When I Win the Lottery by Camper Van Beethoven(1989)楽曲解説

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1. 歌詞の概要

Camper Van Beethovenの「When I Win the Lottery」は、1989年のアルバム『Key Lime Pie』に収録された楽曲であり、アメリカン・ドリームの裏側に潜む欲望、皮肉、そして暴力的なまでの階級意識を赤裸々に描いた作品である。タイトルの通り、「宝くじに当たったら」という一種の願望を描く形式をとっているが、その内容は決して明るく楽観的なものではない。むしろ、それは社会に対する鬱屈と軽蔑が滲み出た、冷笑的なモノローグのような語り口で進行していく。

曲は、貧困や社会の片隅で生きる語り手の視点から始まり、「金を手にしたら全員に仕返ししてやる」と言わんばかりの怒りと皮肉が込められた展開へと発展していく。その荒んだユーモアと、どこかニヒリスティックな世界観は、Camper Van Beethovenの後期の特徴であるよりダークで複雑な作風を象徴する一曲となっている。

2. 歌詞のバックグラウンド

Camper Van Beethovenは1980年代半ばから活動していたが、1989年にリリースされた『Key Lime Pie』は、彼らにとって最後のスタジオ・アルバム(最初の解散前)であり、同時に最も重厚で完成度の高い作品でもある。本作からは、従来のトリッキーで風刺的な楽曲に加えて、よりシリアスで内省的な側面が強調されているのが特徴だ。

「When I Win the Lottery」は、その中でもひときわ鋭い視点を持つ楽曲である。リードシンガーのDavid Loweryは、アメリカ南部出身のブルーカラー層を思わせる主人公を通じて、現代社会の階級意識、宗教の偽善、エリート主義への憎しみを、静かに、しかし確実に吐き出している。

演奏はカントリー・ロックやフォークの伝統に根ざしながらも、乾いたギターとスライド音がどこか空虚な荒野のような雰囲気を醸し出しており、詞の内容と美しくシンクロしている。ユーモラスでありながらも、そこに宿るのは絶望にも似たリアルな人間の怒りである。

3. 歌詞の抜粋と和訳

“When I win the lottery, I’m gonna buy all the girls on my block a color TV and a bottle of French perfume”
宝くじに当たったら、近所の女の子たち全員にカラーテレビとフランスの香水を買ってやるんだ

“When I win the lottery, I’m gonna donate half my money to the city”
当たったら、半分は市に寄付してやるさ

“So they have to name a street or a school or a park after me”
それで俺の名前をつけた通りか学校か公園を作るだろうな

“And that’s the part that really matters: the part that gets you remembered”
一番重要なのはその部分さ、つまり人の記憶に残ることなんだ

“I’ll buy a Maserati and a ticket to the moon”
マセラティと月行きのチケットを買うんだよ

“And I will not be ignored”
もう誰にも無視はさせない

引用元:Genius

4. 歌詞の考察

「When I Win the Lottery」は、アメリカ的な“成功”の夢を語るという形式を借りながらも、実際にはその裏にある怒り、復讐、見返してやりたいという願望を露わにする楽曲である。

冒頭では、貧困にあえぐ生活を送る主人公が「宝くじに当たったらどうするか」を語り始めるが、その語りは単なる妄想を超えて、社会に対する報復の色を帯びていく。カラーテレビや香水といった象徴的な「贅沢品」を他人に与えるふりをしながらも、最終的にはそれが「自己顕示欲」「忘れられたくない願望」へと繋がっていく構造は非常に興味深い。

特に印象的なのは、「俺の名前をつけた通りや学校ができるだろう」と語るくだりで、これは貧しい階層にいる人間が、名誉や記憶に残ることによって“存在証明”を得ようとする切実な願いを表している。しかし、それは同時に痛烈な皮肉でもある。金がなければ誰にも覚えてもらえず、社会的価値がないとされる現実に対する告発が、皮肉交じりの語り口の中に潜んでいる。

この主人公の夢想は、どこかユーモラスでありながら、最後には「俺を無視するな(I will not be ignored)」という鋭い一言で締められる。このセリフには、社会の底辺で声をあげられずにいる者たちの怒りと哀しみ、そしてそれでもなお自分を価値ある存在だと証明したいという渇望が込められているのだろう。

Camper Van Beethovenは、コミカルでトリッキーな作風を持つバンドとして知られているが、この楽曲ではそのユーモアの裏側にある深い人間性と、社会構造への冷静な洞察を覗かせている。

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • Loser by Beck
    社会から疎外された視点とアイロニーに満ちた語りが、「When I Win the Lottery」と共鳴する。

  • Far Away Eyes by The Rolling Stones
    カントリーの枠組みを用いながら、アメリカ南部の文化と宗教をシニカルに描いた楽曲。
  • Two-Headed Boy by Neutral Milk Hotel
    孤独と救済をテーマにした叙情的な物語性を持つインディーロックの名曲。

  • King of Carrot Flowers, Pt. 1 by Neutral Milk Hotel
    日常の中に潜む神秘と痛みを描いた、詩的かつカオティックな感性が魅力。
  • The Lonesome Death of Hattie Carroll by Bob Dylan
    階級と正義の問題を歌い上げた名曲。言葉の鋭さと社会的視座の深さが「When I Win the Lottery」に通じる。

6. 忘れられた者たちの歌――アメリカの影の物語

「When I Win the Lottery」は、アメリカン・ドリームのパロディとして始まりながら、最終的には“忘れられた者たち”の怒りと願いを代弁する歌へと昇華していく。この曲に描かれる語り手は、貧困、孤独、無力感に押しつぶされそうになりながら、それでも何かを成し遂げたい、自分の存在を世界に刻みたいと願う。その姿は決して滑稽ではなく、むしろ痛々しいほど真に迫っている。

Camper Van Beethovenは、この曲でアメリカ社会の表層の華やかさではなく、その裏側にある階級闘争や精神的疎外のリアルを描き出している。そしてそれを、演説ではなく、ユーモアと比喩、そしてシンプルな語りによって静かに伝えてくるのだ。

「When I Win the Lottery」は、私たちが社会の中でどのように「価値」を計り、「記憶」されるのかという根源的な問いを投げかけてくる。それは宝くじの話ではなく、人間の尊厳に関する静かな叫びなのである。

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