アルバムレビュー:With the Beatles by The Beatles

発売日: 1963年11月22日
ジャンル: ロックンロール、マージービート、ポップロック


嵐の前の静かなる熱狂——加速する“ビートルズ現象”の胎動

With the Beatlesは、1963年11月にリリースされたビートルズの2枚目のスタジオ・アルバムである。
デビュー作Please Please Meの熱狂が冷めやらぬ中、わずか8ヶ月で発表されたこのアルバムは、バンドとしての勢いと確信に満ちている。

オリジナル楽曲とカバー曲が半々という構成ながら、その完成度は当時のポップミュージックの基準を大きく塗り替えるものだった。
ビートルズ特有の“マージービート”はこの頃すでに確立されており、シンプルでタイトなアンサンブル、耳に残るメロディ、若者特有の情熱と不安が渾然一体となって響く。

まだ“世界のビートルズ”になる前——だが、ここにはすでに、それが「時間の問題」であることを示すサウンドが詰まっているのだ。


全曲レビュー

1. It Won’t Be Long

軽快な“Yeah Yeah”コーラスが印象的な、アルバムの幕開けにふさわしい1曲。
ジョン・レノン主導のアップビートなラブソングで、ビートの押し出しが力強い。

2. All I’ve Got to Do

スモーキーでスロウなソウルフレーバー。
ジョンのヴォーカルが黒人音楽への憧れを感じさせる、隠れた佳曲。

3. All My Loving

ポール・マッカートニーによるリード曲で、疾走感あるギターとメロディラインが心地よい。
後にライブでも人気を博す定番ナンバーとなる。

4. Don’t Bother Me

ジョージ・ハリスンが初めて単独で書いたオリジナル曲。
タイトル通りの内向的な空気感が、彼らしさの萌芽として興味深い。

5. Little Child

ジョンとポールの共作。
ブルージーでロッキンな仕上がりだが、ややB面然とした印象もある小品。

6. Till There Was You

ミュージカル『The Music Man』からのカバー。
アコースティックなアレンジとポールの甘い歌声が際立ち、当時の幅広いリスナー層を意識した選曲でもある。

7. Please Mr. Postman

モータウンのヒット曲(オリジナルはThe Marvelettes)のカバー。
力強いコーラスと、ビートルズ流のハーモニーが炸裂するエネルギッシュな仕上がり。

8. Roll Over Beethoven

チャック・ベリーの名曲をジョージがリード。
ギターのキレ味と勢いが抜群で、バンドのルーツとライブ感を感じさせる。

9. Hold Me Tight

ビートとハーモニーが全面に出た、典型的な初期ビートルズ・サウンド。
やや平凡ながら、ポップ職人としての手腕がにじむ。

10. You Really Got a Hold on Me

スモーキー・ロビンソン&ザ・ミラクルズのカバー。
R&Bへの深い敬意と愛情が伝わる、情感たっぷりの演奏。

11. I Wanna Be Your Man

リンゴ・スターがヴォーカルを取るエネルギッシュなロックンロール。
ミック・ジャガーとキース・リチャーズに提供したバージョン(The Rolling Stones)と聴き比べるのも一興。

12. Devil in Her Heart

Donaysのマイナー曲を取り上げたカバー。
ハーモニーの美しさとギターの軽快さが際立つ好演。

13. Not a Second Time

ジョンによるミッドテンポのバラード。
メロディとコード進行に実験的要素が見え、音楽的野心を感じさせる。

14. Money (That’s What I Want)

アルバムの締めを飾る、バレット・ストロングのカバー。
ジョンのシャウトが炸裂し、演奏の荒々しさも含めて迫力満点のラストを演出。


総評

With the Beatlesは、初期ビートルズの創造性とバンドとしての結束が、鮮やかに刻まれた記録である。
カバーとオリジナルのバランスは絶妙で、メンバーそれぞれの個性もにじみ始めている。
演奏・アレンジ・歌唱すべてにおいて洗練されつつありながら、その若さゆえの衝動や無垢さが、何より魅力的に響く。

本作がリリースされた翌年には、ビートルズは世界を席巻する。
その直前の“無垢な瞬間”を、ここで味わうことができるのだ。
歴史の中の1ピースではなく、ロックが「ポップカルチャー」へと成長する過程の生きた記録として、今なお新鮮に響く。


おすすめアルバム

  • Please Please Me by The Beatles
     ——デビュー作にして、ラフな魅力とエネルギーが詰まったロックンロール原石。

  • A Hard Day’s Night by The Beatles
     ——全曲オリジナルで構成された初のアルバム。ポップメロディの完成度が光る。

  • Beatles for Sale by The Beatles
     ——ツアー疲れの影が差し込む、成熟への過渡期を映した作品。

  • Out of Our Heads by The Rolling Stones
     ——同時代のライバルがR&Bカバーに注力した初期代表作。

  • Meet the Supremes by The Supremes
     ——モータウン・サウンドの名盤。ビートルズが影響を受けたアメリカンR&Bの源流。

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