1. 歌詞の概要
「Try Everything」は、Republicaのデビュー・アルバム『Republica』(1996年)に収録された楽曲であり、アルバムの中でもひときわ“前向きな挑戦”と“自由な精神”を全面に打ち出したトラックである。曲名そのものが、「なんでも試してみよう」というポジティブな姿勢を象徴しており、楽曲全体を通して「恐れずに、制限を超えて進め」というメッセージが鳴り響く。
歌詞では、人生の中で直面する障壁や不安、世間の視線といったものに囚われず、自分自身の本能や衝動に従って動くことの大切さが語られている。従来のルールや型に縛られることなく、“Try Everything=すべてに挑戦する”というフレーズが、ある種の生き方のスローガンとして機能している。
また、この曲は、楽観的で開放感のあるサウンドとともに、「自分自身を発見する旅」としての人生を肯定するトーンで彩られており、聴く者に“自分の限界を押し広げてみよう”という勇気を与える。
2. 歌詞のバックグラウンド
Republicaは、エレクトロニック・ロックとギターロックを融合させ、クラブカルチャーとオルタナティブロックを架橋するサウンドで90年代半ばに登場した。その中で「Try Everything」は、政治的・社会的なメッセージに満ちたトラックとは異なり、もっと個人的で感覚的なテーマを扱っている点で特徴的である。
ボーカルのSaffron(サフロン)は、この曲でも堂々とした佇まいを見せつつ、どこか無邪気な好奇心と遊び心を声ににじませている。彼女のヴォーカルは「力強さ」だけでなく、「自由」を象徴するものとしてこの曲に最適であり、決して誰かに対抗するための姿勢ではなく、自分自身に向けた励ましのような柔らかさをもって響く。
90年代という時代は、自己表現や自由意志に重きが置かれると同時に、不安定な社会状況も反映されていた。その中で「Try Everything」は、あえてシリアスに走らず、光とスピード、そして新しい可能性に満ちた音楽としてリスナーに寄り添う姿勢を取っている。
3. 歌詞の抜粋と和訳
Try everything
すべてを試してみてDon’t be afraid to fall
失敗を恐れないで
このラインは曲の中核となるメッセージであり、“完璧”や“成功”よりも、“挑戦そのもの”を称えるスタンスが表れている。挫折さえも経験として受け入れようという柔軟な哲学が垣間見える。
You won’t know until you try
試してみなければ、わからない
この一節には、可能性は常に未知であること、そしてその未知の世界に踏み出すことの価値が語られている。行動が自己を開く鍵であるという、普遍的なテーマに触れている。
※歌詞引用元:Genius – Try Everything Lyrics
4. 歌詞の考察
「Try Everything」は、他人との闘争や社会批判ではなく、あくまで“自己との対話”にフォーカスしている点で、Republicaの中でも特にパーソナルな楽曲である。挑戦すること、変化すること、冒険すること。それらは時に失敗や痛みを伴うが、だからこそ「Try Everything」という言葉は、単なる軽い決意表明ではなく、深い自己受容の表れでもある。
Saffronのヴォーカルには、確かに勇ましさもあるが、それ以上に“共に進もう”という連帯感がある。歌い手としてではなく、同じように悩み、模索し、前に進もうとする一人の人間として、聴く者と並走しているような印象を与える。
また、歌詞には大きな物語や構造はないものの、その断片的なフレーズの積み重ねによって、「未経験への敬意」と「成長する勇気」が自然と浮かび上がってくる。試すこと、動くこと、恐れずに飛び込むこと——それこそが“生きる”ということの本質なのだと、この曲は優しく、しかし確かに伝えてくれる。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Learning to Fly by Tom Petty
飛び立つこと、変化に踏み出す勇気を描いたアメリカン・ロックの名曲。 - Unwritten by Natasha Bedingfield
まだ白紙の人生を前に、筆を取る勇気を讃えるポップ・アンセム。 - Born This Way by Lady Gaga
他人の期待ではなく、自分の道を選ぶことを讃える自己肯定の強力なメッセージ。 -
Try by P!nk
「何度失敗してもいい、何度でも挑戦しよう」という感情をストレートに伝えるロック・バラード。 -
Roar by Katy Perry
内なる声を信じて、世界に向かって自分を解き放つ力強いポップソング。
6. 限界を越えていく「自己解放の音」
「Try Everything」は、1990年代のエレクトロ・ロックの中で、異色とも言えるほどポジティブなエネルギーに満ちた一曲である。それは単に明るいとか楽しいということではなく、“自分の限界を信じず、試し続ける”という、一歩踏み出す人の背中を静かに押す力があるという点で特別なのだ。
Republicaはしばしば“攻撃的なバンド”と形容されるが、この曲ではそれが“内なる葛藤との対峙”へと形を変えている。ここにあるのは、誰かに勝つことではなく、“昨日の自分”に勝つこと。その小さな勝利の積み重ねが、やがて大きな自由を手に入れることにつながる——そんな実感を、言葉と音で紡いでいる。
試して、つまずいて、また立ち上がる。
それでも歩き続ける。
「Try Everything」は、そのすべての瞬間に光を当てるような楽曲である。
そして今、何かを始めたいと願うすべての人にとって、それは小さな“テーマソング”になるのかもしれない。
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