
1. 楽曲の概要
「These Words」は、アメリカ・ニューヨーク州ロングアイランド出身の兄弟デュオ、The Lemon Twigsが2016年に発表した楽曲である。デビュー・アルバム『Do Hollywood』に収録され、同作の初期シングルとして公開された。『Do Hollywood』は2016年10月14日に4ADからリリースされ、FoxygenのJonathan Radoがプロデュースを担当した。
The Lemon Twigsは、Brian D’AddarioとMichael D’Addarioの兄弟によるバンドである。二人は10代の頃からクラシック・ロック、パワー・ポップ、ミュージカル、バロック・ポップ、グラム・ロックなどの影響を強く受け、現代のインディー・ロックの中では珍しいほど、1960〜70年代のポップ作法を直接的に参照する音楽を作ってきた。『Do Hollywood』は、その早熟さと過剰なアイデアが詰め込まれたデビュー作である。
「These Words」は、The Lemon Twigsの初期イメージを決定づけた曲の一つである。ミュージック・ビデオも制作され、2016年9月にはアメリカのテレビ番組『The Tonight Show Starring Jimmy Fallon』で演奏された。デビュー前後の時期に、彼らが単なるレトロ趣味の若手バンドではなく、強い作曲能力と演劇的なパフォーマンスを持つ存在であることを示した楽曲といえる。
サウンドは、ピアノ、ギター、ハーモニー、変化の多い構成を中心にしたパワー・ポップ/アート・ポップである。The Beatles、Todd Rundgren、Big Star、Queen、10ccなどを思わせる要素があるが、単純な模倣ではない。短い曲の中でテンポや展開が変わり、メロディが次々と形を変えていく。タイトルの「These Words」は「これらの言葉」という意味であり、歌詞では、言葉が自分の魂や本質に届かないという感覚が歌われる。
2. 歌詞の概要
「These Words」の歌詞は、自己認識と言葉への不信を中心にしている。語り手は、誰かを模範にしたり、既存の言葉に従ったりすることで自分を理解できるのかと問いかける。自分が何者かを知るために、他人の後を追う必要があるのか。過去や前例を参照するだけで、自分の現在を理解できるのか。そうした疑問が曲の冒頭から提示される。
タイトルにもなっている「these words」は、語り手にとって十分な意味を持たないものとして歌われる。言葉はある。説明も、助言も、過去の物語もある。しかし、それらは魂には届かず、空白を埋めるだけのものに見える。ここでの歌詞は、言葉そのものを否定しているというより、言葉が本質的な自己理解を保証しないことを問題にしている。
この曲は、若いソングライターが自分の声を探す歌としても読める。The Lemon Twigsは、明らかに過去の音楽から多くを学んでいるバンドである。しかし、歌詞では「他人を追うことで自分を知れるのか」という問いが置かれる。この矛盾が面白い。音楽的には過去のポップ史を大胆に参照しながら、歌詞ではその参照だけでは自分になれないという不安を歌っている。
また、歌詞には少し演劇的な自意識がある。Brian D’AddarioとMichael D’Addarioは、単に日常の感情をそのまま歌うのではなく、過去のポップ・ソングの語法や舞台的な身振りを通して感情を表現する。「These Words」でも、自己探しの言葉は抽象的だが、メロディと展開の多さによって、内面の混乱が鮮やかに外へ出ている。
3. 制作背景・時代背景
『Do Hollywood』は、The Lemon Twigsのデビュー・アルバムとして4ADから発表された。兄弟がJonathan Radoにデモを送ったことがきっかけとなり、ロサンゼルスのDream Star Studioで制作された。RadoはFoxygenのメンバーとして、60〜70年代ロックやソウル、サイケデリアを現代的に再構成する音楽を作っていた人物であり、The Lemon Twigsの過剰でレトロなポップ感覚と相性がよかった。
「These Words」は、2016年7月に公開され、その後『Do Hollywood』の詳細発表とともにミュージック・ビデオも公開された。The Lemon Twigsはこの曲を通じて4ADからのデビューを強く印象づけ、同年のテレビ出演でも「These Words」を披露した。デビュー時点で彼らがかなり完成されたパフォーマンス性を持っていたことが、この曲から分かる。
2010年代半ばのインディー・ロックでは、シンプルなローファイ、シンセ・ポップ、R&B以降のプロダクション、ベッドルーム・ポップなどが広がっていた。その中でThe Lemon Twigsは、あえてクラシック・ポップの複雑なコード進行、演劇的な展開、生演奏の技巧、ハーモニーを前面に出した。これは時代遅れに見える選択でもあったが、同時に強い個性にもなった。
The Lemon Twigsの音楽は、しばしば「レトロ」と言われる。しかし、「These Words」を聴くと、単に古い音を再現することが目的ではないことが分かる。過去のポップ・ミュージックの語彙を使いながら、現代の若いアーティストが自分の位置を探している。歌詞で言葉への不信を歌い、サウンドで膨大な過去の言葉を引き受ける。この構造が、曲の核心である。
4. 歌詞の抜粋と和訳
Why do I have to follow you
和訳:
なぜ僕は君の後を追わなければならないのか
この一節は、曲の自己探求の出発点である。語り手は、他人を模範にすることへの疑問を投げかける。過去の影響を受けながらも、自分自身として立ちたいという葛藤がある。The Lemon Twigsの音楽的な立場とも重なる言葉である。
To know just who I am
和訳:
自分が何者かを知るために
ここでは、自己認識の問題がはっきり示される。語り手は、自分を知るための手段として、他者や過去の形式に頼ることへ違和感を抱いている。ただし、その違和感は完全な拒絶ではない。むしろ、参照せずにはいられないからこそ生まれる問いである。
These words mean nothing to my soul
和訳:
これらの言葉は、僕の魂には何の意味も持たない
このフレーズは、曲の中心的な主張である。言葉は存在するが、語り手の内面の本質には届かない。説明や定義は空白を埋めることはできても、魂そのものを変えることはできない。The Lemon Twigsはこの感覚を、華やかなメロディの中に置いている。
なお、歌詞の引用は批評・解説に必要な最小限にとどめている。歌詞の権利は作詞者および権利管理者に帰属する。
5. サウンドと歌詞の考察
「These Words」のサウンドは、The Lemon Twigsの初期の特徴である過剰さと構成力をよく示している。曲は一般的なギター・ポップのように、ひとつのリフとサビを繰り返すだけでは進まない。ピアノ、ギター、ハーモニー、リズムの切り替えが細かく配置され、短い時間の中で複数の場面が展開する。
冒頭から、曲は少し芝居がかった空気を持つ。ボーカルの入り方、コードの動き、ピアノの響きには、1970年代のシンガーソングライターやパワー・ポップの影響が感じられる。The Beatles以後のポップ・ミュージックが持っていた、曲を小さな組曲のように組み立てる感覚がある。
ボーカルは、単にメロディをなぞるだけではない。フレーズごとに表情が変わり、語り手の不安や苛立ちが少し演劇的に提示される。The Lemon Twigsの歌唱には、自然体のロック・ボーカルというより、舞台上で役を演じるようなニュアンスがある。この曲でも、その演技性が歌詞の自己認識のテーマと結びついている。
ハーモニーの使い方も重要である。兄弟デュオであるThe Lemon Twigsにとって、声の重なりは大きな武器である。「These Words」では、複数の声が重なることで、語り手の内側にある複数の意識のようにも聴こえる。言葉を信じられないと言いながら、音楽そのものは声の重なりによって意味を増やしていく。
ギターとピアノの配置は、クラシックなポップ・ロックの美学に近い。ギターは単に歪ませて勢いを出すのではなく、曲の細かな展開を支える。ピアノはコード感を豊かにし、曲にミュージカル的な明るさを加える。こうしたアレンジにより、歌詞の抽象性が、聴きやすいポップ・ソングとして成立している。
歌詞とサウンドの関係では、言葉への不信を、非常に言葉の多い音楽形式で表現している点が興味深い。語り手は「これらの言葉は魂に意味を持たない」と歌う。しかし曲そのものは、歌詞、ハーモニー、コード、過去のポップ史への参照という多くの「言葉」に満ちている。この矛盾が、The Lemon Twigsらしい知的な遊びになっている。
『Do Hollywood』の中で見ると、「These Words」は、アルバムの中心的な入口の一つである。オープニングの「I Wanna Prove to You」がより劇的で、若い野心を前面に出す曲だとすれば、「These Words」は自己認識と影響関係の問題を提示する曲である。デビュー作全体にある「過去の音楽を背負いながら、自分たちは何者なのか」という問いを、かなり直接的に扱っている。
同じアルバムの「As Long as We’re Together」と比較すると、「These Words」はより内省的である。「As Long as We’re Together」は恋愛や二人の関係を、パワー・ポップ的な明快さで描く曲である。一方「These Words」は、より抽象的で、自分と他人、自分と過去、自分と言葉の関係を問う。どちらもメロディの強さは共通しているが、テーマの焦点は異なる。
また、後年の『Everything Harmony』や『A Dream Is All We Know』と比べると、「These Words」はまだ若い過剰さが強い。後のThe Lemon Twigsは、より洗練されたハーモニーとクラシック・ポップの深みへ向かうが、この曲にはデビュー期ならではの衝動と詰め込みがある。その未整理な勢いが、現在聴いても魅力になっている。
6. この曲が好きな人におすすめの曲 5曲
- I Wanna Prove to You by The Lemon Twigs
『Do Hollywood』のオープニング曲で、The Lemon Twigsの演劇的なポップ感覚と若い野心が強く出ている。「These Words」の複雑な展開が好きな人には、同じアルバムの入口として聴きやすい。曲の中で場面が次々に変わる構成も近い。
- As Long as We’re Together by The Lemon Twigs
同じく『Do Hollywood』収録曲で、より明快なパワー・ポップのフックを持つ楽曲である。「These Words」より恋愛色が強く、メロディも分かりやすい。The Lemon Twigsのポップな面を知るには重要な曲である。
- Couldn’t I Just Tell You by Todd Rundgren
1972年の『Something/Anything?』収録曲で、パワー・ポップの重要曲である。The Lemon Twigsが影響を受けた文脈を理解するうえで非常に有効で、「These Words」の華やかなコード感やメロディの背景が見えやすい。
- Joining a Fan Club by Jellyfish
1990年代パワー・ポップの中でも、70年代的なハーモニー、クイーン的な構成、演劇的なアレンジが強い楽曲である。「These Words」の過剰さが好きな人には、非常に相性がよい。レトロでありながら現代的なポップの例として聴ける。
- September Gurls by Big Star
1970年代パワー・ポップの代表曲で、簡潔なメロディと切なさが魅力である。「These Words」ほど構成は複雑ではないが、The Lemon Twigsの根底にあるメロディ志向を理解するうえで重要である。クラシックなギター・ポップの源流として聴ける。
7. まとめ
「These Words」は、The Lemon Twigsのデビュー・アルバム『Do Hollywood』に収録された、初期の代表的な楽曲である。2016年に公開され、ミュージック・ビデオやテレビ出演を通じて、彼らの存在を広く印象づけた。プロデューサーJonathan Radoのもと、60〜70年代ポップへの強い愛着と、若い兄弟デュオならではの過剰な構成力が一体になっている。
歌詞では、他人を追うことで自分を知れるのか、言葉は魂に届くのかという問いが提示される。過去の音楽を大胆に参照するバンドが、その参照だけでは自分を説明できないと歌っている点が重要である。The Lemon Twigsの自己意識が、非常に早い段階で表れている。
サウンド面では、ピアノ、ギター、ハーモニー、複雑な展開が短い時間に詰め込まれている。パワー・ポップ、グラム、バロック・ポップ、ミュージカル的な感覚が混ざり、現代インディーの中で特異な存在感を持つ曲になっている。「These Words」は、The Lemon Twigsが単なる懐古的なバンドではなく、過去のポップ語法を使って自己の不安や野心を表現するバンドであることを示した一曲である。
参照元
- The Lemon Twigs – 「These Words」公式ミュージック・ビデオ
- The Lemon Twigs – 「These Words」Bandcamp
- Spotify – The Lemon Twigs「These Words」
- Discogs – The Lemon Twigs「These Words / As Long As We’re Together」
- Dork – The Lemon Twigs「These Words」
- NPR – The Lemon Twigs「These Words」ミュージック・ビデオ紹介

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