アルバムレビュー：Zuma by Neil Young

アルバムレビュー

2025.04.21

発売日: 1975年11月10日
ジャンル: ロック、カントリー・ロック、ガレージ・ロック

砂に埋もれた怒りと希望——Neil Young、“破壊の夜”を越えたその先で
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砂に埋もれた怒りと希望——Neil Young、“破壊の夜”を越えたその先で

『Zuma』は、Neil Youngが1975年にリリースした通算7作目のスタジオ・アルバムであり、深い喪失と混乱を描いた『Tonight’s the Night』『On the Beach』を経て、“再浮上”を果たした一作である。

タイトルの「Zuma」は、カリフォルニアのZuma Beachに由来しており、荒涼とした海辺の情景を背にしたような、開放感と焦燥感が同居する作品となっている。

バックにはCrazy Horseの新ギタリストとしてFrank “Poncho” Sampedroが加入し、ギターの厚みとジャム的展開がよりエネルギッシュかつ荒削りな味わいを生んでいる。音楽的にはフォーク、カントリー、ロックのバランスが取れた“ザ・ニール・ヤング”な音像だが、その裏には失恋、幻滅、崩壊した理想への痛烈な視線が貫かれている。

全曲レビュー

1. Don’t Cry No Tears
軽快なギターリフとメロディに反して、歌詞は別れを受け入れられない苦悩を描いている。痛みをポップなフォームに乗せるという、ヤングの真骨頂が早くも炸裂。

2. Danger Bird
不穏なギターのうねりが繰り返される7分近いスロー・ジャム。愛と裏切り、自己分裂を暗喩的に語る“感情の鉛”のような楽曲。 Crazy Horseとの長尺インプロが光る。

3. Pardon My Heart
アコースティックとエレクトリックの交差点にあるような優しいラブソング。だがその裏には、愛することの困難さが静かに滲む。

4. Lookin’ for a Love
別れを引きずりながらも新しい愛を求める、どこか楽天的なカントリー・ナンバー。軽快なサウンドの中に中年男の哀愁が漂う。

5. Barstool Blues
“バーのスツール”というタイトルの通り、酔いどれの哲学的モノローグ。ジャジーなコード感と朴訥としたリズムが中毒性を持つ。

6. Stupid Girl
女性蔑視的とも受け取られる歌詞が議論を呼んだナンバーだが、怒りと失望をむき出しにすることで自己の未熟さをも露呈する、危うくも誠実な1曲。

7. Drive Back
グルーヴィーなギターリフが特徴のアップテンポなロック・チューン。後悔と怒りの感情をエネルギーに変換するような、荒々しいカタルシス。

8. Cortez the Killer
アルバムのハイライトにして、ヤング史上もっとも象徴的な楽曲のひとつ。
スペインの征服者エルナン・コルテスと、アステカ文明のロマン化された神秘を対比させながら、文明の暴力、失われた理想、そして神話のなかに自己を投影する壮大な叙事詩。
ギター・ソロは泣くように歌い、沈黙と連なりを繰り返す感情の波そのものである。

9. Through My Sails
Crosby, Stills & Nashとの共演による、穏やかで短いフォーク・ソング。アルバム全体の嵐のあとに訪れるような、小さな静寂と希望の余韻が美しい。