1. 歌詞の概要
「Wounds of Love（ウーンズ・オブ・ラブ）」は、ブルックリンを拠点に活動するシンセ・ポストパンク・バンド、Nation of Language（ネイション・オブ・ランゲージ）が2021年に発表した2ndアルバム『A Way Forward』に収録された楽曲である。
この曲が描いているのは、「愛によって刻まれる傷」——つまり、人を愛することがもたらす歓びと痛み、そしてその痛みさえも愛の証として受け入れていく過程である。
恋愛や関係性のなかで、どれだけ心が傷つこうとも、それを「自分が生きてきた証」として肯定していこうとする強さと、同時に、それを乗り越えることの難しさが、静かに、しかし鮮やかに刻まれている。
サウンドは1980年代のニューウェーブの系譜を汲みつつ、現代的に再解釈されたミニマルで煌めくシンセとメロディが特徴的であり、甘美さと哀愁が交錯するサウンドスケープが、まさに“愛の傷”という曖昧で複雑な感情を音のかたちにしている。
2. 歌詞のバックグラウンド
「Wounds of Love」は、アルバム『A Way Forward』のなかでも特にエモーショナルな楽曲のひとつであり、ヴォーカルのイアン・デヴァニーがこれまで語ってきたように、人間関係の終わりとその余韻に対する内省がテーマとなっている。
Nation of Languageは、その音楽性だけでなく、感情を抽象化しながらも“誰の心にも刺さる普遍性”へと変換する詩作で高く評価されており、この曲も例外ではない。
デヴァニーはこの曲について「愛は必ずしも報われないし、むしろその傷によってこそ、愛の存在が証明されると感じることがある」と語っており、この楽曲ではその矛盾が見事に音と詞のあいだで共鳴している。
3. 歌詞の抜粋と和訳
Do I seek the wounds of love?
Or do I fear them all the same?
僕は「愛の傷」を求めているのか？
それとも、同じくらい恐れているのか？
Every moment that we touch
Leaves a mark I can’t explain
君と触れ合う一瞬一瞬が
言葉では言い表せない痕跡を残していく
When you’re gone, I start to crave
All the aches that used to stay
君がいなくなると
かつては苦しんでいた痛みを
なぜか、また欲しがっている自分がいる
I wear the wounds of love
Like medals on my skin
愛の傷を
まるで勲章のように
この肌に刻みながら生きている
歌詞引用元：Genius – Nation of Language “Wounds of Love”
4. 歌詞の考察
「Wounds of Love」は、タイトルの通り**“愛に傷つくこと”そのものをテーマにしているが、それは決してネガティブな響きだけではない**。
むしろ、語り手はその傷を“勲章”のように受け止め、「それでも、愛していたことに意味がある」と静かに肯定していく。
この楽曲の特異な点は、愛と痛み、執着と解放、欲望と記憶が曖昧なまま絡み合っているところにある。
「愛されたくて愛したのか、それとも傷つくことを恐れながらも、なお求めてしまったのか」という問いは、聴き手自身の過去の記憶とも共鳴するだろう。
また、「I wear the wounds of love like medals on my skin（愛の傷を肌に刻まれた勲章のように着ている）」という表現には、人間の脆さと強さが同居する奇跡的な美しさがある。
それはまさに、感情を武器にも防具にも変えず、ただ“あるがまま”に持ち歩くという成熟のかたちである。
Nation of Languageの詩は、あいまいでありながら、非常に“確信的”でもある。
この曲も、愛にまつわる美しい矛盾をそのままに提示することで、聴き手に答えではなく“思考の余白”を与えているのだ。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Love Will Tear Us Apart by Joy Division
愛がもたらす破壊と結びつきの矛盾を、切実に描いたポストパンクの名曲。 - Heartbeats by The Knife
短くも鮮烈な愛の痕跡を、エレクトロニックなビートで冷たくも温かく綴る一曲。 - Say Hello, Wave Goodbye by Soft Cell
別れと愛の記憶を、演劇的にかつ情熱的に描いた80年代バラードの傑作。 -
Reunion by M83
愛の再会、あるいは記憶の中で何度も繰り返される“終わりと始まり”の永遠性を描く楽曲。 -
Motion Sickness by Phoebe Bridgers
愛と距離、支配と解放、感情のめまいを描いた現代のリアルなポップソング。
6. 傷があるからこそ、愛は本物になる
「Wounds of Love」は、人を愛することで生まれる“痛み”そのものを肯定することで、人間の感情の深さと矛盾を美しく表現した楽曲である。
Nation of Languageは、痛みを避けるのではなく、その痛みがもたらす“生の実感”を祝福するような眼差しでこの歌を紡いでいる。
それは、「傷があっても、いや、傷があるからこそ、自分は誰かを愛したのだ」という静かな誇りを含んでいる。
「Wounds of Love」は、感情の傷跡を隠さず、そのまま身にまとうすべての人へのアンセムである。
それらの傷は、消えることはないかもしれない。でも、Nation of Languageはその傷を“勲章”と呼び、私たちにこう告げている——
**「それでも、愛したことに意味がある」**と。
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