1. 歌詞の概要
「Wishing」は、デンマーク発の姉妹ポップデュオS.O.A.P.（Sisters of Asian Pacific）が1998年にリリースしたデビュー・アルバム『Not Like Other Girls』に収録されている一曲である。全体を通して「願うこと（Wishing）」をテーマに据えたこの楽曲は、ティーンエイジャーならではの内面的な孤独、恋愛への憧れ、現実と夢のあわいで揺れ動く繊細な心情を瑞々しく描き出している。
軽快なポップビートに乗せて歌われるこの曲には、「自分の気持ちを伝えることができないまま、ただ願い、想い続ける」切なさと、叶わないことを知っていてもそれでもなお祈るように誰かを想うという、真っ直ぐな感情が込められている。
2. 歌詞のバックグラウンド
S.O.A.P.は1990年代後半のヨーロッパにおけるティーンポップ／ユーロポップブームの中で登場した存在であり、AquaやVengaboysと並び語られることも多いユニットである。彼女たちのデビュー作『Not Like Other Girls』には、躍動感と可愛らしさ、そしてどこかノスタルジックな透明感が同居していた。
「Wishing」は、そんなアルバムの中でも特に叙情的なトーンを持つ楽曲で、他のアップテンポなパーティーチューンとは一線を画す存在である。日常にある静かな時間、恋に揺れる心、言葉にできない思いがふとした瞬間にこぼれ出るような、そんな“夜の独り言”のような空気をまとっている。
3. 歌詞の抜粋と和訳
I’m sitting here, wishing you were near
ここに座って、あなたがそばにいてくれたらと願っているThe sky is dark, but I see your face
空は暗いけれど、私はあなたの顔が見えるI whisper words you’ll never hear
あなたには届かない言葉をそっとつぶやいてHoping someday, you’ll take my place
いつか、あなたが私のそばに来てくれることを願ってAnd all I can do is wishing
私にできるのは、願うことだけ
引用元：Genius Lyrics – S.O.A.P. / Wishing
4. 歌詞の考察
この楽曲に込められているのは、「想いの一方通行」に対する切実な感情である。好きな人に気持ちを伝えられないもどかしさ、届かないとわかっていても、想いが止められない心の葛藤。それらを「Wishing＝願う」という静かな行為に託すことで、派手なドラマはないけれど、胸の奥に残る印象的な余韻を生み出している。
また、「あなたには聞こえない」「あなたはここにいない」というフレーズが何度も繰り返されることで、相手との距離や、交わらない現実が鮮明に浮かび上がってくる。これはただの恋の歌ではなく、ある意味では「孤独との対話」であり、「自分の内なる世界を受け入れる過程」とも読み取れる。
「Wishing」は、10代という繊細な時期にしか抱き得ない、曖昧で不確かな感情を肯定する歌なのだ。だからこそ、激しい感情の爆発ではなく、ささやきのように語りかけるこの楽曲は、多くのリスナーの心の深い場所に静かに寄り添ってくる。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- “Only Hope” by Mandy Moore
静謐なピアノの旋律と、祈るような恋心を描いた珠玉のバラード。 - “Truly Madly Deeply” by Savage Garden
想いの深さと優しさが溶け合った、心を包むラブソング。 - “Foolish Games” by Jewel
感情のすれ違いと儚さを静かに綴った、アコースティックな名曲。 - “Sometimes” by Britney Spears
「自信がないから気持ちを伝えられない」という不器用な愛を歌ったティーンポップの名バラード。 - “Why” by Annie Lennox
終わりを知りながらも相手を想い続ける、成熟した切なさを歌う楽曲。
6. 静かな願いが響かせる、もうひとつの“声”
「Wishing」は、大声で叫ぶような愛ではなく、夜の静寂の中でぽつりと浮かぶ想いに耳を傾けるタイプのラブソングである。それは、今の時代のSNSや即時的な表現とは対照的な、じっくりと熟成されるような感情のかたちだ。
S.O.A.P.の他のダンスチューンとは異なり、この曲では感情の“音のない振動”を聴かせてくれる。誰かを想うことがどうしようもなく孤独で、でもその孤独が美しいものになりうることを、この楽曲はそっと教えてくれるのだ。
夜が深まるにつれて、ふと胸に浮かぶ誰かの面影。届かない言葉を胸に抱きながら、それでも願う。その静かな行為にこそ、真の強さと優しさが宿っているのかもしれない。S.O.A.P.の「Wishing」は、そんな夜にぴったりの、やさしい“ささやき”である。
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