発売日: 2000年6月12日
ジャンル: オルタナティブ・ロック、ネオ・サイケデリア、ガレージ・ロック、ドリーム・ポップ
概要
『Thirteen Tales from Urban Bohemia』は、The Dandy Warholsが2000年に発表したサード・アルバムであり、バンドにとって最大の成功を収めた代表作である。
シングル「Bohemian Like You」のヒットによって一躍世界的に知られる存在となり、オルタナティブ・ロックとポップのバランスを極めた一作として評価された。
前作『…The Dandy Warhols Come Down』ではサイケデリックな音響実験と脱力的美学が際立っていたが、本作ではメロディの明瞭さ、リフの力強さ、そして多様な楽曲構成によって、より広いリスナー層にアピールする内容となっている。
とはいえ、決して商業主義に染まったわけではない。
「都市のボヘミアンたちの13の物語」と題されたこのアルバムには、退廃と諧謔、孤独と解放、ロマンティックな皮肉が織り交ぜられており、彼らの美意識とアイロニーはむしろ研ぎ澄まされている。
音楽的にはブリットポップ終焉後のオルタナ再定義とも言える内容であり、2000年代初頭のギターロック復権の先駆けとしても記念碑的な作品である。
全曲レビュー
1. Godless
壮大なストリングスとスロウなビートで始まる、異色のオープニング。
“神なき世界”を嘆くようでいて、どこか解放された雰囲気も漂う。
ダンディーズにおける“神聖な空虚”の象徴とも言える曲。
2. Mohammed
中東的旋律と反復ビートが混ざり合うサイケ・ロック。
タイトルが示す宗教的イメージと、歌詞の曖昧さが、神秘性と皮肉を両立させる。
3. Nietzsche
フリードリヒ・ニーチェを題材にした、混沌と暴力性が際立つガレージ・ナンバー。
荒々しいギターと“God is dead”という哲学的モチーフが直結するような衝撃力を持つ。
4. Country Leaver
カントリーロック調の軽妙な一曲。
アルバム中でもっとも肩の力が抜けており、都会の喧騒から抜け出す田舎者の視点がユーモラスに描かれる。
5. Solid
メロディとリフのキャッチーさが際立つパワー・ポップ風楽曲。
“ソリッド”という言葉が音の輪郭そのままを表しているかのような、硬質で爽快な一曲。
6. Horse Pills
ハイテンションでファズまみれのサイケ・パンク。
“ドラッグ文化”への風刺と享楽が入り混じり、彼らの毒っ気がもっとも強く表れた曲。
7. Get Off
リフ主導の典型的ガレージ・ロック。
欲望とフラストレーションがそのまま音になったような、直情的快楽の塊。
8. Sleep
アルバム中もっともメランコリックで美しいバラード。
“眠る”ことが、現実逃避でもあり、再生でもあるような、深い情感に満ちている。
9. Cool Scene
ポップなコード進行にアイロニカルな歌詞が乗る、ダンディーズらしい一曲。
“クールな奴ら”への距離感が、風刺と共感の間で揺れる。
10. Bohemian Like You
バンド最大のヒット曲。
力強いギターリフと脱力的ボーカル、そして“君みたいなボヘミアンが好きさ”というシニカルなラブソング。
VodafoneのCMでの起用をきっかけに世界的ヒットとなった。
11. Shakin’
グルーヴィーなベースラインと反復ビートが光る、ミドルテンポのロック・チューン。
酩酊と陶酔の境界を行き来するような曲調が特徴。
12. Big Indian
広がりのある音像と淡いメロディが溶け合う、内省的なナンバー。
旅と記憶、個人的な神話のようなテーマが感じられる。
13. The Gospel
アルバムのラストを飾る荘厳なバラード。
“福音”というタイトルにふさわしく、開放と静寂、精神的な余韻を残す締め括りとなっている。
総評
『Thirteen Tales from Urban Bohemia』は、The Dandy Warholsが自身の美学をポップ・フォーマットで極限まで昇華した決定的作品である。
ポップとサイケ、アイロニーと誠実さ、暴力性と静謐──それらが高度なバランスで成立しており、単なる“ヒットアルバム”にとどまらず、2000年代初頭のロックを語るうえで避けて通れない作品となっている。
本作の成功により、彼らは一躍メインストリームへの扉を開いたが、同時にその後の方向性には常にこのアルバムの影がつきまとった。
それほどに、“13の物語”は鮮やかで、重層的で、記憶に残るものだったのである。
おすすめアルバム
- The Strokes / Is This It
同じく2000年代初頭のギター・ロック復権の象徴。都会の退屈とクールネスを描くという点で共鳴。 - Primal Scream / XTRMNTR
政治性とノイズ、サイケが融合したロックの最前線。『Thirteen Tales』とは対照的でありながら補完的。 - Black Rebel Motorcycle Club / B.R.M.C.
退廃と美学、ガレージとサイケの交錯する世界観が近似。 - Eels / Daisies of the Galaxy
ポップと憂鬱、皮肉と優しさを併せ持つ叙情世界。 -
Beck / Sea Change
『Thirteen Tales』の後に訪れる感情の静けさ。内省的なポップの理想形。
ファンや評論家の反応
『Thirteen Tales from Urban Bohemia』は、商業的にも批評的にもThe Dandy Warholsにとって最大の成功作である。
「Bohemian Like You」は、テレビCMや映画で頻繁に使用され、時代の空気と結びついた。
同時に、アルバム全体の完成度の高さから、彼らの音楽的成熟とビジョンの明快さが称賛されるきっかけとなった。
その後も続くキャリアの中で、本作は“超えるべき基準”として常に比較対象とされ続けた。
それは裏を返せば、本作が“決定的であった”ことの証左にほかならない。
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