
楽曲の概要
「This Is the New Shit」は、Marilyn Mansonが2003年に発表した5作目『The Golden Age of Grotesque』の収録曲で、アルバム冒頭の短い「Thaeter」に続く実質的なオープニング曲である。作詞はMarilyn Manson、作曲はManson、John 5、Tim Sköld。プロデュースはMansonとSköld、共同プロデュースとミックスをBen Grosseが担当した。ギター中心だった従来のインダストリアル・メタルに、プログラミングされたビートと電子的な低音を大きく取り込んだ楽曲である。
タイトルだけを見ると「これが新しい音楽だ」という宣言に思えるが、実際には正反対に近い。歌詞はポップカルチャーが「新しいもの」を次々に要求しながら、実際には反抗、セックス、暴力、孤独など同じ材料を再包装している状況を皮肉っている。しかもManson自身が、その売れやすい公式を使って非常にキャッチーな曲を作っている。批判する対象の外側から石を投げるのではなく、自分自身も商品としてその仕組みの中に入ることが、この曲の重要な仕掛けである。
歌詞の概要
歌詞は「もうすべて言い尽くされてしまった」という感覚から始まる。新しいメッセージなど残っていないのなら、反抗、パーティー、セックス、暴力、恋愛、孤独といった刺激的な言葉を並べ、覚えやすいスローガンを入れれば人々は歌うだろう、という発想へ進む。これはManson自身がそうした価値観を素直に支持しているのではなく、大衆文化を作る公式を極端に単純化したものとして読める。
特に面白いのは、「新しさ」を売る曲なのに、歌詞が新しい内容を提供しようとしていないことである。意味のある文章は次第に単語の羅列へ崩れ、最終的には聞き手が反応しやすい掛け声へ近づいていく。人々が内容より刺激の強さや反復に反応するなら、歌詞そのものを広告コピーのようにしてしまえばいい、という皮肉である。
Mansonは2003年のインタビューで、この曲は『The Golden Age of Grotesque』をどこへ向かわせるかという自分自身への「質問と回答」だったと説明している。当初はポップカルチャーを扱っていたが、より広くは、ポップカルチャーに影響されながらそこから逃れられない人間の行動についての曲でもあるという。その意味で、語り手が批判しているのは音楽業界だけではない。「新しいもの」を要求しながら、結局いつもの刺激へ反応してしまう聞き手も曲の中に含まれている。
制作背景・時代背景
『The Golden Age of Grotesque』は、2000年の『Holy Wood (In the Shadow of the Valley of Death)』に続く作品で、2003年5月に発表された。制作上の大きな変化はTim Sköldの存在である。Sköldはベースだけでなく、プログラミング、デジタル編集、アレンジ、エンジニアリング、プロデュースまで深く担当し、Mansonの音楽をより電子的でリズム中心の方向へ動かした。「This Is the New Shit」はその変化が最も分かりやすい曲の一つである。
Mansonによれば、この曲はアルバムのために最初に書かれた楽曲だった。制作時にはヒップホップのビートが人を身体的に反応させる仕組みに関心を持ち、まずフックになるビートを作り、その後でギター・リフを加えるという方法を試したという。ギターから曲を組み立てる従来型のハードロックとは順序が逆であり、それが「This Is the New Shit」の機械的でダンサブルな感覚につながった。
アルバム全体では、1920〜30年代のベルリン、ダダイズム、キャバレー、退廃芸術などを思わせる視覚表現も使われた。古い芸術運動やショービジネスのイメージを借りながら、音楽では当時のエレクトロニックなビートを強く導入するという組み合わせである。「新しいもの」を疑う歌が、過去の文化と2000年代的な音を意図的に混ぜている点にも、この時期のMansonらしい皮肉がある。
歌詞の抜粋と和訳
タイトルの「This Is the New Shit」は、直訳すれば「これが新しいヤツだ」といった意味になる。ここでの「new」は純粋な革新を意味するというより、メディアや音楽産業が次の商品へ貼り付けるラベルとして使われている。新しいと宣言すれば、それだけで新商品として流通できるという発想への嘲笑が含まれている。
歌詞で繰り返されるのは、反抗、パーティー、セックス、暴力、恋愛、孤独といったポップカルチャーで消費されやすい材料である。Mansonはそれらを物語へ発展させず、意味が薄れるまで機械的に並べる。だから歌詞の「中身がない」ことは欠点ではなく、中身のないスローガンでも反復すれば商品になるという曲のテーマそのものなのである。
サウンドと歌詞の考察
「This Is the New Shit」で最初に重要なのは、ギターよりビートが曲の設計を支配していることである。Manson自身が後年語ったように、制作ではヒップホップ的な「ビート自体をフックにする」発想が先にあった。Tim Sköldによるドラム・プログラミングは生ドラムの自然な揺れを前面に出すのではなく、短く硬い音を規則的に配置する。そこへ低いギター・リフが噛み合い、ロック・バンドというより巨大な機械が一定速度で動いているようなグルーヴを作る。
ヴァースではこの機械性が歌詞にも移る。Mansonは旋律を大きく歌い上げず、短い単語をビートへ押し込むように発音する。反抗、快楽、暴力など、本来なら強い意味を持つ言葉が同じリズムで並ぶことで、広告のキーワードや検索タグのように平板になっていく。歌詞が「大衆文化の公式」を批判するだけでなく、ボーカルのリズムそのものがその公式を再現しているのである。
サビでは反対に、極端に単純な掛け声が中心になる。ここでは複雑な主張を理解する必要がなく、観客は言葉とリズムを覚えて一緒に反応できる。つまり曲は「人々は単純なスローガンを与えられると歌う」という皮肉を、そのまま巨大なライブ向けのフックへ変えている。批判している仕組みを実際に利用してヒット性を作るため、聞き手も安全な観察者ではいられない。
John 5のギターも、この目的に合わせて技巧を抑えている。長いソロで演奏者の個性を見せるより、短いリフをビートと一体化させ、打楽器に近い役割を持たせる。Madonna Wayne GacyのキーボードやSköldのプログラミングも同様に、華麗な旋律より音色と反復を重視する。その結果、メタルの重量感は残っているのに、身体の動かし方はロックというよりエレクトロやヒップホップへ接近している。
このサウンド変更は歌詞の「新しいもの」というテーマとも噛み合う。Mansonは新しい音楽を嘲笑しながら、自分自身も当時の電子的なビートを積極的に導入している。しかし、それは単なる自己矛盾ではない。「新しい」という看板を批判しているのであって、音楽的な変化そのものを否定しているわけではないからだ。むしろ過去の自分のスタイルまで商品として固定されることを避け、別の制作方法を試すことで、その矛盾を曲そのものへ取り込んでいる。
そのため「This Is the New Shit」は、反主流派を名乗るだけの反抗歌とは少し違う。Manson自身も巨大なレコード会社から作品を発売し、刺激的なイメージを商品として流通させるスターだった。だから「反抗すら商品になる」という批判は、自分自身にも向けられている。音楽的には非常にキャッチーなのに、歌詞はキャッチーなものを求める文化を嘲笑する。この循環から簡単な答えを出さないところに、曲の面白さがある。
この曲が好きな人におすすめの曲 5曲
「mOBSCENE」 by Marilyn Manson
同じ『The Golden Age of Grotesque』を代表する曲。こちらは軍楽やキャバレーを思わせる掛け声を取り込み、より演劇的に仕上げている。単純な言葉の反復を巨大なコーラスへ変える方法は「This Is the New Shit」と共通している。
「The Beautiful People」 by Marilyn Manson
1996年の代表曲で、反復する低音リフと機械的なドラムによって集団的な圧力を作る。「This Is the New Shit」と比較すると、1990年代のインダストリアル・メタルから2000年代の電子的なビートへ変化した過程が分かりやすい。
「The Fight Song」 by Marilyn Manson
『Holy Wood』収録曲。「This Is the New Shit」よりギター中心のハードロックだが、反抗的なスローガンを観客が一緒に叫べるサビへ変える構造が近い。両曲を比べると、その手法を後者が意図的に自己批評していることも見えてくる。
「Wish」 by Nine Inch Nails
インダストリアル・ロックの機械的なビートと激しいギターを結びつけた代表曲。「This Is the New Shit」より荒々しいが、生演奏とプログラミングの境界を曖昧にし、反復そのものを攻撃的なフックへ変える点で共通している。
「Dragula」 by Rob Zombie
ヘヴィなギター、電子音、ダンス可能なビートを一つの派手なロック・トラックへまとめた曲。歌詞の方向性は異なるが、メタルの重量感をクラブ的な反復へ接続する方法は、2000年代のMansonへつながる感覚を持っている。
まとめ
「This Is the New Shit」は、「新しいもの」を要求し続けるポップカルチャーを批判しながら、その文化が最も反応しやすい方法で作られた曲である。Tim Sköldを中心とする硬いプログラミング、低いギター・リフ、単語を機械的に並べるMansonのボーカルによって、反抗やセックスや暴力さえ交換可能な商品へ変わっていく。しかもサビは意図的に単純で、一度聞けば観客が参加できる。『The Golden Age of Grotesque』で進んだ電子的なサウンドへの変化を示すと同時に、「反抗するロックスター」というMarilyn Manson自身のイメージまで商品化される状況を皮肉った、自己批評性の強い一曲である。
参照元
- Marilyn Manson公式YouTube「This Is The New Shit」
- 『The Golden Age of Grotesque』オリジナル・クレジット
- Outburn「Marilyn Manson」2003年インタビュー
- Phoenix New Times「I Like to Smoke and Hang Out with the Gangsta Rappers」Marilyn Mansonインタビュー
- MusicBrainz『The Golden Age of Grotesque』
- Shazam「This Is the New Shit」

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