
発売日: 2000年4月25日
ジャンル: フォーク・ロック、カントリー・ロック、アコースティック
銀のように静かで、金のように温かい——Neil Young、穏やかな眼差しで刻む日々の断章
『Silver & Gold』は、Neil Youngが2000年に発表した23作目のスタジオ・アルバムであり、人生の円熟期に差し掛かったヤングが、家庭や友情、時の流れといった私的テーマを、アコースティックな筆致で静かに描き出した作品である。
本作では『Harvest』『Comes a Time』『Harvest Moon』に通じる、柔らかなサウンドと内省的なリリックが再び中心に据えられ、アコースティック・ギター、ハーモニカ、ペダル・スティールなどが織りなす“心の風景”が丁寧に紡がれている。
制作にはベン・キースやエミルー・ハリス、リンダ・ロンシュタットらおなじみの面々が参加しており、まるで家族の集まりのような親密なムードと、老熟したアーティストならではの優しい抒情が全編に漂っている。
全曲レビュー
1. Good to See You
アルバムの導入を飾るシンプルなラヴソング。再会のよろこびを静かに語るその声には、長年の時を超えた温かさがある。
2. Silver & Gold
タイトル曲にして、人生の豊かさを“銀と金”になぞらえた美しい一曲。物質的なものではなく、記憶とつながりこそが“価値”であるというテーマが静かに響く。
3. Daddy Went Walkin’
父親の老年期を優しく描いたカントリー・チューン。ユーモアと愛情、そしてほんの少しの哀しみが交じる、人生の縮図のような物語。
4. Buffalo Springfield Again
自らの出発点であるバンドを回想したノスタルジックな楽曲。「あの頃に戻れるなら、戻りたいか?」という問いが、深い余韻を残す。
5. The Great Divide
別れや心のすれ違いを“深い谷間”に喩えたバラード。静かなメロディの裏に、老境における感情の揺らぎがにじむ。
6. Horseshoe Man
やや皮肉を込めた人物描写。幸運をもたらす“蹄鉄の男”に仮託された社会批評にも読み取れる。 軽快ながら奥行きある一曲。
7. Red Sun
エミルー・ハリスとの美しいハーモニーが映える、穏やかで穏やかで、まるで夕暮れ時のようなセンチメンタル・ソング。
8. Distant Camera
“遠くのカメラ”というユニークな視点から、人生の回顧と未来への希望を語る。 ニールらしい比喩感覚が冴えた楽曲。
9. Razor Love
既に90年代初頭から演奏されていたファン人気の高いナンバー。“剃刀のように鋭い愛”というタイトルに反して、非常に繊細で優しい愛の歌。
10. Without Rings
アルバムのラストを飾る、祈りのような静けさを湛えたバラード。「指輪なしで、それでも心はつながっている」というテーマが、関係の本質を静かに問いかける。
総評
『Silver & Gold』は、Neil Youngが過去を振り返りながらも、現在を慈しみ、未来にささやかな希望を託す“穏やかな記憶のアルバム”である。
ここにあるのは、若さの衝動や政治的メッセージではなく、家族、友人、失われた時間といった“生きるうえで本当に大切なもの”へのまなざしだ。
ヤングの作品の中でもとりわけ“静かで、控えめで、しかし誠実な愛”に満ちた一枚であり、人生の後半にふと立ち止まったときに聴きたくなるような音楽である。
おすすめアルバム
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Harvest Moon / Neil Young
同じくアコースティック主体で愛と自然を描いた、“穏やかさの金字塔”。 -
Comes a Time / Neil Young
家庭的テーマとフォーク・アレンジの温もりが共鳴するアルバム。 -
Prairie Wind / Neil Young
死を間近に感じながらも、生を慈しむように紡がれた珠玉のアコースティック作。 -
Car Wheels on a Gravel Road / Lucinda Williams
家族と過去を見つめる視点が共通する、女性版アメリカーナの傑作。 -
Our Endless Numbered Days / Iron & Wine
優しさと儚さを繊細な音に込めた現代アコースティック・フォークの金字塔。
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