発売日: 2001年7月1日
ジャンル: ポストパンク、オルタナティヴロック、ドリームポップ
概要
『Why Call It Anything』は、The Chameleonsが17年の沈黙を破って2001年に発表した再結成後初のスタジオ・アルバムである。
1980年代後半、マネージャーの急逝とバンド内の緊張を背景に解散して以来、長らく沈黙を保っていた彼らが、2000年代に入り突如として奇跡的な復活を果たす。
その成果が結実したのがこのアルバムであり、かつての空気感を保ちながらも、成熟と静かな情熱を湛えた作品として高く評価された。
タイトルの「なぜ、それに名前をつけるのか(Why Call It Anything)」という一言には、カテゴライズや意味づけを超えた場所から音楽を鳴らそうとする意思が込められている。
過去の自分たちの影に縛られることなく、それでも明らかにThe Chameleonsらしいサウンドである本作は、再結成アルバムの中でも極めて誠実で自然な進化を示している。
全曲レビュー
1. Shades
アルバムの幕開けを飾るのは、ミッドテンポで静かな情熱を湛えたこの曲。
「影」というタイトルが象徴するように、過去の痛みや記憶が音の中に漂っている。
ギターのアルペジオは繊細ながらも芯があり、再結成後とは思えぬ完成度を感じさせる。
2. Anyone Alive?
バンドが現代のリスナーへ向けて放つ問いかけのようなタイトル。
焦燥と渇望が滲むサウンドは、2000年代初頭の社会的閉塞感にもリンクする。
空間的なギターが生み出す拡がりは、まさにChameleonsならでは。
3. Indiana
ややアメリカーナ的なムードも感じさせる、異色のミドル・チューン。
「場所」と「記憶」が交錯するリリックは、旅や過去へのノスタルジアを呼び起こす。
シンセの導入も効果的で、音に柔らかさが加わっている。
4. Lufthansa
航空会社の名を冠したこの曲は、移動や離別を暗示する。
リズムはしっかりとビートを刻み、浮遊感あるギターが旋律の背後で波のように揺れる。
タイトルとは裏腹に、地に足のついたメロディが印象的。
5. Truth Isn’t Truth Anymore
本作の核心とも言える楽曲。
「真実はもはや真実ではない」という逆説的なフレーズが、現代社会の情報過多や信頼崩壊を象徴している。
激しい感情をむき出しにすることなく、深く沈み込むような語り口で展開される。
6. All Around
バンド全体のアンサンブルが絶妙に絡み合う、美しいギター・ロック。
マーク・バージェスのヴォーカルは、かつてよりも低く、そして温かい。
再結成による再出発を象徴するような開放感も感じられる。
7. Dangerous Land
荒涼としたギターリフが印象的な一曲。
「危険な土地」とは、社会そのものか、自身の心象風景か。
80年代よりも成熟した語り口が、より一層の重みを持って響く。
8. Music in the Womb
非常に詩的で、象徴的なタイトル。
“胎内の音楽”とは、生まれる前の記憶か、音楽の起源か。
リズムは静かに鼓動を打ち、音像は内省的で瞑想的な響きを持つ。
9. Miracle
ラストを飾るにふさわしい、美しく穏やかな曲。
再結成そのものが“奇跡”であることを静かに語るように、希望と余韻を残してアルバムを締めくくる。
悲しみを包み込みながら、それでも未来へと向かう眼差しを感じる。
総評
『Why Call It Anything』は、The Chameleonsというバンドの精神が、年月を経てもなお生き続けていることを静かに証明する作品である。
再結成という文脈を抜きにしても、極めて高い音楽的完成度を誇り、特にメロディとアレンジにおける繊細さは過去作以上とも言えるほど。
本作には怒りも焦燥もあるが、それらは爆発するのではなく、深い静けさの中でじっくりと発酵し、成熟した情感へと昇華されている。
20世紀と21世紀の狭間で、自己の過去と未来を同時に見つめたかのような視線。
それは、すべてを言葉にせずとも伝わる何かがある——という信念の表れなのだろう。
おすすめアルバム(5枚)
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For Against – Coalesced (2002)
同時期のポストパンク・リバイバルにおける静謐で知的な傑作。再結成の精神性に近い。 -
Mark Burgess & The Sons of God – Zima Junction (1993)
バージェスの内面性が色濃く出たソロ的作品。『Why Call It Anything』の源流として重要。 -
The Church – After Everything Now This (2002)
ドリーミーで大人びたギター・ロック。Chameleons同様、成熟したポストパンクの再構築が聴ける。 -
The Sound – Thunder Up (1987)
ポストパンク後期の成熟を刻んだラスト・アルバム。静かな激しさと繊細な表現が共通。 -
The Lucy Show – Mania (1986)
80年代のメランコリック・ギター・バンドの佳作。情感と旋律美の融合において共鳴する。
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