
楽曲の概要
「Who Killed Bambi?」は、Sex Pistols名義の1979年のアルバム『The Great Rock ’N’ Roll Swindle』に収録された楽曲である。ただし、一般にイメージされるジョニー・ロットンが歌うSex Pistolsの録音とはかなり事情が違う。リード・ボーカルを担当しているのは、後にTenpole Tudorを率いるEdward Tudor-Poleで、作詞・作曲もTudor-PoleとVivienne Westwoodの共作としてクレジットされている。現在の公式配信クレジットではSteve Jonesがギター、ベースなど、Paul Cookがドラムを担当し、Dave Goodmanがプロデューサーとして記載されている。
さらにAndrew Jackmanによるオーケストラ・アレンジが大きな特徴であり、荒々しいパンク・ロックと大げさな弦楽器が正面から衝突する異色の曲になっている。もともとのSex Pistolsは1978年初頭には事実上崩壊しており、『The Great Rock ’N’ Roll Swindle』にはメンバー以外の歌唱、カバー曲、別録音、オーケストラ版などが入り乱れている。「Who Killed Bambi?」もその混沌の中から生まれた曲であり、完成されたバンドの作品というより、Sex Pistolsという名前が映画、ファッション、悪ふざけ、マーケティングまで含む巨大な騒動へ変わっていった時期をよく表している。
歌詞の概要
歌詞は、幼く無垢な存在であるバンビが殺されたという架空の事件を、大事件のように騒ぎ立てるところから始まる。冒頭ではバンビが自然の中に生まれた美しい存在として描かれ、その死を悲しむ調子が強い。しかし曲が進むと、その哀悼は急速に誇張され、犯人を見つけ出せ、誰かが怒るべきだ、という集団的な叫びへ変わっていく。悲しい童話のように始まったものが、いつの間にかパンクの群衆による騒動になってしまうのである。
もちろん、これはディズニー映画『バンビ』を忠実に説明した歌ではない。そもそも『バンビ』で撃たれて死ぬのはバンビ本人ではなく母親である。Tudor-Pole自身も後年、この基本的な事実をかなり長い間勘違いしていたことを冗談めかして語っている。その間違いまで含めて、「Who Killed Bambi?」という題名は正確な物語の説明ではなく、誰かを犯人に仕立てて騒ぐための刺激的なスローガンとして機能している。
歌詞の途中にはヒッピーへの不信を露骨に示す言葉や、「punky Bambi」という奇妙な呼び方も登場する。ここでバンビは単なる鹿ではなく、純粋で傷つきやすい若者や、商業社会に食い物にされるパンクそのものを思わせる存在にもなる。ただし、歌詞が一つの明確な寓意を提示しているわけではない。真面目な哀悼、ブラックユーモア、パンク内部の挑発、意味のない騒々しさが故意に混ざっているところが、この曲らしい。
制作背景・時代背景
「Who Killed Bambi?」という言葉は、この曲より前からSex Pistols周辺に存在していた。1977年、マネージャーのMalcolm McLarenはSex Pistolsを題材にした映画を企画し、『Beyond the Valley of the Dolls』などで知られるRuss Meyerを監督に迎えた。その脚本には映画評論家として知られるRoger Ebertも参加し、当初『Anarchy in the U.K.』と呼ばれていた企画について、Ebertが「Who Killed Bambi?」という新しい題名を提案したことを後に明かしている。
しかしMeyer版の映画は資金や制作上の問題によって頓挫した。Sex Pistolsそのものも1978年1月のアメリカ公演後に崩壊し、Johnny Rottenはバンドを離れる。そこからMcLarenとJulien Templeが別の形で映画企画を進め、最終的に『The Great Rock ’N’ Roll Swindle』へつながった。同名アルバムは映画に先駆けて1979年に発売され、「Who Killed Bambi?」もその一部として世に出ることになった。
ここで重要なのは、この時期の「Sex Pistols」が通常の意味での四人組バンドではなくなっていたことだ。『The Great Rock ’N’ Roll Swindle』にはPaul CookやSteve Jonesが中心になった曲、Sid Viciousのカバー、Malcolm McLaren自身の歌唱、Edward Tudor-Poleの参加曲などが混在している。その雑多さ自体が、「ロックンロールは誰のものなのか」「スターのイメージは誰が作るのか」というMcLaren流の仕掛けの一部だった。「Who Killed Bambi?」の奇妙なオーケストラ・パンクも、その状況から切り離して考えると理解しにくい。
歌詞の抜粋と和訳
“Who killed Bambi?”
和訳:誰がバンビを殺した?
この問いは曲中で何度も反復されるが、犯人を本当に突き止めようとしているわけではない。繰り返すほど言葉から具体的な意味が抜け、観客全員が叫べる掛け声へ変わっていく。事件について説明する文章だったはずの言葉が、パンクのスローガンになる。その変化が、この曲のユーモアと不気味さの両方を作っている。
サウンドと歌詞の考察
「Who Killed Bambi?」で最も耳を引くのは、パンク・ロックとオーケストラを自然に融合させようとしていないことである。Andrew Jackmanによる弦のアレンジは、ギターの背景を上品に彩る程度ではなく、曲の表面へ大きくせり出してくる。甘く劇的なストリングスと、荒々しいドラムやギター、Tudor-Poleの大声が同時に鳴るため、悲劇的な映画音楽と酔っぱらったパンクの合唱が無理やり接続されたように聞こえる。この「似合わなさ」が欠点ではなく、曲そのものの笑いになっている。
冒頭では比較的叙情的な旋律とオーケストラが使われ、歌詞も若い生命の死を悼むような調子で進む。Tudor-Poleも完全なパンク・シャウトではなく、どこか芝居がかった歌い方をしており、大げさな悲劇を演じているような感覚がある。しかしタイトルの問いが出てくると曲の性格が急に変わり、同じ短い言葉がしつこく反復される。細かな心理描写から遠ざかり、群衆が一斉に叫ぶこと自体が目的になっていくのである。
その反復にはSex Pistols本体の「Anarchy in the U.K.」や「God Save the Queen」とは違うタイプの攻撃性がある。Johnny Rottenの歌では、皮肉な言葉遣いや独特のアクセントによって一行ごとの意味が強く残る。それに対して「Who Killed Bambi?」では、言葉を何度も繰り返すうちに意味そのものが崩れていく。誰が殺したのかという疑問は解決されず、ただ声量だけが増していく。怒りの対象より、怒っている集団の姿のほうが目立ってくるのである。
Tudor-Poleの声もこの効果を強めている。Rottenのような冷笑的な響きではなく、もっと直線的で、舞台俳優のように声を張る。そのため殺人事件への憤りを叫んでいるはずなのに、どこかミュージカル的で滑稽に聞こえる。Tudor-Poleは俳優としても活動する人物だが、この録音でも言葉を「歌う」というより役柄として演じるような感覚が強い。後のTenpole Tudorで聞かれる、パブの大合唱にも似た豪快な歌い方の原型を感じさせる。
リズムは複雑ではなく、一定の速さを保ちながらまっすぐ進む。ドラムとギターが基本的なロックの骨組みを作ることで、その上に乗るオーケストラの異様さがいっそう目立つ。もし伴奏まで繊細な室内楽に寄せていたら、単なるパロディー・バラードになっただろう。逆に弦を排除すれば、単純なパンクのノベルティ・ソングになった可能性が高い。両者を強引に同時に鳴らしたことで、どちらにも完全には分類できない音になっている。
歌詞とサウンドの関係も同じである。バンビの死という素材は、本来なら哀れみや悲しみを誘う。しかし曲はそれを静かに悼まず、殺人事件の見出しのように刺激的な問いへ変えてしまう。さらにオーケストラまで動員して大げさに悲劇化することで、感情そのものが商品やショーになる過程を見ているようにも聞こえる。これは後から意味を与えすぎる必要はないものの、『The Great Rock ’N’ Roll Swindle』全体がSex Pistolsという現象を商売、神話、茶番として描いた作品であることとはよく噛み合っている。
曲の後半ではタイトルの反復が圧倒的に多くなり、ストーリーはほぼ停止する。それでも音楽は進み続け、問いだけが残る。ここには「答えが重要なのではなく、騒ぎ続けることが重要」という倒錯した面白さがある。パンクが社会への問いを投げる音楽だとすれば、「Who Killed Bambi?」はその形式だけを巨大化して、中身がほとんどなくなっても人々は叫べるのか、とからかっているようにも聞こえる。
その意味で、この曲を『Never Mind the Bollocks』の延長として評価するのは少しずれる。「Anarchy in the U.K.」のような切迫した政治的・社会的挑発ではなく、Sex Pistolsがすでに解散状態になった後、そのイメージがどこまで奇妙な娯楽へ加工できるかを示した録音だからである。バンドの「純粋なパンク」の代表曲ではないが、Sex Pistolsという名前が音楽だけでは説明できない文化的騒動だったことを理解するには、むしろ非常に分かりやすい一曲になっている。
この曲が好きな人におすすめの曲 5曲
「Silly Thing」 by Sex Pistols
同じ『The Great Rock ’N’ Roll Swindle』期の曲で、Johnny Rotten脱退後のCookとJonesが中心。こちらはオーケストラではなく、簡潔でキャッチーなギター・ロックへ寄せている。
「The Great Rock ’N’ Roll Swindle」 by Sex Pistols
Sex Pistolsの神話そのものを茶化すアルバム表題曲。「Who Killed Bambi?」以上に、バンド、商売、虚構の境界をわざと曖昧にするSwindle期の考え方が前面に出る。
「My Way」 by Sid Vicious
有名なスタンダードを破壊的なパンクへ変えた録音。既存の文化を丁寧に継承するのではなく、悪趣味なほど大げさに作り替える姿勢が「Who Killed Bambi?」とつながる。
「Swords of a Thousand Men」 by Tenpole Tudor
Edward Tudor-PoleがTenpole Tudorとして1981年にヒットさせた曲。大勢で叫べるコーラスと芝居がかった歌唱が強く、「Who Killed Bambi?」のボーカルの個性を追うのに適している。
「Rock Around the Clock」 by Sex Pistols feat. Edward Tudor-Pole
Tudor-Poleが『The Great Rock ’N’ Roll Swindle』周辺で歌ったもう一つの録音。ロックンロールの古典を乱暴でコミカルなパンクへ変換する感覚を比較できる。
まとめ
「Who Killed Bambi?」はSex Pistols名義ではあるものの、Johnny Rotten時代の代表曲とは別物である。Edward Tudor-PoleとVivienne Westwoodが書き、Tudor-Poleの芝居がかった歌唱、Steve JonesとPaul Cookによるロックの骨格、大げさなオーケストラを重ねることで、悲劇と悪ふざけの区別がつかない音を作っている。タイトルの問いも答えを求めるものではなく、反復されるほど意味を失って集団的な掛け声へ変わる。解散後のSex Pistolsが音楽グループから映画、宣伝、神話化を含む「商品」へ変質していく過程を考えると、この奇妙さそのものが『The Great Rock ’N’ Roll Swindle』期をよく表している。
参照元
- Universal Music Japan『ザ・グレイト・ロックンロール・スウィンドル』
- Apple Music「Who Killed Bambi? (feat. Edward Tenpole)」楽曲クレジット
- MusicBrainz『The Great Rock ’N’ Roll Swindle』リリース/楽曲クレジット
- Roger Ebert「Who Killed Bambi? – A Screenplay」
- Punky Gibbon「Sex Pistols – Silly Thing / Who Killed Bambi」
- Louder Than War「Edward Tudor Pole」

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