発売日: 1998年4月14日
ジャンル: メタルコア、カオティック・ハードコア、ポストハードコア
概要
『When Forever Comes Crashing』は、Convergeが1998年にリリースした3作目のスタジオ・アルバムであり、彼らが「カオティック・ハードコアの王者」として名乗りを上げた決定的作品である。
本作では、前作『Petitioning the Empty Sky』(1996)で見せたラフで爆発的な激情をさらに研ぎ澄ませつつ、楽曲構成の複雑化と音響面での重厚化が顕著に進行している。
レコーディングはメタルコア界の名匠Kurt Ballou(Gt)が担当し、バンドの生々しいエネルギーを最大限に引き出す音像に仕上げられた。
また、後に盟友となるドラマーBen Kollerが加入する直前の作品でもあり、トランジション的性格を持ちつつ、Convergeのひとつの完成点を示すアルバムとなっている。
「永遠が崩れ落ちるとき」というタイトルの通り、崇高な理想や愛が無慈悲に壊れていく過程を、全編にわたって凄まじいテンションで描き出す。
ジェイコブ・バノンのアートワークとリリックが世界観を強固に支え、音楽とヴィジュアルの完全な一体化がすでにこの段階で達成されている。
全曲レビュー
1. My Unsaid Everything
アルバムの幕開けを飾る、焦燥と哀しみに満ちた一曲。
言えなかった言葉を飲み込んだまま、心が崩れていく瞬間を描いており、Convergeの“感情の物理音”としての側面が鮮明に現れている。
メロディアスなパートの入り混じった複雑な構成も印象的。
2. The High Cost of Playing God
Converge史上もっとも象徴的な楽曲のひとつ。
「神を演じることの代償」というタイトルが示すように、自己神格化やコントロール欲への批判がテーマ。
硬質なブレイクダウンと超人的なシャウトが交錯し、カオティック・ハードコアの到達点とも言える完成度を誇る。
3. In Harms Way
轟音と静寂が織り交ぜられた、内向的な焦燥感が漂うミッドテンポのナンバー。
愛や信頼の崩壊、その後に残された無力感が重く響く。
抑制された爆発がかえって緊張感を増幅させている。
4. Conduit
わずか1分半のショートチューン。
だがその中に詰め込まれた怒りと破壊衝動は極めて濃密で、瞬間的なカオスの具現化として機能している。
5. The Lowest Common Denominator
ヘヴィで陰鬱なリフが続く異色作。
人間関係における“最低基準”を浮かび上がらせるような歌詞は皮肉と絶望に満ちており、社会的・内面的“分断”の音楽的表現が試みられている。
6. Towing Jehovah
“神を牽引する”という挑発的なタイトル通り、宗教的権威と道徳の相対化を鋭く突く。
ギターのうねりと怒涛のドラミングが神話的スケールで展開される異端の名曲。
7. When Forever Comes Crashing
タイトル・トラックにして、アルバムの核心を貫くスロウでヘヴィな名曲。
“永遠”という抽象的概念が、音の重みで崩れ落ちる瞬間を描いており、バノンのヴォーカルも絶望と諦念の深層に達している。
濁流のようなギターが感情のうねりを増幅させる。
8. Ten Cents
攻撃的なストップ&ゴーの構成、無機質なリズムパターンが支配的。
楽曲の冷たさと歌詞の苛立ちがリンクし、無関心な世界に対する異議申し立てのような力を持つ。
9. Year of the Swine
豚の年=“欲望と腐敗の年”と読める風刺的楽曲。
ベースラインの不穏さと複雑な変拍子が特徴で、バンドのテクニカルな側面が際立つトラック。
政治的にも読める象徴性を含む異色作。
10. Letterbomb
轟音とともに飛び込んでくる、爆弾のような存在=言葉の比喩を主題にした一曲。
破壊的なだけでなく、コミュニケーションの危うさを描いている点で深い余韻を残す。
11. Love as Arson
アルバムを締めくくるにふさわしい、壮絶なバラード的ナンバー。
「愛は放火のようなものだった」という印象的なタイトルに集約されるように、燃え上がった関係の儚さと破壊性を全身で叫ぶ。
“静かなる終焉”として、本作の美学を象徴するラストトラック。
総評
『When Forever Comes Crashing』は、Convergeが激情と知性、暴力と構築、破壊と詩情を同時に成立させようとした最初の本格的挑戦であり、“ハードコアのその先”を切り拓いた記念碑的アルバムである。
この作品では、バンドの美学がはっきりとした形を取り始めており、ジェイコブ・バノンのリリック/ヴィジュアル、Kurt Ballouのプロダクション、各曲の哲学的モチーフが有機的に絡み合っている。
そこには、一過性の激情ではなく、時間をかけて崩壊していくものへの深いまなざしがある。
『Jane Doe』(2001)で世界的評価を得るまでの数年間、このアルバムは地下シーンにおいてはカルト的な神格化を受けていた。
その理由は明白である。ここには、“永遠の崩壊”に立ち会うような、得体の知れない崇高さと破滅の美学があるからだ。
おすすめアルバム(5枚)
- Converge – Jane Doe (2001)
感情、構築、破壊のすべてを極限まで高めた金字塔。続編として必聴。 - Shai Hulud – Hearts Once Nourished with Hope and Compassion (1997)
リリカルで構築的なメタルコア。知性と激情のバランスがConvergeに近い。 - Botch – We Are the Romans (1999)
カオティック・ハードコアの完成形。テクニカルさと美学が共通。 - Cave In – Until Your Heart Stops (1998)
Kurt Ballouプロデュース。轟音と宇宙観が交差するポスト・ハードコアの名作。 -
Norma Jean – Bless the Martyr and Kiss the Child (2002)
ポストConverge世代の象徴作。激情の継承と拡張が見られる。
歌詞の深読みと文化的背景
本作全体に流れるのは、“理想や愛が壊れることを受け入れ、それでも立ち尽くす者”の姿である。
宗教的・哲学的なメタファーが多用されており、「Towing Jehovah」や「The High Cost of Playing God」などは、神や権威に対する不信と問い直しを鮮烈に刻んでいる。
また、「Love as Arson」や「My Unsaid Everything」に見られるような親密な関係性の崩壊もテーマとなっており、それは**90年代後半のポスト・ハードコアに共通する“心の内側への回帰”**とも重なる。
この作品は、爆音やブレイクダウンの中に、宗教・倫理・個人という三層構造の揺らぎを抱えている。
ゆえに、『When Forever Comes Crashing』はただ“壊す”のではなく、“壊れながら何かを築こうとする行為”そのものとして、今なお鳴り続けている。
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