1. 歌詞の概要
「You Can’t Always Get What You Want(ユー・キャント・オールウェイズ・ゲット・ホワット・ユー・ウォント)」は、The Rolling Stonesが1969年に発表したアルバム『Let It Bleed』のラストを飾る壮大なバラードであり、同時代のロックにおける“哲学”と“人間性”を最も豊かに体現した一曲として名高い。
タイトルに掲げられたフレーズ「欲しいものを、いつも手に入れられるとは限らない」は、人生の本質を射抜く一言であり、ロックが持つ反骨精神と現実的な諦観を絶妙に融合させたメッセージとして機能している。
この曲は、夢や欲望、恋や薬物、社会といった複数のテーマが、語り口調のような構成の中で描かれていく。そしてサビでは、「でも時には、必要なものを手に入れることができる」と逆説的な光を差し込む。
この“否定からの肯定”の感覚こそが、本曲の最大の魅力であり、人生の複雑さに寄り添う深い共感を呼び起こしてくれる。
2. 歌詞のバックグラウンド
この曲の着想は、1960年代後半、アメリカ社会に蔓延していた理想主義の熱狂と、その背後にある現実の無力感とのギャップから生まれている。
1969年という年は、ウッドストックとアルタモント、月面着陸とベトナム戦争といった“光と影”が交錯した転換点であり、ストーンズはその混乱の時代を静かに見つめていた。
ミック・ジャガーは、この曲を“理想と妥協”についての歌だと語っており、若者が持つ高い期待に対して、「世の中はそんなに思い通りにはいかない。でも…」というメッセージを送っている。
それは冷笑でも説教でもなく、むしろ成熟した“受け入れ”の感覚として表現されている点が特徴的である。
音楽的にもこの曲は異色であり、ロンドン・バッハ合唱団による冒頭の荘厳なコーラス、フレンチホルンの導入、ゴスペル風のフィナーレといった要素は、当時のストーンズが“ロック”の枠を超えて構築しようとしていたスケールの大きさを示している。
3. 歌詞の抜粋と和訳
引用元:Genius Lyrics – The Rolling Stones “You Can’t Always Get What You Want”
You can’t always get what you want
欲しいものを いつも手に入れられるとは限らない
But if you try sometimes / You just might find / You get what you need
でも時には 頑張ってみれば
きっと見つかるさ “必要なもの”を
I saw her today at the reception / A glass of wine in her hand
彼女に会ったんだ レセプションで
ワインを手にしていたよ
I knew she was gonna meet her connection / At her feet was a footloose man
彼女は誰かと繋がるつもりだった
足元には あてのない男がいた
4. 歌詞の考察
この曲は、「欲しいもの=理想」「必要なもの=現実」あるいは「欲望=感情」「ニーズ=本質」といった対比構造を内包しており、人間の内面の揺れを巧みに映し出している。
冒頭のレセプションでの情景描写には、恋愛の終わり、関係のすれ違い、個人の喪失感が含まれており、具体的なストーリーを持ちながらも、それは象徴として一般化されている。
語り手が見つめているのは、単なる個人的な恋ではなく、“人生そのもの”の姿なのだ。
繰り返される「You can’t always get what you want」というラインは、一見すると冷たい真理のようだが、繰り返すごとにそれが“慰め”や“希望”に変化していくのが印象的である。
「But if you try sometimes(でも時には努力すれば)」という逆説的なフレーズによって、完全な諦めではなく、“受け入れながらも進む”という姿勢が浮かび上がってくる。
また、曲が進むにつれて合唱が盛り上がり、楽器が重なり、最後にはゴスペル的なカタルシスへと昇華される構成は、まるで“癒し”や“赦し”の儀式のようであり、痛みを抱えながらも前を向くための音楽的な祈りにも思える。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Let It Be by The Beatles
混乱と喪失の中で“あるがままを受け入れる”という精神を歌った名バラード。「You Can’t~」と共鳴するテーマを持つ。 - The Weight by The Band
人生の重荷と、それを他者と共有することの意味を描いた名曲。人間の弱さと優しさが響き合う。 - Tangled Up in Blue by Bob Dylan
時間と感情が交差する、人生の複雑さを描いた叙情的ロック。ストーンズの哲学性と並ぶ深さ。 - Bridge Over Troubled Water by Simon & Garfunkel
困難の中での支えと赦しの歌。音楽が持つ“包容力”という点で共通する。
6. 人生の真実を“歌”として受け止めるということ
「You Can’t Always Get What You Want」は、1960年代という理想と革命の時代の終わりに響いた、現実との“和解の歌”である。
それは夢を否定するものではなく、むしろ“夢に裏切られたあとに、どう生きるか”を静かに語りかける。
ストーンズはしばしば快楽主義や反逆精神の象徴として語られるが、この曲において彼らは、誠実な人間の姿を見せる。
満たされない思い、失ったもの、手に入らなかった愛——それでも、生きることは続くし、必要なものは時に意外な形で与えられる。
この曲は、若さの終わりと成熟の入り口に立つすべての人へ贈られた“人生讃歌”なのだ。
失望を経験したことのあるすべての人が、この歌のサビに込められた力強さに、きっと心を打たれるだろう。
そしてふと気づく。「欲しかったものじゃないけど、これでよかったのかもしれない」と。
そんなふうに、私たちは少しずつ、“必要なもの”に近づいていくのかもしれない。
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