
楽曲の概要
「This Too Shall Pass」は、アメリカのロックバンドOK Goが2010年に発表した楽曲である。3作目のスタジオアルバム『Of the Blue Colour of the Sky』に収録され、同作からのシングルとしてリリースされた。作詞・作曲はDamian KulashとTim Nordwind、プロデュースはDave Fridmannが担当している。
タイトルの「This Too Shall Pass」は、「これもいずれ過ぎ去る」という意味の古くから使われてきた言葉である。つらい状況も永遠には続かないという考えを、OK Goは大きなドラム、歪んだギター、シンセサイザー、合唱のようなコーラスを使った高揚感のあるポップロックへ変えている。
この曲は音源だけでなく、2種類の公式ミュージックビデオでも大きな注目を集めた。一つはマーチングバンドとの共演、もう一つは巨大なルーブ・ゴールドバーグ・マシンを使った映像である。「Here It Goes Again」に続き、映像そのものを音楽と同じくらい重要な表現として扱うOK Goの姿勢を決定づけた作品でもある。
歌詞の概要
「This Too Shall Pass」の語り手は、何か重いものを抱え、身動きが取れなくなっている人物に語りかけている。具体的に何が起きたのかは説明されない。仕事の失敗、恋愛、人間関係、社会的な不安など、さまざまな状況へ置き換えられる書き方になっている。
中心にあるのは、「悪い状況をいつまでも握りしめている必要はない」という考えだ。苦しみそのものを否定するのではなく、それが永遠に続くものではないと捉え直している。
タイトルが重要なのはそのためである。「This too shall pass」という言葉は、問題がすぐ解決すると約束しているわけではない。ただ、現在の状態も時間の中では変化していく。だから、今の苦しさだけを世界のすべてだと考えなくていいというメッセージになる。
歌詞には「手放す」という動作も繰り返し現れる。自分を苦しめているものを無理に抱え続けるより、一度そこから力を抜く。その意味で、この曲が描く前向きさは「もっと頑張れ」というものではない。むしろ、抱え込むことをやめることから始まっている。
Damian Kulashは『Of the Blue Colour of the Sky』について、希望の見つけにくい時代にどう希望を探すかというテーマと結びつけて語っている。2000年代末の景気後退と重なる時期に書かれたこともあり、「This Too Shall Pass」は個人的な励ましと社会全体の不安の両方へ開かれた曲になっている。
制作背景・時代背景
『Of the Blue Colour of the Sky』は、OK Goにとってサウンド面で大きな変化を見せた作品だった。2005年の前作『Oh No』では、「Here It Goes Again」に代表される乾いたギターロックやパワーポップが中心だったが、3作目ではファンク、サイケデリック・ポップ、電子音などをより強く取り込んでいる。
プロデュースにはDave Fridmannを迎えた。FridmannはThe Flaming LipsやMercury Revなどとの仕事で知られ、楽器を自然に録音するだけでなく、ドラムや低音を極端に大きくしたり、音を歪ませたりするプロダクションを得意としている。
「This Too Shall Pass」にもその特徴がはっきり出ている。OK Goの以前の曲と比べると、ドラムは巨大で、ギターやシンセも少し輪郭が崩れるほど厚く重なっている。きれいに整理されたポップロックより、音が一斉に押し寄せる感覚が強い。
もう一つ重要なのが、ミュージックビデオをめぐる展開である。最初の公式映像では、OK GoがUniversity of Notre Dameのマーチングバンドと共演した。アルバム版を流して演技するのではなく、実際の演奏を生かした別バージョンになっている。
さらに2010年3月には、Damian KulashとJames Frostが監督したルーブ・ゴールドバーグ版が公開された。大量の日用品や機械を連鎖的に動かし、その動きを曲の進行と同期させた映像である。機械の制作にはロサンゼルスのSyyn Labsを中心とする多数の技術者が参加した。
この映像は、「Here It Goes Again」のトレッドミル映像で知られていたOK Goが、音楽ビデオを単なる宣伝ではなく独立した作品としてさらに発展させたものだった。
歌詞の抜粋と和訳
「This too shall pass」
和訳:これも、いずれ過ぎ去る
曲のタイトルであり、中心となる考えをそのまま表した言葉である。重要なのは「何も心配するな」と言っているわけではないことだ。
苦しいことは実際に苦しい。しかし、それが永遠に現在と同じ形で続くわけでもない。時間の経過によって状況も感情も変わるという、ごく単純な事実を繰り返すことで、現在の問題との距離を少し広げている。
サウンドと歌詞の考察
「This Too Shall Pass」の最大の特徴は、歌詞が「力を抜いて手放す」ことを勧めているのに対して、演奏は非常に大きく力強いことである。
曲は強いドラムとバンド全体の密度によって、最初から前進するエネルギーを持っている。静かなバラードとして励ますのではなく、大勢の人間が一緒に進んでいくようなロックとして演奏される。
ドラムは特に重要だ。音が非常に太く、キックとスネアの一打が曲全体を押している。Dave Fridmannのプロダクションらしく、自然なドラムセットを少し離れた場所から聴く感覚ではなく、打撃そのものが巨大化したように聞こえる。
この大きなドラムによって、「これも過ぎ去る」という静かな言葉が、慰めではなく行動のための掛け声になる。
ギターも以前のOK Goとは少し違う。「Here It Goes Again」のように乾いた短いリフを明確に聞かせるより、歪みと残響を使って広い音の層を作る。そこへキーボードや電子音が重なり、ロックバンドの4人編成以上の規模に聞こえる。
一方で、メロディそのものはかなり素直である。Damian Kulashは複雑な音程を細かく動くより、大勢で歌える長めのフレーズを使う。特にタイトル部分は覚えやすく、言葉そのものがサビの中心になる。
この「複雑な音の壁」と「単純なメロディ」の組み合わせが重要だ。周囲には混乱するほど多くの音があるのに、ボーカルが伝える内容は非常に簡単である。
歌詞の状況とも似ている。人生には複雑な問題がある。それをすべて一度に解決することはできない。しかし、「この状態も永遠ではない」という一つの考えなら覚えておくことができる。
Kulashの歌い方も、個人的な告白というより他人へ声をかけるような性格を持つ。ヴァースでは比較的落ち着いているが、曲が進むにつれて複数の声が加わり、一人のメッセージが集団の歌へ変わっていく。
この集団性は、マーチングバンド版のビデオで特に分かりやすくなった。
マーチングバンドは本来、大人数が同じテンポを共有しながら動く音楽である。「This Too Shall Pass」も、一人で部屋に閉じこもって悩むための曲というより、多数の人間が同じリズムの中で前へ進む感覚を持っている。ブラスや打楽器へ置き換えても曲の芯が崩れなかったのは、そのためだ。
そして、ルーブ・ゴールドバーグ版のミュージックビデオは、この曲にある別の特徴を視覚化している。
ルーブ・ゴールドバーグ・マシンとは、本来なら簡単にできる作業を、わざと大量の仕掛けを経由して実行する装置である。ボールが転がり、何かにぶつかり、それが別の装置を動かし、さらに次の出来事へつながっていく。
一つの動きが次の動きを生み、その結果がさらに次へ渡されていく。この連続性は「This Too Shall Pass」というタイトルと非常に相性がいい。
どの状態もその場に止まり続けない。ボールは転がり、物は倒れ、仕掛けは次の段階へ進む。一つの出来事が終わることで、次の出来事が始まる。
つまり映像では、「すべては通過していく」という歌の考えが、物理的な運動として見える。
しかも、機械は非常に複雑なのに、目的は単純である。この構造も曲と似ている。サウンドは大量の楽器とノイズによって大きく作られているが、歌詞の結論は「手放せ」「これも過ぎる」という短い言葉だ。
音楽的には反復も重要である。同じリズムやメロディが何度も戻ってくるが、演奏の密度は少しずつ変化する。同じ場所を完全に繰り返しているようで、実際には次の段階へ進んでいる。
これもタイトルとつながる。時間は同じ一日を何度も繰り返しているように感じることがあるが、完全に同じ瞬間は戻らない。曲も基本的な形を反復しながら、少しずつ音を積み上げていく。
また、曲には非常に強い高揚感があるが、歌詞は「すべてうまくいく」と保証してはいない。この違いは大切だ。
「This Too Shall Pass」は成功を約束する歌ではない。何かを失うこともあるし、望んだ結果にならない可能性もある。それでも現在の苦痛が固定されたものではないという事実だけは残る。
だから音楽の明るさも、勝利の音というより移動の音として聞こえる。
足を止めて問題が消えるのを待つのではなく、状況が変化し続ける中で自分も進んでいく。ドラムが一定の力で曲を運ぶことが、その感覚を身体的に伝えている。
Dave Fridmannによる厚いプロダクションも、この曲では効果的である。音がきれいに分離されすぎていないため、一つひとつの楽器というより大きな集団が鳴っているように感じられる。
この「個人から集団へ」という広がりが、「This Too Shall Pass」を単なる自己啓発的な歌にしない。
一人で自分自身へ「大丈夫」と言い聞かせるのではなく、全員で同じ言葉を繰り返す。その結果、個人的な不安が共同体の歌へ変わる。
OK Goはこの考えを二つの異なる映像でも表現した。マーチングバンド版では人間が集団として動き、ルーブ・ゴールドバーグ版では物体が連鎖として動く。どちらも、何かが一か所に留まらず次へ進んでいくことを見せている。
だから「This Too Shall Pass」は、曲、歌詞、映像を別々に考えるより、「動き続ける」という一つの考えが三つの形で表れている作品として見ると理解しやすい。
この曲が好きな人におすすめの曲 5曲
「End Love」 by OK Go
同じ『Of the Blue Colour of the Sky』収録曲。反復するリズムと少しサイケデリックな音を使いながら、人間関係の変化を描く。「This Too Shall Pass」より内向きだが、Dave Fridmann期の厚い音作りを続けて聴ける。
「WTF?」 by OK Go
アルバムの冒頭曲で、歪んだベースとファンク的なリズムが強い。「This Too Shall Pass」より奇妙で攻撃的だが、前作までのギターロックから音楽性を大きく広げた時期のOK Goがよく分かる。
「All Is Not Lost」 by OK Go
同じアルバムの終盤に収録された曲。タイトル通り希望を失わないことを扱い、「This Too Shall Pass」と歌詞の方向が近い。こちらはより柔らかなメロディとコーラスを使って前向きさを作っている。
「Do You Realize??」 by The Flaming Lips
Dave Fridmannが制作に関わった代表的な楽曲。人生の有限さという重い題材を、巨大なドラムと明るいサイケデリック・ポップへ変えている。「This Too Shall Pass」の希望と切なさの組み合わせにも近い。
「Wake Up」 by Arcade Fire
大勢で歌うコーラスと大きなドラムによって、個人的な感情を集団的な高揚へ変える曲。「This Too Shall Pass」と同じく、一人の歌声が次第に観客全体の掛け声へ変わっていくタイプのロックである。
まとめ
「This Too Shall Pass」は、「現在の苦しさも永遠には続かない」という非常に簡潔な考えを、大きなドラムとギター、シンセ、コーラスを使って集団的なロックへ変えた曲である。無理に強くなれと励ますのではなく、自分を重くしているものを少し手放すことから始めている。
サウンドでは、Dave Fridmannによる厚く歪んだプロダクションが、以前のOK Goより大きなスケールを作った。そこにDamian Kulashの単純で覚えやすいメロディを置くことで、複雑な状況の中でも繰り返せる一つの言葉を残している。
さらにマーチングバンド版とルーブ・ゴールドバーグ版の二つの映像が、「すべては次の状態へ移っていく」という曲の感覚を別々の方法で見せた。特に巨大な装置が一つの動きから次の動きへ連鎖する映像は、タイトルの意味と自然に重なる。「This Too Shall Pass」は、OK Goが音楽と映像を一体の表現として発展させた時期を代表すると同時に、変化そのものを希望として捉えた一曲である。
参照元
- OK Go『Of the Blue Colour of the Sky』
- OK Go公式「This Too Shall Pass – Rube Goldberg Machine」ミュージックビデオ
- University of Notre Dame Magazine「A ‘massive explosion of joy and music’」
- Wired「How OK Go’s Amazing Rube Goldberg Machine Was Built」
- Dave Fridmann / Tarbox Road Studios制作資料

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