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1. 歌詞の概要
“What a Fool Believes” は、アメリカのロックバンド The Doobie Brothers が1979年にリリースしたアルバム Minute by Minute に収録された楽曲であり、バンドにとって最大のヒット曲のひとつである。この曲は、グラミー賞最優秀レコード賞(Record of the Year) を受賞し、バンドの音楽的な方向性を決定づける重要な作品となった。
歌詞の内容は、過去の恋愛を美化し、それに執着する男の姿を描いている。彼はかつての恋人との再会を果たすが、彼女にとってはもう過去の話であり、彼の思い出の中にある「美しい関係」は現実とは異なっていた。しかし、彼はその現実を受け入れることができず、なおも幻想にすがり続ける。この切なくも哀愁漂うテーマが、曲のメロディと見事に調和し、多くのリスナーの共感を呼んだ。
また、この曲はソングライターの マイケル・マクドナルド(Michael McDonald) と ケニー・ロギンズ(Kenny Loggins) によって共作され、洗練されたコード進行とジャズやR&Bの要素を取り入れた洗練されたアレンジが特徴となっている。
2. 歌詞のバックグラウンド
1970年代半ば、ドゥービー・ブラザーズの音楽スタイルは大きな転換を迎えていた。創設メンバーであり、ギターを中心としたカントリーロック/サザンロックのサウンドを牽引していた トム・ジョンストン(Tom Johnston) が健康上の理由でバンドを離れ、その後任として加入したのがキーボード奏者兼ボーカリストの マイケル・マクドナルド だった。
マクドナルドの加入により、バンドのサウンドは大きく変化し、カントリーロック色の強い楽曲から、ジャズやR&Bの影響を受けた洗練されたブルー・アイド・ソウル(Blue-eyed soul)スタイル へとシフトしていった。この新たなサウンドが結実したのが、アルバム Minute by Minute であり、そのリードシングルとしてリリースされたのが “What a Fool Believes” だった。
この曲はリリース後、アメリカの Billboard Hot 100 で1位 を獲得し、バンドにとって初のナンバーワン・ヒットとなった。また、グラミー賞最優秀楽曲賞(Song of the Year) も受賞し、楽曲としての完成度の高さが改めて評価された。
3. 歌詞の抜粋と和訳
以下に、”What a Fool Believes” の印象的な歌詞の一部を抜粋し、和訳を添える。
歌詞抜粋
She had a place in his life
He never made her think twice
和訳
彼女は彼の人生の中で特別な存在だった
でも彼は、彼女にとってそれほど重要な存在ではなかった
But what a fool believes, he sees
No wise man has the power to reason away
What seems to be is always better than nothing
And nothing at all keeps sending him…
和訳
しかし、愚か者が信じるものこそが、彼にとっての現実
どんな賢者も、その幻想を消し去ることはできない
「何かがある」と思うことは、「何もない」よりもずっとマシだから
そして、彼はまたその幻想にすがり続ける…
この部分の歌詞は、主人公が過去の恋愛に固執し、現実を受け入れられない様子を端的に表現している。「愚か者が信じるものこそが彼にとっての現実(What a fool believes, he sees)」というフレーズは、人生における思い込みや幻想の持つ力を象徴している。
4. 歌詞の考察
“What a Fool Believes” の歌詞は、典型的な「失われた愛」のテーマを扱いながらも、その描写が非常に繊細で、哲学的な深みを持っている。
特に印象的なのは、「彼女にとっては過去の恋愛であり、すでに忘れ去られているのに、彼はまだそれを美しいものとして信じている」という構図である。この対比が、歌詞全体に切なさを漂わせ、リスナーに共感を呼び起こす。
また、「賢者ですら、その幻想を消し去ることはできない」というラインは、どれだけ論理的に考えても、人は感情に左右され、過去にすがってしまうことがある、という普遍的な真理を示している。
このテーマは、1970年代のシンガーソングライターたちによく見られた「内省的な歌詞」とも共鳴するものであり、単なる失恋ソングではなく、人間の心理の奥深さを描いた楽曲として評価されている。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
“What a Fool Believes” を気に入った人には、以下の楽曲もおすすめしたい。
- “Minute by Minute” by The Doobie Brothers
同じアルバムからのタイトル曲で、”What a Fool Believes” と同様にマイケル・マクドナルドのソウルフルなボーカルが際立つ。 - “This Is It” by Kenny Loggins
本曲の共作者であるケニー・ロギンズがマクドナルドと共作した楽曲で、同様に洗練されたブルー・アイド・ソウルの魅力が詰まっている。 - “I Keep Forgettin’ (Every Time You’re Near)” by Michael McDonald
マイケル・マクドナルドのソロ曲で、”What a Fool Believes” の延長線上にあるようなサウンドと歌詞の切なさが魅力。 - “Peg” by Steely Dan
マクドナルドがコーラスで参加している楽曲で、ジャズやR&Bの要素を取り入れた洗練されたアレンジが特徴。
6. “What a Fool Believes” の影響と評価
“What a Fool Believes” は、ドゥービー・ブラザーズのキャリアの中で最も成功した楽曲のひとつであり、1970年代後半の ブルー・アイド・ソウル/AOR(Adult Oriented Rock) の代表的な楽曲として現在も広く愛されている。
この曲の成功によって、ドゥービー・ブラザーズの音楽スタイルはより都会的で洗練された方向へと進化し、バンドの新たなファン層を獲得することとなった。また、マイケル・マクドナルドのソングライティングとボーカルの魅力が認められるきっかけとなり、彼はその後ソロアーティストとしても大きな成功を収めることになる。
時代を超えて愛され続ける “What a Fool Believes” は、単なるヒットソングではなく、人間の感情の奥深さを描いた名曲として、今なお多くのリスナーの心を捉え続けている。
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