1. 歌詞の概要
「You Only Live Once(ユー・オンリー・リヴ・ワンス)」は、The Strokes(ザ・ストロークス)が2006年に発表した3rdアルバム『First Impressions of Earth』のオープニング・トラックであり、同作を象徴する楽曲であると同時に、彼らのキャリアの中でも特に普遍性のあるメッセージを持った名曲である。
タイトルの「You Only Live Once(人生は一度きり)」という言葉は、のちに“YOLO”というスラングとして定着していくが、ここで歌われているのは単なる享楽主義やポジティブさではない。むしろ、「一度きりしか生きられないのに、なぜ世界はこんなにも不条理なのか?」という静かな怒りとやるせなさが通奏低音として流れている。
曲の語り手は、自己嫌悪と現実への不満、そして無力感に苛まれながら、それでもなお何かを信じたいという微かな希望を抱いている。直接的な主張は避けつつも、現代社会に生きる若者の“消耗”と“反骨”をスマートに歌った一曲である。
2. 歌詞のバックグラウンド
『First Impressions of Earth』は、The Strokesが2001年のデビュー以降確立した“ニューヨークのクールなガレージロックバンド”というイメージを打破しようとした野心作であり、彼らの音楽性がより広がりを見せるアルバムでもある。
「You Only Live Once」はその1曲目として配置されており、ジュリアン・カサブランカスのエモーショナルなボーカルと、緻密に組み立てられたギターフレーズ、リズミカルで跳ねるドラムが絡み合いながら、The Strokesらしいミニマリズムと洗練が融合している。
この曲は、バンド内の緊張関係やレーベルからの期待とプレッシャーの狭間で生まれたと言われており、その“屈折した強さ”がリリックや演奏からも滲んでくる。
歌詞の内容は抽象的ながら、聴き手の解釈次第でさまざまに意味を持つよう構成されており、そこがこの曲の魅力でもある。
3. 歌詞の抜粋と和訳
以下に、「You Only Live Once」の印象的な一節を抜粋し、和訳とともに紹介する。
Some people think they’re always right
いつも自分が正しいって思ってる奴らがいるOthers are quiet and uptight
逆に黙り込んで、堅苦しい奴らもいるOthers, they seem so very nice
表向きはすごく“いい人”に見えるけどInside they might feel sad and wrong
心の中じゃ、きっと悲しさと罪悪感にまみれてるOh me, oh my, oh me, oh my
ああ、僕は、どうすればいいんだろう?You only live once
人生は一度きりなんだ
出典:Genius – The Strokes “You Only Live Once”
4. 歌詞の考察
この楽曲は、「人生は一度きり」という言葉がもつ楽観的な響きとは裏腹に、非常にシニカルで現実的な視線を持っている。
歌い出しで語られるのは、人間の多様性と、それがいかに「誤解」「偽善」「すれ違い」を生むかという観察だ。
ジュリアンはそこに感情的なジャッジを下さない。ただ事実として提示する。
それがかえって、人間という存在の孤独さや不完全さを浮き彫りにしている。
そしてサビで登場する「You only live once」という一言──
これは何かを肯定するための言葉ではなく、むしろ「だったら、こんな不条理に付き合ってる時間はないだろ」と問いかけているようにも聴こえる。
皮肉と理想、怒りと諦め、そのどれにも寄り切らない立ち位置に立ちつつも、リスナーの胸の奥にじんわりと問いを投げかけるような余韻が、この曲にはある。
演奏もまた、感情を煽るのではなく、ドライに、しかし高いテンションを保ち続ける。
ニックとアルバートのギターは絡み合いながらも極めて整理されており、ファブのドラムは躍動しつつも過剰な演出を避けている。
その引き算の美学が、この曲のテーマと深く共鳴しているのだ。
※歌詞引用元:Genius
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Under Control by The Strokes
愛と諦め、落ち着きと混乱が交錯する、ソウルフルでミッドテンポな名曲。 - Automatic Stop by The Strokes
軽やかなリズムに乗せて、欲望と距離感のズレを描いた、クールな一曲。 - Take Me Out by Franz Ferdinand
人生の選択と焦燥をギターリフで爆発させる、2000年代インディーの金字塔。 - No Hope by The Vaccines
「期待しないこと」こそが希望という、若者の皮肉と感情を詰め込んだアンセム。 -
I Wanna Be Adored by The Stone Roses
承認欲求と孤独の交差点を静かに歩むような、ダウナーな美学の名曲。
6. それでも生きるために──“一度きり”の時間を刻むビート
「You Only Live Once」は、The Strokesというバンドの哲学を凝縮したような楽曲である。
それは、ただ「今を楽しもう」といった刹那的なものではない。むしろその裏には、
“今という時間しか残されていないかもしれない”という焦りと、それでも選び取りたい自由が、静かに、しかし力強く響いている。
怒るでもなく、泣くでもなく、叫ぶでもなく──
ただギターを刻み、ビートを繰り返し、声を重ねていく。
そのなかにあるのは、「不完全な自分を、どうやってこの一度きりの人生で肯定するか」という問い。
ジュリアンは答えをくれない。ただ、「君はどう思う?」と問い返してくる。
そして、その問いは聴き終えたあとも、いつまでも耳に残るのだ。
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