1. 歌詞の概要
「Timeless Melody（時を超える旋律）」は、イギリス・リヴァプール出身のバンド、The La’s（ザ・ラーズ）が1990年にリリースした唯一のスタジオアルバム『The La’s』に収録された楽曲である。
「There She Goes」の陰に隠れがちではあるが、音楽をテーマにしたこの曲は、バンドの持つ叙情性と哲学的感性を強く感じさせる名曲であり、音楽そのものへの賛歌とも呼べる内容を持っている。
タイトルの「Timeless Melody」は直訳すると「時代を超越した旋律」。
その名のとおり、歌詞では“時代や国を問わず、心を動かす音楽の力”が描かれており、旋律が人間の感情を操り、運命すら変えてしまうような不思議な力を持っていることへの驚きと畏敬の念が込められている。
これはラブソングではない。しかし、音楽という“目に見えない恋人”の存在に捧げられた、最も純粋で深い愛の歌とも言えるのだ。
2. 歌詞のバックグラウンド
「Timeless Melody」は、The La’sのフロントマンであり、ほとんどの楽曲を作詞作曲したリー・メイヴァース（Lee Mavers）によって書かれた。
彼は音楽そのものに対して極端なまでのこだわりを持つ人物として知られており、『The La’s』のレコーディングでも「納得がいかない」と何度もやり直しを求め、完成を拒み続けた逸話が残っている。
そんな彼が“旋律”という抽象的な存在に対して敬意を込めて綴ったこの曲は、自らの芸術観の告白でもある。
「どうしてこのメロディは、こんなにも人の心を揺らすのだろう？」という問いは、同時に「なぜ自分は音楽に取り憑かれてしまったのか？」という自己の投影でもあるのだ。
音楽とは何か。美とは何か。心を動かすものとは何か。
「Timeless Melody」は、そうした普遍的な疑問に対して、言葉ではなく“音”で答えようとした1曲である。
3. 歌詞の抜粋と和訳
以下に、「Timeless Melody」の印象的な歌詞を抜粋し、日本語訳を併記する。
“The melody always finds me / Whenever the thought reminds me”
「その旋律はいつも僕を見つけるんだ / 思い出すたびにそっと寄り添ってくる」
“Breaking the chains of emotion / I stumble, then fall into night”
「感情の鎖を断ち切って / 僕はつまずき、夜の中へ落ちていく」
“Timeless melody / A timeless melody”
「時を超える旋律 / それは永遠に続く旋律」
“Could have been, should have been / Might have been, you can find”
「そうだったかもしれない、そうあるべきだったかもしれない
そうだったのかもしれない――きっと探せるさ」
歌詞全文はこちらで確認可能：
The La’s – Timeless Melody Lyrics | Genius
4. 歌詞の考察
この曲は、音楽に“操られる”ような感覚、そしてその陶酔感と抗えなさを美しく描いている。
リー・メイヴァースは、「旋律に感情を握られている」ことを語りながらも、決してそれを恐れたり否定したりしない。
むしろその力に身を委ね、自分の人生を音楽の流れに漂わせているような姿勢が伝わってくる。
「Timeless melody」というフレーズは、ただの褒め言葉ではない。
それは“時間を超えて響き続ける何か”であり、作り手であるはずの自分ですら制御できない、不思議な力のことを指している。
それはまるで、夢の中に突然現れる風景のように、理屈では説明できない“心を揺らす何か”なのだ。
また、歌詞中に繰り返される「could have been」「should have been」といった仮定法の表現は、過去の選択へのわずかな悔恨と希望をにじませている。
音楽という存在は、こうした“やり直せなかった瞬間”を包み込む装置でもあり、忘れていた想いをふと蘇らせる装置でもある。
そして、この曲自体が“時を超える旋律”であるかのように、シンプルなコード進行と優雅なメロディが聴き手の中に静かに残っていく。
それは「There She Goes」のような即効性のあるフックではなく、じわじわと染み渡るような、“時間をかけて記憶に根付く旋律”なのだ。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- God Only Knows by The Beach Boys
愛と運命、音楽の神秘をすべて音に託した、ポップミュージックの金字塔。 - Waterloo Sunset by The Kinks
都市の風景の中にある孤独と美しさを、詩的に描いたUKポップの傑作。 -
This Is the Day by The The
運命の一日、心の変化、旋律の優しさ――すべてが融合した名曲。 -
In My Life by The Beatles
思い出の中の人と場所を音楽で繋ぐ、時を超えるラブレターのような楽曲。 -
Elephant Stone by The Stone Roses
浮遊感あるサウンドと、時間や精神性への問いを同時に含んだサイケデリック・ポップ。
6. “旋律に導かれる人生、その幸福と呪い”
「Timeless Melody」は、音楽そのものに人生を賭けた男――リー・メイヴァースによる、最も純粋な祈りのような曲である。
それは自分の中から生まれたのか、それとも外から降りてきたのか分からない旋律に、ただ身を委ねることしかできないという“創作の宿命”でもある。
音楽を聴く人、奏でる人、どちらであれ、この曲は「旋律とは何か」という根源的な問いを、決して理屈ではなく“感覚”として教えてくれる。
「Timeless Melody」は、誰かの心の奥で一生鳴り続ける、まさに“時を超える旋律”そのものなのだ。
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