな代表曲ではないが、アルバムの気分を広げる重要な楽曲である。強いメッセージを押し出すというより、Fifth Harmonyが手にしたポップ・スターとしての開放感を軽やかに表現している。
4. Write on Me
「Write on Me」は、『7/27』の中でも特にメロディアスで、柔らかな感情を持つ楽曲である。タイトルは「私に書いて」という意味で、相手に自分の心や身体、人生に何かを刻んでほしいという、親密で詩的なイメージが用いられている。
サウンドは、トロピカル・ハウス風の軽いリズムと、清涼感のあるシンセが特徴である。前作『Reflection』の力強いポップR&Bに比べると、この曲はより空間があり、軽やかで、2016年前後のポップ・トレンドを強く反映している。リズムは踊れるが、過度に攻撃的ではなく、むしろ浮遊感がある。
歌詞では、相手との関係を「書く」という行為に重ねる。相手の言葉や存在が自分に刻まれ、自分自身を変えていくというイメージである。恋愛を所有や駆け引きではなく、互いに影響を与え合うものとして描いている点で、アルバムの中では比較的繊細な曲といえる。
ヴォーカル面では、5人の声が滑らかに配置され、サビでは全体のコーラスが柔らかく広がる。Fifth Harmonyの強い自己主張とは異なる、優しく軽やかな魅力が表れている。「Write on Me」は、本作の中で最もトロピカル・ポップ的な洗練が感じられる楽曲のひとつである。
5. I Lied
「I Lied」は、恋愛の中で自分の本心に気づく過程を歌った楽曲である。タイトルは「嘘をついた」という意味で、語り手は相手への感情を否定していたが、実際には愛している、あるいは深く惹かれていることを認める。自己欺瞞と感情の変化がテーマになっている。
サウンドは、ポップR&Bを基盤にしつつ、少しダークでドラマティックな雰囲気を持つ。ビートは重すぎないが、曲全体に緊張感があり、アルバム前半の明るい流れに感情的な陰影を加えている。メロディもやや切なさを含み、Fifth Harmonyのヴォーカルの表情を引き出している。
歌詞では、自分は相手に興味がない、愛していないと思っていたが、それは嘘だったと認める。恋愛において、自分の感情を制御しようとしても、実際には心が先に動いてしまうことがある。この曲はその瞬間を描いている。
「I Lied」は、『7/27』の中で、強気な自己主張とは違う感情の揺れを示す楽曲である。Fifth Harmonyの音楽はしばしば自信に満ちているが、この曲では自信の裏にある混乱や素直になれない気持ちが表れている。
6. All in My Head (Flex) feat. Fetty Wap
「All in My Head (Flex)」は、Fetty Wapを迎えた楽曲であり、アルバムの中でも最も夏らしく、開放的なムードを持つ。タイトルの「All in My Head」は「すべて頭の中にある」という意味で、欲望、想像、恋愛の高揚が、現実と幻想の間で描かれる。「Flex」は見せつける、身体を動かす、自信を示すといった意味を持ち、楽曲全体に軽いセクシュアリティと遊び心がある。
サウンドは、レゲエ・ポップ、ダンスホール、トロピカル・ポップの要素を含み、2016年前後のチャート・ポップの空気を強く反映している。軽く揺れるリズム、明るいシンセ、開放的なメロディが、リゾート的な雰囲気を生む。Fifth Harmonyの声も、ここでは力強さよりも軽やかさとリズム感が重視されている。
歌詞では、相手への欲望や身体的な魅力が、明るく遊び心を持って表現される。露骨に重くなるのではなく、夏の夜やビーチのような空気の中で、恋愛と身体性が軽快に描かれる。これは「Work from Home」と並び、本作が前作よりも大人びた恋愛表現へ進んだことを示す。
Fetty Wapの参加は、楽曲に当時のヒップホップ/ポップのトレンドを加えている。彼のメロディックなラップは曲の軽さとよく合い、Fifth Harmonyのポップ感を崩さない。「All in My Head (Flex)」は、『7/27』の夏向きで国際的な魅力を象徴する楽曲である。
7. Squeeze
「Squeeze」は、アルバムの中で比較的穏やかで親密なR&Bポップである。タイトルは「抱きしめる」「ぎゅっとする」という意味を持ち、恋人との身体的・感情的な近さがテーマになっている。
サウンドは、ミッドテンポで、柔らかいビートと温かいメロディが中心である。派手なシングル向きの曲ではないが、Fifth Harmonyの声を比較的自然に聴かせる。アルバム中盤で、華やかな曲の間に落ち着いた感触を与える役割を持つ。
歌詞では、相手に抱きしめられることの安心感、親密な時間、身体的なぬくもりが描かれる。Fifth Harmonyの楽曲には、強い女性像やダンスフロアのエネルギーが目立つが、「Squeeze」では、より柔らかい関係性が表現されている。
5人のヴォーカルは、ここでは競い合うような派手さではなく、穏やかに重なっていく。R&Bグループとしての可能性を感じさせる曲であり、アルバムの感情的な幅を広げている。「Squeeze」は、本作の中で控えめながら重要なメロウ・ナンバーである。
8. Gonna Get Better
「Gonna Get Better」は、困難な関係や苦しい状況の中でも、物事は良くなると信じる希望の楽曲である。タイトルは「良くなっていく」という意味で、アルバムの中でも比較的前向きで優しいメッセージを持つ。
サウンドは、レゲエ・ポップ風のゆったりしたリズムと、温かいメロディを中心にしている。明るいが過度に派手ではなく、リラックスした空気がある。Fifth Harmonyの声も、ここでは力強く押し出すより、聴き手に寄り添うように響く。
歌詞では、今はつらくても、関係や人生は改善していくという希望が歌われる。これは恋愛にも、広い意味での人生にも読める内容である。アルバム全体では強気な自己主張が目立つが、この曲では励ましと忍耐が中心になっている。
「Gonna Get Better」は、本作の中で温かい中間地点を作る楽曲である。派手なヒット曲ではないが、Fifth Harmonyのポップに優しさと安定感を与えている。ガール・グループとしての彼女たちが、単に自分の価値を主張するだけでなく、聴き手を支える言葉も持っていることを示している。
9. Scared of Happy
「Scared of Happy」は、『7/27』の中でも特に内面的なテーマを持つ楽曲である。タイトルは「幸せが怖い」という意味で、幸福な関係や良い状況を前にして、かえって不安になってしまう心理が描かれる。これは、アルバムの中でも比較的成熟したテーマである。
サウンドは、ダンス・ポップとR&Bの要素を持ちながら、少し緊張感のある作りになっている。ビートは動きがあり、サビでは感情が開くが、全体には不安定なムードがある。楽曲のテーマである「幸せへの恐れ」が、サウンドにも反映されている。
歌詞では、相手が自分を愛してくれているのに、その幸せを受け入れることが怖いという状態が描かれる。傷ついた経験がある人ほど、次の幸福を信じることが難しい。これは、単なる恋愛の高揚ではなく、心の防衛反応を扱う歌である。
Fifth Harmonyの楽曲の中では、こうした心理的な複雑さを扱う曲は比較的少ないため、「Scared of Happy」は重要である。強い女性像の裏に、不安や自己防衛があることを示し、本作に深みを与えている。
10. Not That Kinda Girl feat. Missy Elliott
「Not That Kinda Girl」は、Missy Elliottを迎えた楽曲であり、Fifth Harmonyの自己主張をファンク・ポップ/R&Bの形で表現した曲である。タイトルは「私はそういうタイプの女の子じゃない」という意味で、相手の軽い期待や決めつけを拒否する内容になっている。
サウンドは、80年代ファンクやレトロなシンセ・ポップの要素を感じさせる。ベースラインは弾み、リズムは軽快で、アルバムの中でも少し異なる質感を持つ。全体に遊び心があり、Fifth Harmonyの強気なキャラクターとよく合っている。
歌詞では、相手が簡単に自分を手に入れられると思っていることに対して、はっきりと否定する。女性が自分の境界線を持ち、相手に合わせて自分を変えない姿勢が示される。これは、前作から続くFifth Harmonyの自己価値テーマの延長である。
Missy Elliottの参加は非常に象徴的である。Missyは女性ラッパー/プロデューサーとして、1990年代後半から2000年代のR&B/ヒップホップにおいて、ユーモア、身体性、未来的な音作り、女性の自己表現を切り開いた存在である。彼女の登場により、この曲は単なるガール・グループ・ポップではなく、女性のポップ/ヒップホップ表現の系譜へ接続される。
「Not That Kinda Girl」は、本作の終盤でFifth Harmonyの自立した女性像を再確認する楽曲である。ファンキーで楽しく、同時に態度が明確な一曲である。
11. Dope
「Dope」は、アルバムの中でも比較的クールで、抑制されたR&Bポップである。タイトルの「Dope」は、魅力的、かっこいい、特別だという意味で使われており、相手への強い好意を現代的なスラングで表現している。
サウンドは、ミニマルでメロウなR&B寄りであり、派手なフックよりも空気感を重視している。ビートは控えめで、ヴォーカルのニュアンスが前に出る。アルバムの中では、比較的大人びた印象の曲である。
歌詞では、相手の存在がとても魅力的で、特別に感じられることが歌われる。Fifth Harmonyの強いアンセム系の楽曲とは異なり、ここでは親密で少し低温の恋愛感情が描かれる。感情は熱いが、表現はクールである。
「Dope」は、本作の中でFifth HarmonyのR&B志向を感じさせる楽曲である。大きな商業的インパクトを持つ曲ではないが、アルバムの音楽的な幅を広げ、5人の声の落ち着いた側面を聴かせる。
12. No Way
「No Way」は、デラックス盤などで重要な位置を占めるバラード寄りの楽曲であり、壊れかけた関係の中にある複雑な感情を歌っている。タイトルは「ありえない」「そんなはずはない」という意味で、関係の終わりを受け入れられない気持ちや、相手への執着がにじむ。
サウンドは、抑制されたR&Bバラードで、ビートは控えめ、ヴォーカルとハーモニーが中心である。派手なダンス曲が多いアルバムの中で、この曲は非常に静かで、感情の余白がある。Fifth Harmonyが持つヴォーカル・グループとしての魅力を感じやすい曲である。
歌詞では、相手との関係に問題があることを分かっていながら、それでも離れられない気持ちが描かれる。愛があるからこそ傷つき、傷ついてもなお完全には手放せない。これは、アルバム全体の自立した女性像とは異なる、より脆い感情である。
「No Way」は、『7/27』の中で最も感情的に落ち着いた余韻を持つ曲のひとつである。Fifth Harmonyが強気なアンセムだけでなく、関係の複雑さや痛みも表現できることを示している。
総評
『7/27』は、Fifth Harmonyのキャリアにおける最も重要なアルバムであり、5人体制のグループとしての完成形を示した作品である。デビュー作『Reflection』で提示された自己肯定、R&Bポップ、ヒップホップ的な態度は、本作でより洗練され、トロピカル・ポップやメロウなR&Bの要素と結びついた。結果として、『7/27』は前作よりも聴きやすく、現代的で、国際的なポップ市場に適応した作品となっている。
本作の中心には、疑いなく「Work from Home」がある。この曲は、Fifth Harmonyの最大のヒットであり、2010年代半ばのガール・グループ・ポップを代表する楽曲である。仕事という日常的な言葉を親密な関係の比喩へ変換し、ミニマルなR&Bポップのグルーヴに乗せることで、非常に強い中毒性を生んだ。「Worth It」が強いブラス・フックと自己価値の主張でFifth Harmonyを広めた曲だとすれば、「Work from Home」は、より滑らかで大人びた形でグループを世界的なポップの中心へ押し上げた曲である。
アルバム全体では、自己肯定と恋愛の身体性が重要なテーマになっている。「That’s My Girl」は女性の回復と連帯を歌い、「Not That Kinda Girl」は相手の軽い期待を拒否する。「All in My Head (Flex)」や「Work from Home」では、欲望と遊び心が前面に出る。「Scared of Happy」や「No Way」では、幸せへの恐れや関係の複雑さが描かれる。このように、本作は単なる強気なガール・パワーだけでなく、恋愛における不安や脆さも含んでいる。
音楽的には、『7/27』は2016年のポップ・トレンドを非常によく反映している。トロピカル・ハウスやダンスホール風の軽いリズム、R&Bポップのメロウなグルーヴ、ヒップホップ的なゲスト参加、低音を活かしたミニマルなプロダクションが随所に見られる。特に「Write on Me」「All in My Head (Flex)」「Gonna Get Better」には、当時のトロピカル・ポップの影響が明確である。
一方で、本作はFifth Harmonyのガール・グループとしての個性を完全に深く掘り下げたアルバムというより、商業的なポップ作品として非常に効率よく作られたアルバムでもある。楽曲は短く、フックは明快で、テーマも分かりやすい。その分、アルバムとしての深い物語性や実験性は限定的である。しかし、Fifth Harmonyの強みはまさにその即効性にある。彼女たちは、複雑なコンセプトよりも、強い態度、キャッチーなサビ、時代の音を通じてリスナーに届くグループだった。
ヴォーカル面では、前作よりも5人の個性が整理されている。Camila Cabelloの特徴的な高音と癖のあるフレージング、Lauren Jaureguiの低くスモーキーな声、Normaniの滑らかなR&B的な声、Dinah Janeの力強い声、Ally Brookeの明るく伸びる声が、楽曲ごとに異なる役割を担う。ただし、Little Mixのようにハーモニーそのものを中心に聴かせるというより、Fifth Harmonyは個々の声のキャラクターをポップ・トラックの中で切り替えていくタイプのグループである。
その点で、『7/27』はグループ名に反して、伝統的なハーモニー重視のガール・グループ作品というより、個性の異なる5人の声を現代的なポップ・プロダクションの上に配置した作品といえる。これは弱点にもなり得るが、Fifth Harmonyらしさでもある。各メンバーの声がリレーのように現れ、曲ごとに違う色を加えることで、ポップ・アルバムとしての変化が生まれている。
本作はまた、Camila Cabello在籍時代の最後のアルバムとしても重要である。後に彼女はソロとして「Havana」などで大きな成功を収めるが、『7/27』の時点でも、その声の個性とポップ・ソングにおける存在感は明確だった。同時に、NormaniやLauren、Dinah、Allyもそれぞれの声の魅力を示しており、Fifth Harmonyが複数のソロ的可能性を内包したグループであったことが分かる。
『7/27』の弱点は、アルバム後半の一部楽曲が、シングル曲ほどの強烈な個性を持たない点である。「Work from Home」「That’s My Girl」「All in My Head (Flex)」のインパクトが強いため、ミッドテンポ曲やバラードはやや控えめに聴こえる場面もある。しかし、「Scared of Happy」「Dope」「No Way」のような曲は、Fifth Harmonyの内面的な表情を補う役割を果たしており、アルバム全体を単なるヒット曲集にとどめない。
日本のリスナーにとって『7/27』は、Fifth Harmonyを知るうえで最も聴きやすいアルバムである。代表曲「Work from Home」を中心に、自己肯定アンセム、夏向きのトロピカル・ポップ、R&B寄りのミッドテンポ、バラードがバランスよく配置されている。洋楽ポップ、ガール・グループ、2010年代R&Bポップに関心があるリスナーにとって、本作は非常に分かりやすい入口になる。
『7/27』は、Fifth Harmonyの商業的な頂点であり、5人組としての最終的な完成形である。強気で、セクシュアルで、キャッチーで、現代的で、少し脆い。2010年代半ばのアメリカン・ポップの音をまといながら、Fifth Harmonyはここで自分たちのグループ像を最も鮮明に示した。長い歴史の中で見れば、革新的なガール・グループ・アルバムというより、時代のポップ・トレンドを的確に掴んだ成功作である。しかし、その即効性と代表曲の強さによって、『7/27』はFifth Harmonyのキャリアを語るうえで欠かせない作品となっている。
おすすめアルバム
1. Reflection by Fifth Harmony
2015年発表のデビュー・アルバム。「BO$$」「Sledgehammer」「Worth It」を収録し、Fifth Harmonyの自己肯定、R&Bポップ、ヒップホップ・ポップ路線を確立した作品である。『7/27』で洗練される前の、より強気でやや粗削りなグループ像を確認できる。
2. Fifth Harmony by Fifth Harmony
2017年発表のセルフタイトル作。Camila Cabello脱退後の4人体制で制作され、よりR&B寄りで大人びたサウンドが前面に出ている。『7/27』の5人体制の完成形と比較すると、グループの変化と成熟が分かりやすい。
3. Salute by Little Mix
2013年発表のLittle Mixの2作目。女性の連帯、力強いコーラス、R&Bポップへの接近という点で『7/27』と比較しやすい作品である。英国ガール・グループとしてのLittle Mixと、アメリカン・ガール・グループとしてのFifth Harmonyの違いを理解するうえで重要である。
4. The Writing’s on the Wall by Destiny’s Child
1999年発表のDestiny’s Childの代表的作品。R&Bガール・グループのハーモニー、女性の自己価値、恋愛における主導権という点で、Fifth Harmonyの背景にある重要な系譜を知ることができる。『7/27』の強い女性像を歴史的に理解するために有効な一枚である。
5. PCD by The Pussycat Dolls
2005年発表のThe Pussycat Dollsのデビュー・アルバム。R&B、ダンス・ポップ、セクシュアルな自己演出、パフォーマンス性を組み合わせた作品であり、Fifth Harmonyの商業的なガール・グループ像と関連が深い。『7/27』のステージ映えするポップR&B路線を理解するうえで参考になる作品である。

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