発売日: 1996年10月(日本・USのみの編集盤)
ジャンル: ブリットポップ、ドリームポップ、インディーロック
陽の当たる場所への迷い道——Lush、“最後の夜明け”を集めた秘かな音の断片集
『Topolino』は、Lushが1996年にリリースした編集アルバムであり、アルバム『Lovelife』期のB面曲やリミックス、レア音源を中心に構成された、“終わりに近づく季節”を静かに彩る裏面集である。
バンド名義でのラストアルバム『Lovelife』のポップで明朗な路線の延長にありながら、こちらにはむしろ、陰影と余韻、そして微かな迷いが詰まっている。
タイトルの“Topolino(トポリーノ)”はイタリア語で「小さなネズミ」=ミッキーマウスの意味も含まれており、可愛らしさと終幕のほろ苦さが同居した象徴的なネーミングとも読める。
Lushというバンドの終盤にあらわれた、“ブリットポップの波に呑まれながらも独自性を模索し続けた姿”を、このアルバムはそっと記録している。
収録曲レビュー(抜粋)
1. Outside World
カラフルでキャッチーな1曲ながら、どこか世界との距離感が感じられる。 “外側の世界”に対する違和感が、ポップさの裏に潜む。
2. Girl’s World
ポップでシンプルな構成だが、少女的な視点で描かれる社会と自我のきしみが不穏な響きを帯びる。
3. I Have the Moon
オリジナルはMary Margaret O’Haraによる美しいバラッド。Lushのカバーは儚く、夢うつつのような質感に仕上がっている。
4. Carmen
ブリットポップ期の明るさを感じさせるが、その裏にある諦観がリリックににじむ。
5. Dear Me
自己への手紙という構造で歌われる、Lushの中でも特にパーソナルでメランコリックな1曲。
6. Tinkerbell
『Scar』期の初期衝動が残るナンバー。リヴァーブの効いたギターと浮遊感のあるヴォーカルが、原点回帰を思わせる。
7. White Wood
アンビエントにも近いサウンド。森の中の孤独、内面の深淵をのぞき込むようなトラック。
総評
『Topolino』は、バンドの公式な“幕引き”直前にリリースされた、静かな別れのアルバムであり、ポップとドリームの狭間で揺れたLushの心象風景を描き出す小さな宝箱である。
派手さはない。だが、“B面”という名の余白には、主張よりも本音が、計算よりも感情がにじむ。
本作を聴くことで、Lushがなぜ“ショーゲイザー”から“ブリットポップ”に移行し、そしてその中間で苦しみ、消えていったのか——その背景が音として浮かび上がってくる。
この作品は、ひとつの時代を終えるための“最後のノート”であり、その響きは、静かだが長く残る。
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