アルバムレビュー：Unvarnished by Joan Jett & The Blackhearts

発売日: 2013年9月30日
ジャンル: ハードロック、パンクロック、オルタナティブ・ロック

概要
全曲レビュー
総評
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概要

『Unvarnished』は、Joan Jett & The Blackheartsが2013年に発表した通算10作目のスタジオ・アルバムであり、60歳を目前にしたJoan Jettが“年齢も過去も飾らず、ありのままの自分”でロックを鳴らした作品である。

アルバム・タイトルの「Unvarnished」は「ニスを塗らない」「飾り気のない」という意味を持ち、まさに本作がJoanの人生観とキャリアをストレートにさらけ出す記録であることを示している。

1970年代から一貫して“女性がロックをやること”の壁を体当たりで突き破ってきた彼女が、本作ではより内省的で、成熟した視点から**「これまでと、これから」を静かに見据えている**。

サウンド面では、従来のハードロックやパンクに加えて、グラム、オルタナ、パワーポップの要素も散見され、派手さを抑えたぶん、言葉とメロディの輪郭が際立つ作品となっている。

また、自身初となるBillboard 200のTop50入りを果たし、キャリア晩年にしての静かな再評価の兆しを象徴するアルバムとしても特筆すべきだろう。

全曲レビュー

1. Any Weather (606 Version)

アルバムの幕開けにしてリード曲。
プロデュースと共作は元NirvanaのDave Grohl。

JoanのギターとGrohlのドラムが正面からぶつかる構成で、70sロックのラフさと90sグランジの力強さが見事に融合している。

歌詞には「どんな天気でも、私はやる」といった、年齢にも環境にも屈しない覚悟がこめられている。

2. TMI

“TMI”＝Too Much Information。

SNS時代における“情報の暴力性”をテーマにした、Joan流の現代批評。

鋭いリフとコミカルなコーラスが印象的で、自虐と諧謔をまぜこぜにしたパンク・チューンとなっている。

Joanが時代遅れにならない理由は、こうした知性と距離感にあるのだと再認識させられる。

3. Soulmates to Strangers

カントリー・パンク的な軽やかさを持つミディアムテンポの楽曲。

「ソウルメイトだったのに、今はただの他人」というフレーズが示すように、親密さの崩壊と孤独がテーマ。

メロディはポップだが、言葉は切ない。
複雑な人間関係のグラデーションを、Joanは極めて静かに、だが力強く描いている。

4. Make It Back

軽快でキャッチーなナンバー。

震災で被災した人々への共感から着想を得たとも言われており、「すべてを失っても戻れる場所がある」という希望と連帯のメッセージが込められている。

Joanの“ロックは社会と共鳴して初めて力を持つ”という信念が結実した曲。

5. Hard to Grow Up

本作中、最もパーソナルな歌。

加齢、喪失、責任。
「大人になるのは難しい」と歌うその姿には、過去を誇るでもなく否定するでもない、成熟した人間の等身大のリアリティがある。

ギターの音数を抑えたミックスによって、声の質感がじっくりと味わえる構成も秀逸。

6. Fragile

“壊れやすい”という言葉がここまで痛烈に響くとは──。

Joanはここで自分自身の脆さを認め、それでもステージに立つことの意味を問う。

声は揺れていないが、内側の不安と疲労がすべての行間に滲んでいる。

静かなロック・バラードにして、Joanの晩年のスタイルを象徴する一曲。

7. Reality Mentality

TVショウやインスタントな“有名人”のあり方を皮肉る、Joanらしいアティチュード全開のパンク・ナンバー。

「リアリティ？それ、編集された脚本でしょ？」と切って捨てるこの曲は、自分の道を自分で歩いてきたJoanからのパンチラインのよう。

若いパンクスにも十分刺さる現代的メッセージを含む。

8. Bad as We Can Be

“The baddest girls in town”と歌うJoanの姿は、まさに**“悪名高い女性ロッカー”の再定義**。

女性であること、歳を重ねること、時代に乗らないこと──それらすべてをスタイルに変換するJoanのカリスマ性が炸裂する一曲。

シンプルなコードワークに込められた誇りと決意が、心に刺さる。

9. Different

“私は他の誰とも違う”。
この言葉が、Joan Jettにとってのアイデンティティそのものだった。

本作の終盤に置かれたこの曲は、彼女がなぜ“変わらない”ままで時代と歩みをそろえられるのかを示す答えのようなもの。

バンドサウンドに包まれながら、Joanの声だけが前に出る、強烈な存在感のトラック。

10. Everybody Needs a Hero

アルバムの最後を締めくくる静かな名曲。

「誰だってヒーローを必要としている」という言葉は、Joan自身が多くの女性やアウトサイダーにとっての“ヒーロー”であり続けていることを自覚しているようでもある。

演奏は控えめで、ラストにふさわしい温かさと余韻を残す。

総評

『Unvarnished』は、Joan Jettがキャリア40年を目前にして放った、最も誠実で静かな“自己表明”のロックアルバムである。

ここには、若さの衝動も、怒りの叫びもある。
だが、それ以上に強く響くのは、**時間と経験を経たからこそ出せる“声の深み”と“言葉の重み”**である。

Joan Jettはもはや伝説だ。
だが、このアルバムは“伝説の回顧”ではない。

これは、今もなおステージに立ち、世界に語りかけるロッカーの生きた証であり、どんな時代にも必要とされる“飾らない声”そのものだ。