発売日: 1978年2月
ジャンル: ライブアルバム、ファンクロック、スワンプロック
概要
『Waiting for Columbus』は、Little Featが1977年のツアー中に録音し、翌1978年に発表したライブ・アルバムであり、彼らの代表作にしてアメリカン・ライブアルバム史の金字塔とも称される作品である。
ロンドンのレインボー・シアターとワシントンD.C.のウォーナー・シアターで収録されたパフォーマンスは、スタジオ作では捉えきれなかったバンドの生々しい熱量と緻密なアンサンブルの凄みに満ちている。
本作の最大の特徴は、タワー・オブ・パワーのホーン・セクションを全面導入したことで、音の厚みとファンクネスが一段と増している点である。
また、代表曲の再解釈やライブならではのアドリブ展開も聴きどころとなっており、バンドの“ライブ命”と称された本質がこの作品に凝縮されている。
タイトルの「コロンブスを待ちながら」は、発見を待つ旅の比喩としても、アメリカ音楽のルーツを再発見する行為としても解釈可能であり、まさに“演奏による再探求”の記録とも言えるだろう。
全曲レビュー
1. Join the Band
ニューオーリンズの伝統を感じさせる短い導入曲。
観客とバンドの一体感を高める儀式のような存在で、ライブアルバムとしての幕開けにふさわしい。
ローウェルの「さあ、俺たちのバンドに加われ!」という声が全てを象徴する。
2. Fat Man in the Bathtub
スタジオ版を遥かに凌駕する迫力。
パーカッションとホーンが加わることで、曲のユーモラスな側面とファンク的ドライブが前面に押し出される。
観客の歓声と演奏の緊張感が交錯し、ライヴ・ヴァージョンの決定版とも言える。
3. All That You Dream
ボーカルはポール・バレールが担当。
幻想的で浮遊感あるこの曲も、ライブでは骨太なファンク・ナンバーに変貌し、原曲とは違った魅力を放つ。
サウンド全体に躍動感が加わり、グルーヴの深化が感じられる。
4. Oh Atlanta
ビル・ペインのピアノが冴えわたる快活なナンバー。
観客とのコール&レスポンス的な高揚もあり、アルバム中でもっとも祝祭的な空気を感じさせる一曲。
スタジオ版以上に“旅情”が前面に出た、成熟した演奏。
5. Old Folks Boogie
ポール・バレールの語り口が際立つ、笑いと哀愁の混じったライブの定番曲。
老いと踊りという対照的なイメージを軽妙に描き出し、聴衆の笑いと拍手が自然に湧き上がる。
エンターテイナーとしてのLittle Featが最もよく現れた一曲。
6. Time Loves a Hero
スタジオ版よりもリズムが緻密で、各楽器の絡みがより複雑に。
タイトルの“時は英雄を愛す”という言葉が、ライブという“今”に響き直す瞬間。
タワー・オブ・パワーのホーンが楽曲のダイナミズムをさらに引き上げる。
7. Day or Night
原曲のジャズ的構成はそのままに、ライブではスリリングな即興性が追加されている。
ビル・ペインのピアノとホーンの掛け合いは圧巻で、観客を引き込む高揚感に満ちている。
知的でありながらダンサブルな名演。
8. Mercenary Territory
ビル・ペインが描く“消費される誠実さ”というテーマが、ライブ空間ではより生々しく響く。
ブラスセクションの豊かさとドラマチックな展開が、スタジオ版とは違う壮大さを生んでいる。
政治性と情感が共存する一曲。
9. Spanish Moon
このアルバム屈指の名演。
ローウェル・ジョージのヴォーカルとスライドギターが妖艶さを醸し出し、タワー・オブ・パワーのホーン隊がアンダーグラウンドな熱気を煽る。
スモーキーで退廃的、だが非常に力強いグルーヴ。
10. Dixie Chicken
Little Featの“国歌”とも言える名曲。
ライブでは長尺のジャムセッションを含み、観客と一体となる祝祭的パフォーマンスへと変貌。
ミドル部のピアノとホーンの掛け合いは圧巻で、“聴く”よりも“体感する”楽曲となっている。
11. Tripe Face Boogie
超高速ファンク・ブギーが炸裂する、バンドの狂騒的側面を象徴する一曲。
ギター、キーボード、ドラムが緻密に噛み合いながら突き進み、ライヴならではのテンションの高さが光る。
アルバム終盤のクライマックスを築く。
12. Willin’
ローウェルが静かに語りかける、旅と孤独のバラード。
観客も息を呑んで耳を傾けるような緊張感のなか、彼の声は深く心に染み入る。
派手な演奏の合間に置かれたこの静寂が、アルバム全体のバランスを保っている。
13. Don’t Bogart That Joint
ユーモアたっぷりの短いカバー。
バンドと観客が笑い合うような空気が伝わり、ライヴの“間”や“余白”を感じさせる。
カリフォルニアのサブカル文化を背景とした“笑える小休止”。
14. A Apolitical Blues
ラストは骨太なブルース。
政治とは距離を置くという姿勢を、飾らない演奏で表現。
ローウェルのスライドが激しく唸り、ロックンロールの本質が詰まった締めくくりとなっている。
総評
『Waiting for Columbus』は、Little Featというバンドの“現場での実力”を明確に示すライブ・アルバムであり、単なるベスト盤的総集編ではなく、“再構築”の記録である。
ここに収められた楽曲は、どれもスタジオ版を超える勢いと完成度を持ち、しかもただ上手いだけではない“演奏の喜びと危うさ”が同時に感じられる。
ローウェル・ジョージはこの頃すでにバンド内で孤立しつつあったが、ライヴの現場ではなお圧倒的な存在感を発揮している。
彼の情感豊かなヴォーカルとギターは、バンド全体のグルーヴと絶妙に絡み合い、“瞬間の魔法”を生み出しているのだ。
アンサンブルとしての完成度、セットリストの選曲、観客との関係性、そして録音の質の高さ。
どれを取っても、1970年代のライブアルバムの最高峰のひとつであり、“ライブ・バンド”としてのLittle Featの真髄を知るにはこの一枚が最良の入口である。
おすすめアルバム(5枚)
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The Allman Brothers Band – At Fillmore East (1971)
ライブ・ロックの金字塔。アンサンブルの緻密さと熱量は本作と双璧をなす。 -
The Band – Rock of Ages (1972)
ブラス導入による重厚なライブアレンジ。Little Featの構成美とも共鳴。 -
Frank Zappa – Roxy & Elsewhere (1974)
ローウェルの師・ザッパによる技巧的ライブ作品。音楽的ユーモアと緊張感が共通する。 -
Steely Dan – Alive in America (1995)
洗練された楽曲をライブで再解釈。Little Feat同様、職人技と熱気の共存を聴かせる。 -
Tower of Power – Live and in Living Color (1976)
本作にも参加したホーン隊の代表的ライブ盤。演奏の精密さと圧倒的グルーヴは必聴。
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