
発売日:1995年10月2日
ジャンル:Britpop/オルタナティヴ・ロック/ロック/パワー・ポップ
概要
Oasisのセカンド・アルバム『(What’s the Story) Morning Glory?』は、1990年代英国ロックを象徴する作品であり、Britpopというムーヴメントをインディー/国内的な現象から世界規模のポップ・カルチャーへ押し上げた決定的な一枚である。
1994年のデビュー作『Definitely Maybe』でOasisは、「Rock ’n’ Roll Star」「Live Forever」「Supersonic」「Cigarettes & Alcohol」などを通じて、The Beatles、T. Rex、Sex Pistols、The Stone Rosesなどから受け継いだ英国ロックの伝統を、巨大なギターと労働者階級的な自己肯定へ変換した。
『(What’s the Story) Morning Glory?』では、その基本的な構造を保ちながら、楽曲そのものがより普遍的になった。
ギターは依然として厚い。
Liam Gallagherのヴォーカルも挑発的である。
Noel Gallagherのメロディには1960年代英国ポップからの影響が明確に残る。
しかし本作では、「Wonderwall」「Don’t Look Back in Anger」「Champagne Supernova」のように、巨大な音量を必要としなくても成立するメロディが増えている。
つまり、Oasisはここで「勢いのあるロック・バンド」から「スタジアム全体で歌えるポップ・ソングを書くバンド」へ変化した。
この違いは非常に重要である。
デビュー作のOasisが「自分たちはスターになる」と宣言する作品だったとすれば、『Morning Glory』は実際にスターになりつつあるバンドが、その成功をどのように大衆的な歌へ変換するかを示した作品である。
制作面では、前作に続いてNoel GallagherとOwen Morrisが中心となり、いわゆる「wall of sound」的な厚いギターと強いコンプレッションが特徴となる。
細部の繊細さより、曲全体を巨大なひとつの塊として鳴らす。
ギターを何層にも重ねる。
ドラムを強く前へ出す。
ヴォーカルをその中心に置く。
この方法によって、Oasisの楽曲は家庭のステレオでも巨大な会場でも同じような圧力を持つ。
一方、デビュー作からの重要な変化としてドラマーがTony McCarrollからAlan Whiteへ交代している。
Whiteの演奏はより柔軟で、「Wonderwall」のような抑制された曲や「Don’t Look Back in Anger」のような大規模なバラードにも対応できた。
これによってOasisのリズムは前作より幅を持つようになる。
1995年という時代背景も欠かせない。
英国ではBlurとのチャート競争が「Battle of Britpop」として大々的に報道され、OasisとBlurはそれぞれ異なる英国像の象徴として扱われた。
Blurが都市生活、階級、英国的な皮肉をアート・ポップ的に描いたのに対し、Oasisはもっと直接的だった。
夢。
友情。
愛。
酔い。
成功。
逃避。
そして「自分はもっと大きな何かになれる」という確信。
Oasisの歌詞は政治的・文学的な複雑さではBlurに及ばないが、その代わりに非常に強い共同体的な力を持つ。
「Don’t Look Back in Anger」や「Wonderwall」が現在まで大合唱され続ける理由もそこにある。
これらの曲は、歌詞を一行ずつ論理的に解釈するより、聴き手が自分自身の経験を重ねる余白を持つ。
この「意味の曖昧さとメロディの明確さ」の組み合わせが、Noel Gallagherのソングライティングの大きな特徴である。
アルバム・タイトルの『(What’s the Story) Morning Glory?』も、明確な物語を提示するものではない。
言葉遊び的で、日常会話的で、同時に少しサイケデリックでもある。
作品全体にも同じ性格がある。
明快なロック・ソングが並んでいるのに、歌詞は夢、朝、影、革命、シャンパン、超新星といった断片的なイメージで満たされている。
その結果、本作は非常に大衆的でありながら、完全には説明しきれない幻想性も持つ。
全曲レビュー
1. Hello
アルバム冒頭の「Hello」は、Oasisがデビュー作の成功後に戻ってきたことを宣言するような楽曲である。
曲は静かに始まるが、すぐに巨大なギターが入る。
その構成自体が「戻ってきた」という感覚を作る。
タイトルは極めて単純な「Hello」。
しかし、アルバムの冒頭に置かれることで、聴き手への挨拶であると同時に、Oasisが新しい段階へ入る宣言になる。
歌詞には、現在の自分と過去の自分の距離、成功後の変化を感じさせる言葉がある。
また、「Hello, hello, it’s good to be back」というフレーズにはGary Glitter作品との関連が知られており、Oasisが英国グラム・ロックの記憶を自分たちの文脈へ取り込んでいることも分かる。
音楽的には、コード進行自体はシンプルだ。
しかしギターを多重録音し、Liam Gallagherの声を中央に置くことで、曲は巨大になる。
本作の基本的な音響を最初に提示する役割を持つ。
2. Roll with It
「Roll with It」は、人生の流れに逆らいすぎず前へ進むという、Oasisらしい自己肯定的な曲である。
タイトルの「roll with it」は、「状況に合わせて進め」「受け流していけ」という意味を持つ。
Noel Gallagherの歌詞には、明確な物語より、短い励ましやフレーズを積み重ねるタイプの曲が多い。
「Roll with It」はその典型である。
何が起きても進む。
他人に決めさせない。
自分の道を選ぶ。
こうした言葉が、Liamの強いヴォーカルによって非常に直接的に響く。
音楽はブギー的で、ギター・リフとピアノがロックンロールの伝統へ接続する。
The Rolling StonesやFacesにも通じる軽快さがあり、サイケデリックというより古典的な英国ロックンロールに近い。
Blurの「Country House」と同週にシングル発売され、Britpop対決の象徴となったことでも知られるが、楽曲そのものは競争よりもOasisの「進み続ける」という姿勢を体現している。
3. Wonderwall
「Wonderwall」はOasis最大の代表曲のひとつであり、1990年代ポップ・カルチャーを象徴する楽曲でもある。
最大の特徴は、アコースティック・ギターを中心にしていることである。
Oasisの武器だった巨大なエレクトリック・ギターを前面に出さず、それでも unmistakably Oasis と分かる。
これはNoel Gallagherのメロディが、音圧に依存しなくても成立することを証明した曲でもある。
タイトルの「Wonderwall」はGeorge Harrisonの『Wonderwall Music』を連想させるが、歌詞そのものは非常に曖昧だ。
自分を救ってくれるかもしれない誰か。
届きそうで届かない相手。
恋人。
友人。
理想化された存在。
歌詞はその対象を明確には決めない。
その曖昧さによって、聴き手は自分自身の「誰か」を曲へ重ねることができる。
Liamの歌唱も重要である。
通常の彼は声を前へ押し出し、語尾を鋭く伸ばす。
しかし「Wonderwall」では少し抑制され、鼻にかかった独特のトーンが哀愁へ変換される。
Alan Whiteのドラムも繊細で、派手なビートではなくブラシ的な感触を持つ。
アコースティック・ギター、チェロ風のストリングス、控えめなリズムという簡潔な構成によって、Oasisはスタジアム・ロックと親密なフォーク・ポップを同時に成立させた。
4. Don’t Look Back in Anger
「Don’t Look Back in Anger」は、Noel Gallagherがリード・ヴォーカルを務める代表曲であり、Oasisのアンセム性を最も明確に示した一曲である。
冒頭のピアノはJohn Lennonの「Imagine」を強く想起させる。
NoelはThe Beatles、とりわけJohn Lennonへの敬意を隠さなかった。
しかし、曲が進むと単なる模倣ではなく、Oasis独自の大規模なロック・バラードへ変わる。
タイトルは「怒りを抱えたまま過去を振り返るな」という意味を持つ。
歌詞そのものは「Sally」という人物や革命、夏といった断片的なイメージで構成され、論理的な物語にはなっていない。
それでもサビのメッセージは明確だ。
過去にとらわれすぎず前へ進む。
その普遍性によって、この曲は個人的な失恋歌を超え、さまざまな場面で共同体的に歌われるアンセムとなった。
Noelの声はLiamより柔らかく、攻撃性が少ない。
そのため曲のテーマに自然な温かさが生まれる。
ギター・ソロも過度に技巧的ではなく、メロディの延長として機能する。
Oasisの「誰でも歌える巨大な曲」という美学が完成した一曲である。
5. Hey Now!
「Hey Now!」は、アルバムの中でも比較的重く、長めのロック・ナンバーである。
「Wonderwall」「Don’t Look Back in Anger」と巨大なシングル級楽曲が続いた後で、作品を再びギター中心の世界へ戻す役割を持つ。
タイトルの「Hey Now」は呼びかけだが、歌詞には時間の経過や、自分が変化していくことへの感覚がある。
Oasisの楽曲には「今」を肯定するものが多い。
しかし「Hey Now!」では、今という瞬間もすぐ過去になることが意識される。
音楽は反復的で、ギターの層が厚い。
コード進行そのものは複雑ではないが、反復によって催眠的な感覚が生まれる。
Oasisのサイケデリックな側面が比較的強く出た一曲でもある。
6. The Swamp Song – Excerpt 1
短いインストゥルメンタルとして挿入される「The Swamp Song」の最初の断片は、アルバムの流れを分断し、次の楽曲へつなぐ役割を持つ。
ブルース・ロック的なハーモニカとギターを中心としたジャムで、Oasisのライブ的な荒さが前面に出る。
本作にはメロディックなバラードが増えたが、この断片によって、バンドの根にあるロックンロールの即興性や荒々しさが残っていることを示す。
また、アルバムを単なるシングル集ではなく、ひと続きの音響体験として構成する役割も持っている。
7. Some Might Say
「Some Might Say」は、『(What’s the Story) Morning Glory?』期の重要な転換点となった楽曲である。
アルバムに先駆けて発表され、Oasisに初の全英シングル・チャート1位をもたらした。
音楽的には、デビュー作『Definitely Maybe』と本作をつなぐ曲である。
ギターは非常に厚い。
ドラムも重い。
Liamは強く歌う。
しかしメロディは前作よりさらに大きく、サビには明確な開放感がある。
歌詞では雨、太陽、台所、流しなど、日常的なものと抽象的な希望が奇妙に混在する。
Noel Gallagherの歌詞の特徴は、必ずしも文章として論理的でなくても、フレーズ単位では非常に強く聞こえることにある。
「Some might say we will find a brighter day」という言葉もその典型だ。
「もっと明るい日を見つけられるかもしれない」。
断定ではない。
“Some might say”という距離を置く。
それでも曲全体は強く前向きに聞こえる。
この曖昧な楽観性がOasisらしい。
8. Cast No Shadow
「Cast No Shadow」は、アルバムの中でも特に静かで哀愁の強い楽曲である。
Richard Ashcroftへの敬意を込めて書かれたとされる曲で、タイトルの「影を落とさない」という表現には、自分の存在が世界に十分な痕跡を残せないような感覚がある。
歌詞では、重荷を背負った人物が描かれる。
考えすぎる。
言葉を抱える。
世界に何かを与えようとする。
しかし、その過程で自分自身が消耗していく。
この人物像は、Oasisの普段の自信に満ちた歌詞とは対照的だ。
音楽も抑制されている。
アコースティック・ギターと柔らかなコーラスを中心に進み、Liamの声には珍しく脆さが表れる。
Oasisが巨大なアンセムだけでなく、他者への共感や精神的な疲労を静かに描けることを示す重要曲である。
9. She’s Electric
「She’s Electric」は、The BeatlesやThe Kinksの英国ポップ的なユーモアを強く感じさせる楽曲である。
アルバム中でも特に軽快で、ギター・ポップ色が強い。
歌詞では、一風変わった女性とその家族についてコミカルに語られる。
Oasisの歌詞はしばしば壮大な抽象語を使うが、この曲ではもっと日常的で漫画的だ。
相手への好意はある。
しかし、その周辺にいる家族や状況が少し奇妙。
その観察を、軽い皮肉とともに描く。
メロディには1960年代英国ポップの影響が明確で、特に後半のコーラスやコードの運びにはThe Beatles的な感触がある。
Oasisが単なる大音量ロック・バンドではなく、英国ポップの伝統を意識したバンドだったことを分かりやすく示す一曲である。
10. Morning Glory
タイトル曲「Morning Glory」は、本作の中でも最も攻撃的で、ギター中心の楽曲のひとつである。
冒頭から大きく歪んだギターが鳴り、Liam Gallagherのヴォーカルも強く前へ出る。
タイトルの「morning glory」は朝顔という意味を持つ一方、俗語的なニュアンスも含む。
歌詞には薬物、目覚め、現実逃避、日常への倦怠を思わせる断片が並ぶ。
特に「need a little time to wake up」という反復は、単なる朝の眠気だけでなく、精神的な目覚めや麻痺からの回復にも聞こえる。
音楽はほとんど圧力そのものだ。
ギターを何層にも重ね、細かなアレンジより全体の勢いを優先する。
『Definitely Maybe』時代の荒々しいOasisを、本作の巨大化したプロダクションで再現したような曲であり、「Wonderwall」などのバラードだけではないアルバムのロック面を担う。
11. The Swamp Song – Excerpt 2
二度目の「The Swamp Song」断片は、「Morning Glory」の激しい音圧から最終曲「Champagne Supernova」へ移るための橋渡しとして機能する。
最初の断片と同じく、ブルース/サイケデリックなジャムの感触が強い。
こうしたインストゥルメンタルの挿入は、アルバムにライブ的な連続性を与える。
Oasisは精密なコンセプト・アルバムを作っているわけではないが、曲と曲の間にこうした断片を置くことで、作品全体に夢のような曖昧な流れを作っている。
12. Champagne Supernova
アルバムを締めくくる「Champagne Supernova」は、Oasisのサイケデリック/エピックな側面を最も大きなスケールで示した楽曲である。
7分を超える長さを持ち、静かな導入から徐々にギターとドラムが加わり、最後には巨大な音の壁へ到達する。
タイトルの「Champagne Supernova」は、現実には存在しないような組み合わせだ。
シャンパン。
超新星。
祝祭と宇宙的破壊。
この言葉の組み合わせ自体が、Noel Gallagherの歌詞における意味よりイメージを優先する姿勢を象徴している。
歌詞も極めて抽象的である。
「Where were you while we were getting high?」という問いが繰り返され、若者文化、薬物、友情、失われた時間などが混ざる。
意味は完全には確定しない。
しかし、そこにある感覚は明確だ。
何か巨大な時間が過ぎていく。
自分たちはその中にいる。
今この瞬間が永遠のように感じられるが、実際にはすぐ過去になる。
Paul Wellerがギターとバッキング・ヴォーカルで参加していることも重要である。
The JamからThe Style Council、ソロ活動を経たWellerはBritpop世代にとって重要な先達であり、その参加はOasisが英国ロックの世代をつなぐ存在になったことを象徴している。
アルバムの最後を単なるロック・アンセムではなく、時間と記憶の中に溶けていくような長尺曲で終えることで、本作に独特の余韻が生まれる。
総評
『(What’s the Story) Morning Glory?』の最大の特徴は、Oasisが「個人的な自信」を「共同体的な歌」へ変換したことである。
『Definitely Maybe』では、Liam Gallagherは世界に向かって自分たちの存在を主張していた。
「Rock ’n’ Roll Star」。
「Supersonic」。
「Live Forever」。
そこには若いバンド特有の野心がある。
自分は特別だ。
もっと大きくなれる。
今いる場所から抜け出せる。
『Morning Glory』では、その自信が個人から群衆へ広がる。
「Wonderwall」。
「Don’t Look Back in Anger」。
「Some Might Say」。
「Champagne Supernova」。
これらは一人の人物が自分について歌う曲でありながら、聴き手全員が自分の曲として歌える。
この変化が、Oasisを単なる人気バンドから世代的な存在へ押し上げた。
音楽的には、Noel Gallagherの最大の才能である「既知の要素を非常に大きなポップ・ソングへ再構成する能力」が最もよく表れている。
Oasisの影響源は分かりやすい。
The Beatles。
John Lennon。
T. Rex。
The Rolling Stones。
Slade。
Sex Pistols。
The Stone Roses。
Neil Young。
曲によっては参照元がかなり明確に聞こえる。
しかし、Oasisの価値は完全な新規性にはない。
既存のロックの語彙を、1990年代の巨大な共同体的体験へ変換したことにある。
例えば「Don’t Look Back in Anger」のピアノは「Imagine」を思わせる。
しかし、その後のサビはOasis独自のスタジアム・アンセムとして成立する。
「She’s Electric」は1960年代英国ポップの記憶を持つが、Liamの声が入ることで1995年のOasisになる。
「Champagne Supernova」はサイケデリック・ロックの伝統を受け継ぐが、その巨大なギター音響は完全にBritpop時代のものだ。
この「引用と再構築」は、ロックというジャンル自体の歴史とも深く関係する。
ロックは常に過去を引用してきた。
重要なのは、引用したものをどの世代の感情へ接続するかである。
Oasisは1990年代英国の若者に、1960〜70年代ロックの巨大な夢をもう一度提示した。
それはBritpopというムーヴメントの核心でもあった。
Britpopは単なる音楽ジャンルではない。
1990年代半ばの英国文化において、アメリカのグランジ支配から距離を取り、自国のポップ史、ファッション、階級、ユーモアを再評価する動きだった。
Blur。
Pulp。
Suede。
Elastica。
Supergrass。
それぞれ異なる形で「英国らしさ」を再構築した。
Oasisはその中で最も普遍的なロックンロールを選んだ。
Blurが英国社会を観察したとすれば、Pulpは階級と欲望を描き、Oasisは「そこから抜け出す夢」を歌った。
マンチェスターの労働者階級的背景も、そのイメージに大きく作用した。
NoelとLiam Gallagherの兄弟関係も、Oasisの魅力と不安定さの両方を作った。
Noelが主な作曲家であり、Liamがその曲を歌う。
Noelの歌詞はしばしば抽象的だが、Liamが歌うと断言のように聞こえる。
これは非常に重要な組み合わせである。
例えば「Some Might Say」というタイトル自体は「そう言う人もいる」と曖昧だ。
しかしLiamの歌唱では、ほとんど確信のように響く。
Noelが書いた迷いのある言葉を、Liamが揺るぎない態度へ変える。
この矛盾がOasisの魔力だった。
一方、本作の音響はかなり極端である。
Owen MorrisとNoel Gallagherによるプロダクションは、ダイナミック・レンジを広く取るより、音を圧縮し、ギターを幾重にも重ねる。
現在の基準でも非常に密度が高い。
細部を分離して聴くタイプの録音ではない。
むしろ、すべてが一緒になって巨大な塊として迫ってくる。
この方法はオーディオ的な繊細さとは反対にあるが、Oasisには合っている。
彼らの音楽の目的は、楽器一つ一つの美しさを鑑賞させることではなく、曲全体で圧倒することだからだ。
その中で「Wonderwall」や「Cast No Shadow」が重要な役割を果たす。
これらの曲では音量を下げる。
アコースティック・ギターを使う。
余白を作る。
そのため、アルバム全体が大音量一本槍にならない。
特に「Wonderwall」の成功は、Oasisがハードなギターを使わなくても巨大な曲を書けることを証明した。
これはその後のバンドにとって非常に重要だった。
歌詞については、Noel Gallagher自身がしばしば意味より響きを優先している。
そのため、文学的な整合性を求めると矛盾や曖昧さが多い。
しかし、その曖昧さが大衆的な力にもなった。
「You’re gonna be the one that saves me」。
誰が誰を救うのか。
なぜ救うのか。
具体的には説明されない。
だからこそ、誰でもその言葉を自分の経験へ置き換えられる。
「Don’t Look Back in Anger」も同様だ。
Sallyが誰なのかは重要ではない。
重要なのは、過去への怒りを手放そうとするサビの感情である。
ポップ・ソングでは、意味の精密さより感情の共有可能性が重要になることがある。
Noel Gallagherはその点を本能的に理解していた。
また、本作は「時間」というテーマを意外に多く持つ。
「Hey Now!」では時間が進む。
「Don’t Look Back in Anger」では過去を振り返らない。
「Some Might Say」では未来の明るい日を想像する。
「Champagne Supernova」では、若かった時間が宇宙的なスケールへ拡張される。
つまり、Oasisが歌っているのは単なる現在の成功だけではない。
「この瞬間は永遠ではない」という感覚が、アルバムの底にある。
それが「Champagne Supernova」の長い余韻を特別なものにする。
1995年当時のOasisは、自分たちが巨大になりつつある瞬間にいた。
しかし、その瞬間自体がすでに過ぎ去りつつある。
この一瞬の高揚を音楽へ封じ込めたのが『(What’s the Story) Morning Glory?』である。
後続への影響も非常に大きい。
1990年代後半から2000年代にかけて、Travis、Stereophonics、Coldplay、Keane、Snow Patrolなど、メロディックで大規模な英国ロックが次々と登場した。
音楽的にはそれぞれ異なるが、「ギター・バンドが巨大な合唱曲を書く」というモデルにおいて、Oasisの存在は避けて通れない。
さらにKasabian、Arctic Monkeys、The Courteenersなど、英国のロック・バンドが大衆的なライブ文化と結びつく際にも、Oasisが作ったスタジアム・ロックの基準は長く影響した。
『(What’s the Story) Morning Glory?』は、最も実験的なBritpopアルバムではない。
Blurの『13』のような音響実験も、Pulpの『Different Class』のような鋭い階級観察もない。
しかし、Britpopという時代の集団的な感情を最も大きなスケールで記録した作品である。
夢を持つ。
成功したい。
誰かに救われたい。
過去を振り返りすぎたくない。
友人と酔う。
朝になって目を覚ます。
そして、いつかこの時間が終わることを薄々知っている。
そのすべてが、巨大なギターと単純で強いメロディの中に入っている。
だからこそ本作は、1995年という時代を越えて歌われ続ける。
個々の楽曲の意味が完全に分からなくても、サビを歌えば共有できる。
それこそがOasisの最大の才能であり、『(What’s the Story) Morning Glory?』が英国ロック史の重要作であり続ける最大の理由である。
おすすめアルバム
1. Oasis – Definitely Maybe(1994)
Oasisのデビュー作にして、初期の荒々しい魅力を最も純粋に記録した作品。「Rock ’n’ Roll Star」「Live Forever」「Supersonic」「Cigarettes & Alcohol」などを収録し、労働者階級的な野心と巨大なギターを結びつけた。『Morning Glory』でそのエネルギーがどのように普遍的なポップへ変わったかを比較するうえで最重要の一枚である。
2. Blur – The Great Escape(1995)
同じ1995年のBritpopを代表する作品。BlurはOasisとは対照的に、英国社会の階級、郊外生活、消費文化、人間の滑稽さを皮肉に描いた。両作を比較することで、Britpopが単一の音楽スタイルではなく、異なる英国像が競合する文化現象だったことが分かる。
3. Pulp – Different Class(1995)
Britpopのもう一つの頂点。Jarvis Cockerによる階級意識、性的欲望、社会観察を、ディスコやグラムの要素を持つポップへ変換した。「Common People」を収録。Oasisの普遍的な夢や自己肯定と対照的に、より具体的な英国社会を描いた作品である。
4. The Stone Roses – The Stone Roses(1989)
Oasis以前のマンチェスター・ロックを代表する作品。1960年代ポップ、サイケデリア、ダンス・グルーヴを融合し、1990年代英国ギター・ロックへ巨大な影響を与えた。Oasisのメロディ感覚、態度、マンチェスターという文化的背景を理解するうえで欠かせない。
5. The Verve – Urban Hymns(1997)
Britpop後期を代表する大作。「Bitter Sweet Symphony」「The Drugs Don’t Work」などを収録し、サイケデリック・ロックと壮大なバラードを融合した。『Morning Glory』の「Cast No Shadow」「Champagne Supernova」に見られる内省的で巨大なロック・バラードの方向を、より陰鬱で成熟した形へ発展させた作品である。

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