発売日: 2021年10月1日
ジャンル: インディーロック、ドリームポップ、ローファイポップ
概要
『True Love』は、テキサス州オースティンを拠点に活動するデュオ、Hovvdyが2021年にリリースした4作目のフルアルバムであり、彼らのキャリアにおける重要な転機となった作品である。
これまでローファイで親密な音作りを特徴としてきたHovvdyだが、本作ではより明るく、オープンで、豊かな感情表現へと舵を切っている。
『True Love』というシンプルなタイトルに象徴されるように、アルバム全体を貫くテーマは、愛、つながり、そして優しさである。
彼らは決して大仰な愛の讃歌を歌うわけではない。
むしろ、日常の小さな親密さや、静かな瞬間に宿る愛のかたちを、淡く、繊細に、そして誠実に描き出している。
サウンド面では、これまで以上にクリアで洗練されたプロダクションが施され、ギター、ピアノ、シンセ、ストリングスなどが柔らかく溶け合う。
結果として、『True Love』はHovvdyにとって最も開かれた、温もりに満ちたアルバムとなったのである。
全曲レビュー
1. Sometimes
静かなピアノと穏やかなビートで幕を開けるイントロダクション。
柔らかい光が差し込むような、優しい空気感を持つ。
2. True Love
タイトル曲にして、アルバムの中心を成すナンバー。
愛の本質を、誇張することなく、ありのままの言葉で紡ぎ出している。
リリックとメロディの純粋さが、深く心に沁みわたる。
3. Lake June
懐かしい思い出の景色と、そこで感じた感情を繊細に描く。
スロウコア的な余白のあるアレンジが、情景の儚さを際立たせる。
4. Around Again
ループする日常と、その中で見つける小さな幸福をテーマにした曲。
ギターとボーカルの親密な響きが、優しく耳を包み込む。
5. GSM
アルバム中もっともポップな瞬間。
軽快なリズムと、肩の力が抜けたメロディが心地よい。
6. Hue
色にたとえた感情の揺れを描いた、ドリーミーなナンバー。
シンセの柔らかいレイヤーが、楽曲に幻想的な広がりを与える。
7. Hope
タイトル通り、希望をテーマにした楽曲。
地味ながらも確かな温もりを感じさせるサウンドが、心をそっと持ち上げる。
8. Joy
短くも印象的な小品。
シンプルなギターと二人のボーカルが寄り添い、静かな喜びを奏でる。
9. One Bottle
失敗と赦しをテーマにした、アルバム屈指のエモーショナルなトラック。
ほのかな哀しみと救済の感情が、淡いメロディに滲んでいる。
10. Blindsided
予期せぬ感情の波に呑まれる瞬間を描いたナンバー。
ゆったりとしたテンポと、滲むようなギターが印象的。
11. Angel
人生の中でふと出会う「救い」のような存在を歌う、優しいバラード。
繊細なストリングスアレンジが、楽曲に温かな深みを加えている。
12. I Never Wanna Make You Sad
アルバムを締めくくる、シンプルで誠実なラブソング。
直球のタイトルが示す通り、無垢な優しさと誓いが、静かに、しかし力強く響く。
総評
『True Love』は、Hovvdyがこれまで積み上げてきたローファイ・インディーポップの美学を損なうことなく、より開かれた感情表現と音の豊かさを手に入れた傑作である。
彼らの描く「愛」は、決して劇的なものではない。
日常の中のふとした仕草、何気ない会話、寄り添う静けさ――そうしたささやかな瞬間に宿る真実を、Hovvdyは驚くほど繊細な感受性ですくい上げている。
サウンド面でも、ギターとピアノを中心に据えつつ、柔らかなストリングスやシンセのレイヤーが加わり、聴き手を温かく包み込む。
『True Love』は、傷つきやすい心にそっと寄り添い、静かに希望を灯してくれるアルバムなのである。
おすすめアルバム（5枚）
- Andy Shauf『The Neon Skyline』
日常の情景を繊細に切り取るストーリーテリングが共通する。 - Alex G『House of Sugar』
ローファイ感覚とエモーショナルなポップセンスの融合。 - Snail Mail『Valentine』
傷つきやすい感情とポップセンスを瑞々しく描いたインディーロック。 - Soccer Mommy『Sometimes, Forever』
日常と内面の揺れをドリーミーに描く最新インディーポップ。 - Florist『Florist』
静かで親密な音作りと、自然体のリリックが響き合う作品。
制作の裏側（Behind the Scenes）
『True Love』は、Hovvdyの二人が自宅スタジオでセルフプロデュースしつつ、プロデューサーのAndrew Sarlo（Big Thief、Bon Iverなど）と共同制作された。
レコーディングでは、これまで以上にオープンで暖かな音作りを目指し、アナログ機材を用いた生録りに重点が置かれた。
また、制作過程では「大きな感情を小さな声で歌う」というHovvdy独自の美学が貫かれ、リスナーに寄り添うような親密さがアルバム全体に息づいている。
この制作スタイルが、『True Love』の持つ静かなエモーションと、広がりのある優しさを支えているのである。
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