1. 歌詞の概要
「This Time Around(ディス・タイム・アラウンド)」は、アメリカの兄弟バンドHanson(ハンソン)が2000年にリリースしたセカンドアルバム『This Time Around』の表題曲であり、シングルとしても発表されたロック色の強い楽曲である。1997年の世界的ヒット「MMMBop」で鮮烈なデビューを飾った彼らが、その3年後に放ったこの曲は、明らかに“次のフェーズ”への意志を示した作品となっている。
この楽曲の核心には、“繰り返される過ちの中で、今回はもう同じにはしない”という、決意と覚醒のメッセージが込められている。タイトルの「This Time Around」は、過去を踏まえた上での“次の一歩”という意味を持ち、理不尽や裏切りに晒されながらも、それに飲み込まれずに立ち向かおうとする姿勢が、力強いサウンドとともに描かれている。
2. 歌詞のバックグラウンド
『This Time Around』は、Hansonにとって最初の“成熟”を示すアルバムだった。前作『Middle of Nowhere』のリリース時、メンバーはまだティーンエイジャーであり、ポップで無垢なイメージが強かったが、このセカンドアルバムでは、よりロック寄りのサウンド、より内面的で批評的な歌詞を採用し、彼らの“本当の音楽性”が浮き彫りとなっている。
表題曲「This Time Around」では、ギターを前面に押し出したアレンジに加え、ブルースロック界のギターレジェンド、ジョン・シャンクスが演奏とプロデュースに参加。これにより、兄弟バンドの軽やかなハーモニーと、ヘヴィなロックサウンドが融合する、より厚みのある作品に仕上がった。
この曲のリリース当時、Hansonは業界との軋轢やメディアからの偏見にも直面していた。その中で彼らは、自分たちの声と意志を音楽を通して真摯に発信しようとしていた。「This Time Around」は、そうした背景を反映した“自己主張の歌”であり、かつ“変化への宣言”だったのである。
3. 歌詞の抜粋と和訳
It’s getting harder to reach you
君に届くのが、どんどん難しくなってるEven though I try
どれだけ手を伸ばしてもYou don’t even see me
君は僕のことなんて見ていないThis time around
でも今回は違うんだWe won’t go down
もう、あのときのようにはならないNot without a fight
戦わずには、終わらせないYou said you’d never let me down
裏切らないって言ってたのにBut the truth is coming out
でも、真実はもう明らかだ
引用元: Genius Lyrics – Hanson / This Time Around
4. 歌詞の考察
「This Time Around」の歌詞は、失望と反発、そして“立ち直り”の物語である。誰かに裏切られた記憶、傷つけられた過去——しかし、それに屈しないという決意が全体を貫いている。「今回は違う」という宣言は、受け身ではなく、能動的な変化への意志の表明だ。
特に印象的なのは、「戦わずに終わらせはしない(Not without a fight)」という一節である。これは個人的な関係だけでなく、音楽業界、世間、メディアなど、あらゆる“自分たちを型にはめようとする力”へのカウンターとも受け取れる。彼らはまだ若く、しかし自分の言葉と道を選び取ろうとしていた。
そしてそのメッセージは、激しいロックサウンドによってさらに増幅される。弦をかき鳴らすギター、ドラムの強烈なビート、叫ぶように響くヴォーカル。音と言葉が一体となって、「今度こそ変える」という意志をまっすぐに届けてくるのだ。
この曲は、単に“成長”を描いたものではない。むしろ“対峙”と“自己解放”の物語なのである。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- “You Get What You Give” by New Radicals
社会や他人の期待に抗い、自分の声を届けようとする姿勢が共通する。 - “My Hero” by Foo Fighters
ロック的熱量と内省を同時に持つ名曲。叫びの中に祈りがある。 - “Drive” by Incubus
他人に操られず、自分の人生を選び取るというメッセージが共鳴する。 - “Push” by Matchbox Twenty
感情の複雑さをロックのダイナミズムで包み込んだ90年代後期の名バラード。 - “It’s My Life” by Bon Jovi
世間の枠にとらわれない生き方を選ぶという点で、精神的に共鳴する一曲。
6. “少年が青年になるときの反抗と決意”
「This Time Around」は、Hansonがティーンアイドルから脱却し、真のアーティストとして歩み出す第一歩として位置づけられる楽曲である。無垢で愛らしい“少年たち”が、理不尽や誤解に晒され、それでもなお自分たちの声で未来を切り開こうとする姿——それが、この曲の中には強く刻まれている。
彼らはもう「MMMBop」で微笑んでいた子どもではない。過去を見つめ、それを糧にして、さらに強くなった“Hanson”がここにいる。そしてその声は、若さゆえの無鉄砲さではなく、“傷ついたからこそ信じられる強さ”を宿している。
だからこそ、「This Time Around」は単なるロックチューンではない。世代や国を超えて、“変わろうとするすべての人”のアンセムとして、今なお力強く響き続けているのだ。誰かに抑圧されたとき、過去の自分を超えたいとき、ぜひこの曲を思い出してほしい。きっとその一歩を踏み出す勇気を与えてくれるだろう。
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