
1. 歌詞の概要
「True Love」は、テキサス州オースティンを拠点に活動するインディーデュオ、Hovvdy(ホウディ)が2021年にリリースした4作目のアルバム『True Love』のタイトル曲であり、その精神的な核を成す楽曲である。
この曲では、「本当の愛」とは何かを、静かに、丁寧に、そして恐れずに見つめようとする姿勢が描かれている。
「True Love」という言葉にありがちなロマンチックな理想像をなぞるのではなく、むしろ日常の中で交わされる小さな仕草、さりげない眼差し、言葉にしない理解の積み重ねの中に、本物の愛が宿ることを淡々と歌い上げる。
サウンドはHovvdyらしい温かみのあるローファイ感を保ちながらも、過去作よりも開かれた、より光を感じさせるものへと進化している。
「True Love」は、穏やかで優しい音の波に包まれながら、聴き手の心にそっと寄り添う一曲なのである。
2. 歌詞のバックグラウンド
Hovvdyのメンバー、Charlie MartinとWill Taylorは、パンデミックの期間中に『True Love』を制作しており、その間に感じた孤独や不安、そしてそれを乗り越えるための人とのつながりの大切さが、アルバム全体のトーンを決定づけた。
特にこのタイトル曲「True Love」では、愛とは壮大なものでもドラマチックなものでもなく、むしろ非常に静かで個人的なものである、という彼らなりの実感が表現されている。
インタビューでも、彼らは「この曲は、愛の中に存在する小さな奇跡、つまり、日常の中でさりげなく育まれる信頼や優しさを讃えるために書いた」と語っている。
それは、目を見張るような瞬間ではなく、むしろふとした仕草や静かな瞬間に訪れるものであり、彼らの音楽性とも深く結びついている。
サウンド面では、アコースティックギターを基調に、柔らかなシンセサイザーとドラムが重なり、Hovvdyらしい親密な空気感を保ちながらも、より広がりを持ったサウンドスケープが構築されている。
3. 歌詞の抜粋と和訳
以下に、「True Love」の印象的なフレーズを抜粋し、和訳とともに紹介する。
“True love is knowing you’re not okay”
本当の愛とは、君が大丈夫じゃないと知っていること“And holding your hand anyway”
それでも君の手を握ること“True love is an open door”
本当の愛とは、いつでも開かれている扉“Come inside when you need to stay”
立ち寄りたくなったときに、そっと入れる場所
これらのフレーズは、愛とは「完璧であること」ではなく、「不完全なまま受け入れること」であるという、静かで普遍的な真理を穏やかに伝えている。
※歌詞引用元:Genius Lyrics
4. 歌詞の考察
「True Love」の歌詞は、愛に対する現実的かつ温かい眼差しを持って描かれている。
“True love is knowing you’re not okay”という一節に象徴されるように、本当の愛とは、相手が完璧であることを期待するのではなく、その弱さや不完全さごと受け止めることだ、とHovvdyは歌う。
それは、相手に何かを求めるのではなく、ただそばにいるという、シンプルだけれども非常に強い行為だ。
また、”True love is an open door”というラインは、愛する人が必要なときに戻ってこられる場所──無条件に受け入れられる空間──を象徴している。
それは必ずしも「一緒にいること」だけを意味しない。
自由を与え、尊重し、それでも変わらぬ温もりで待っていること。
そこに、Hovvdyが描く「真実の愛」の姿がある。
この楽曲は、決して大声で語られることのない、けれど日々の中で確かに存在する愛の形を、繊細な手触りで描き出している。
その誠実さこそが、「True Love」というタイトルにふさわしい所以なのだろう。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Savior Complex by Phoebe Bridgers
無償の愛と自己犠牲のあわいを、鋭くも優しく描いたオルタナティブバラード。 - Not by Big Thief
失われたものと今あるものを、繊細に対比しながら描くインディーフォーク。 - Mythological Beauty by Big Thief
家族、傷、愛を、詩的に紡いだ優しいバラード。 - If We Were Vampires by Jason Isbell and the 400 Unit
限りある命の中での愛の尊さを、静かに噛みしめるように描いた名曲。 - Night Shift by Lucy Dacus
別れの痛みと再生を、力強くも繊細に表現したインディーロックの傑作。
これらの楽曲も、「True Love」と同じように、愛と受容、そして人間関係に潜む静かな奇跡を、深い感受性で描き出している。
6. “本当の愛とは、そっと寄り添うこと”──Hovvdyが描く優しさの本質
「True Love」は、壮大な物語を語るわけでも、ドラマチックな展開を用意するわけでもない。
ただ、日常の中にふと訪れる、静かで確かなつながりを描いている。
弱さを見せられること。
不完全なまま愛されること。
必要なときに、そこにいてくれること。
Hovvdyは、そんな「小さな奇跡」を、あくまで自然体で、しかし深い敬意をもって歌い上げる。
聴き終えたあと、私たちもきっと、自分にとっての「True Love」を静かに思い出すだろう。
そして、その存在に改めて感謝したくなるはずだ。
何気ない優しさこそが、きっと世界で一番強いのだと、そっと教えられるように。
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