1. 歌詞の概要
「What I Got」は、アメリカ・カリフォルニア州ロングビーチ出身のレゲエ・パンクバンドSublimeが1996年に発表したセルフタイトルアルバム『Sublime』に収録された代表曲であり、亡きボーカル、ブラッドリー・ノウェル(Bradley Nowell)の魂が宿る“サーフ・スピリット”を象徴するアンセムとして今なお語り継がれている。
この楽曲の中心にあるのは、「愛こそがすべて」というシンプルで普遍的なメッセージである。歌詞では、スケートボードで街を流しながら、日々のトラブルや失敗を笑い飛ばし、何も持たない中で“自分の持っているもの=愛”を噛み締める、そんなストリート・ライフの哲学が陽気なレゲエ/アコースティック・パンクのリズムに乗って展開されている。
サビで繰り返される「Lovin’ is what I got(愛、それが俺のすべて)」というフレーズは、飾らない日常の中にある幸福を肯定する力強い宣言であり、貧しさや痛みを抱えながらも、それを受け入れ、他者への寛容と自己肯定を武器に生き抜こうとする“自由な精神”を感じさせる。
2. 歌詞のバックグラウンド
「What I Got」は、Bradley NowellとSublimeのベーシストEric Wilsonによって書かれた楽曲で、リリース後、アメリカのBillboard Modern Rock Tracksチャートで1位を獲得する大ヒットとなった。この成功は、ノウェルがヘロインの過剰摂取で亡くなった直後に訪れたものであり、彼の死がSublimeの音楽により深い共感と追悼の意味を加えることになった。
サウンド的には、ラップのように語りかけるヴォーカルスタイルと、アコースティックギターを中心に据えた緩やかなレゲエのビートが融合しており、その根底には1960年代のバンドThe Halfwaysによる「Loving is What I Got」という楽曲の影響があるとも言われている。
「What I Got」は、アルバム『Sublime』の中でもっともラジオ向きのポップなトラックであると同時に、ノウェルの人柄や価値観を最もストレートに伝える一曲であり、そのあけすけな言葉のひとつひとつが、彼の人生の断片そのものでもある。
3. 歌詞の抜粋と和訳
以下に、「What I Got」の印象的なフレーズとその和訳を紹介する。
“Early in the morning, risin’ to the street”
朝早く、通りに出る
“Light me up that cigarette and I strap shoes on my feet”
タバコに火をつけて、靴ひもを結ぶ
“Got to find a reason, reason things went wrong”
何が間違ってたのか、理由を探さなきゃ
“Got to find a reason why my money’s all gone”
金がすっからかんな理由も、見つけなきゃな
“I don’t cry when my dog runs away”
犬が逃げても泣かないさ
“I don’t get angry at the bills I have to pay”
払わなきゃいけない請求書にも怒らない
“Lovin’ is what I got, I said remember that”
愛、それが俺のすべてだよ 覚えておいてくれ
歌詞引用元:Genius – Sublime “What I Got”
4. 歌詞の考察
「What I Got」は、Sublimeの楽曲の中でも特に“生き方”そのものを歌った作品であり、特定の物語というよりは“日々をどう受け止めるか”という態度の表明となっている。Bradley Nowellのリリックには、喪失や怒り、貧困といった要素が散りばめられているが、それらに対する反応は極めて“ラフ”で“楽観的”だ。
この“軽さ”こそがSublimeのスタイルであり、ある意味でアメリカ西海岸の“サーフ精神”とも通じる。“Everything’s gonna be alright(なんとかなるさ)”という価値観を、リアリティある言葉とともに体現している。
また、サビの「Lovin’ is what I got」は、仏教的な無常観やストイックな自己受容にも通じる深いテーマを含んでいる。金もない、トラブルばかり、でも“持っているものを大事にする”という精神は、90年代アメリカのサブカルチャーの中において異彩を放ち、今も多くの人の心を掴み続けている。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Santeria by Sublime
失恋と怒りをユーモアで包み込んだレゲエ・ロックの名曲。ノウェルの哀しみと温かさが滲む。 - Amber by 311
カリフォルニア・サウンドの系譜にあるレゲエ・ポップ。スムーズなビートと愛のテーマが共通。 - Island in the Sun by Weezer
軽快でシンプルなリフに、日常の幸せが詰まった陽だまりポップ。 - Steal My Sunshine by Len
90年代的“抜け感”と愛嬌あるリリックが特徴のサマー・アンセム。
6. “何もないこと”を誇るという生き方
「What I Got」は、物質的に何も持っていなくても、“愛”を持っていれば生きていけるというメッセージを、軽やかで飾らないトーンで伝える名曲である。それは、Bradley Nowellという人物の生き方そのものであり、彼が実際に苦しみ、楽しみ、そして音楽に昇華した人生のすべてが、この3分の楽曲に詰まっている。
彼の死後もなお、「What I Got」は“自由”と“愛”をテーマにした真っ直ぐな人間賛歌として聴き継がれている。その言葉のひとつひとつが、スケートボードのすれ違う音のように、気づかないうちに私たちの心のなかにしみ込んでくる。
「What I Got」は、Sublimeの哲学であり、Bradley Nowellの人生観そのものだ。何も持たなくても、笑える。愛があれば、それでいい。今も、どこかの通りでこの曲が流れている。それは、Sublimeの“生きてる証”である。
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