アルバムレビュー：WYSIWYG by Chumbawamba

アルバムレビュー

2025.06.15

発売日: 2000年3月28日
ジャンル: ポリティカル・ポップ、アヴァン・ポップ、エレクトロ・ロック、カットアップ・サンプリング

概要
全曲レビュー（ハイライト）
総評
おすすめアルバム（5枚）
後続作品とのつながり

概要

『WYSIWYG』（What You See Is What You Getの略）は、チャンバワンバが2000年にリリースした9作目のスタジオ・アルバムであり、
前作『Tubthumper』で得た世界的成功ののち、**より実験的かつ風刺的な方向へと振り切った“アンチ・ポップのポップアルバム”**である。

本作の最大の特徴は、アルバム全体を通して22曲（うち半数以上が1〜2分台）という断片構成で構成されており、
楽曲というよりはポップ・カルチャーに対する音響コラージュ的モンタージュとして設計されている点にある。
その中身は、消費社会、アイドル文化、右翼ナショナリズム、企業広告、宗教、メディア偽善など、
あらゆる“表面化された社会”をテーマにしたサウンド風刺画といえる。

タイトル「WYSIWYG」が示す通り、
現代社会における“見えているものがすべて”というビジュアル中心主義／フェイク時代への批判が全体を貫いており、
チャンバワンバはここで“ポップを裏返す”という前代未聞の形式に挑んだ。

全曲レビュー（ハイライト）

1. I’m with Stupid
冒頭から炸裂するナンバー。政治家の嘘と市民の盲従を風刺する、
「バカに付き合う自分もバカだ」と開き直るユーモアが痛烈。

2. Hey Hey, We’re the Junkies
タイトルはモンキーズのもじり。薬物依存と消費文化を結びつけ、ポップ音楽の“中毒性”を反転させる構成が秀逸。

3. Dumbing Down
メディアによる「意図的な思考停止」を糾弾する代表曲。
繰り返されるフレーズ“Are you dumb enough?”が痛烈に響く。

4. Celebration
Kool & the Gangの同名曲を模した皮肉なパロディ。
明るい曲調で“空虚な祝祭”を描き出す、逆説の応援歌。

5. Jesus in Vegas
宗教と商業主義の結託を描いたサイケデリックな佳曲。
イエス・キリストが“ラスベガスに出演中”という設定が風刺的かつ寓話的。

6. Smart Bomb
ミリタリズムとテクノロジー礼賛に対する怒りを、機械音声とエレクトロの断片で構成。
“賢い爆弾”という言葉自体がすでに矛盾の象徴。

7. Pass It Along
権力批判と連帯の呼びかけをストレートに歌った、比較的“普通の楽曲”として際立つ一曲。
耳に残るメロディとコーラスが美しい。

8. Ladies for Compassionate Lynching
皮肉と風刺の極致。
「“思いやりのあるリンチ”」という矛盾語法で、偽善的な人道主義を叩く。

9. I’m Coming Out
タイトルに対する期待を裏切り、性的カミングアウトではなく“企業の仮面剥がし”を描くナンバー。
意味の反転がチャンバワンバらしい。

10. 90s 90s 90s
90年代文化を皮肉に回顧するスキット的楽曲。TV、ファッション、音楽、全部が“つまらなかった”と一蹴する快感。

総評

『WYSIWYG』は、チャンバワンバがポップの殿堂から一歩引き、**ポップの正体を暴きにかかった“音のメディア解体書”**である。

その構造は奇抜だが、決して混乱していない。むしろそこには、
**ポップを知り尽くした者にしかできない“ポップへの裏切り方”がある。
22曲という断片構成は、情報過多で短絡化された現代のメディア消費に対する批評でもあり、
このアルバムそのものが、“フェイク社会のポップ・ミラー”**として機能している。

そして何より、『Tubthumper』の次作でこれを出したという選択こそ、
チャンバワンバの一貫した誠実さと反抗心の証拠なのだ。