発売日: 2021年11月12日
ジャンル: インディー・ロック、オルタナティブ・ロック、シンガーソングライター
『Things Take Time, Take Time』は、Courtney Barnettの3作目のスタジオアルバムで、彼女のこれまでの作品と比べ、より穏やかで内省的なトーンが特徴的だ。世界的なパンデミックによる孤立感や、日常生活の中での小さな喜びを描いたこのアルバムでは、Barnettのソングライティングがより控えめでありながらも、感情的な深みがある。シンプルなギターリフとリラックスしたアレンジが中心となり、彼女がこれまでに見せてきた鋭い皮肉や社会批判のトーンは影を潜め、よりパーソナルで暖かみのあるサウンドが展開されている。
各曲ごとの解説:
- Rae Street
このアルバムの幕開けを飾る曲で、静かに始まり、ゆったりとしたギターリフが日常の風景を描写する。家の前の通りから見える平凡な日常の中で感じる、小さな不安や希望がテーマ。Barnettの柔らかな歌声が、穏やかな雰囲気を演出している。 - Sunfair Sundown
アコースティックギターと控えめなパーカッションが中心となったミッドテンポのトラック。関係性の変化や人生の小さな瞬間を見つめ、少しずつ物事が進んでいくことの大切さを歌っている。楽器のミニマルなアレンジが、Barnettの歌詞に焦点を当てる。 - Here’s the Thing
穏やかなビートと共に進行するこの曲は、友人や恋人との会話をテーマにしている。気づかないうちに進む時間や、すれ違いを描写し、日常の中にあるコミュニケーションの難しさを表現している。Barnettのリラックスしたボーカルと控えめなサウンドが印象的。 - Before You Gotta Go
明るくキャッチーなメロディが特徴的で、相手と離れる前に伝えたいことがあるという切迫感が込められている曲。ギターのリフがシンプルながらも耳に残り、Barnettのヴォーカルが穏やかな別れの瞬間を優しく包み込むように響く。 - Turning Green
アルバムの中でも少しテンポの速い曲で、控えめながらも希望を感じさせる歌詞が印象的。人間関係の中で生まれる変化や新しい視点が描かれ、繰り返されるギターリフが楽曲に心地よいリズム感を与えている。 - Take It Day By Day
短く、エネルギッシュな楽曲で、「一日一日を大切に」というメッセージが直接的に伝えられている。アルバム全体のリラックスした雰囲気の中に、少しの活力を加え、リスナーに元気を与えるポップなトラック。 - If I Don’t Hear From You Tonight
愛や不安をテーマにしたバラードで、相手からの返信を待つ時間の葛藤が描かれている。繊細なギターリフとBarnettの優しい歌声が、感情の揺れ動きをシンプルに表現しており、静かな共感を呼び起こす。 - Write a List of Things to Look Forward To
希望や前向きな視点をテーマにした楽曲で、タイトルの通り、将来への期待や日々の小さな喜びをリストアップするという内容。軽やかなギターリフとポジティブなメッセージが、アルバム全体に明るい光を差し込む。 - Splendour
ミニマルなアレンジと、Barnettの静かなボーカルが際立つ曲で、回想や感情の整理がテーマ。穏やかな音の流れが感情的な過去の瞬間と現実を結びつけており、アルバム全体の内省的なトーンを深めている。 - Oh the Night
アルバムの最後を締めくくるバラード。夜の静けさや、孤独な時間の中で見つけた自己と向き合う瞬間がテーマ。Barnettの優しい歌声と控えめなアコースティックギターが、リスナーに深い余韻を残し、アルバム全体を美しく締めくくる。
アルバム総評:
『Things Take Time, Take Time』は、Courtney Barnettがこれまでのエネルギッシュなスタイルから一歩引き、より内省的でリラックスしたサウンドにシフトした作品だ。日常の小さな出来事や、ゆっくりとした変化を描写する歌詞が、シンプルなギターリフとミニマルなアレンジで支えられている。感情的に激しい表現は控えめだが、静かな中に込められた力強いメッセージが聴く者の心に深く響く。パンデミック中の生活を背景に、孤独や自己との対話を描いたこのアルバムは、Barnettの成熟したソングライティングとアーティストとしての成長を感じさせる一枚だ。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚:
- Punisher by Phoebe Bridgers
内省的で繊細なリリックが特徴的なアルバム。シンプルなギターと静かなボーカルスタイルがBarnettの最新作と共鳴する作品。 - Immunity by Clairo
ゆったりとしたサウンドと個人的な感情を描く歌詞が、Barnettのリラックスした雰囲気に通じる。日常の小さな出来事を詩的に描写する点でも共感を呼ぶ。 - Titanic Rising by Weyes Blood
ドリーミーで壮大なサウンドスケープが特徴のアルバム。Barnettの静かなトーンとは対照的だが、感情の深みや内省的なテーマが似ている。 - No Home Record by Kim Gordon
アート的なアプローチを持つインディー・ロックアルバム。ギターとボーカルがシンプルに展開されるBarnettのサウンドに惹かれるリスナーにおすすめ。 - I’ll Be Your Mirror: A Tribute to The Velvet Underground & Nico by Various Artists
ローファイなサウンドと詩的な歌詞が共通しており、特にギター中心のシンプルなアレンジが好きなリスナーに響くアルバム。
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