発売日: 2017年12月1日
ジャンル: プロテスト・ロック、アメリカーナ、ガレージ・ロック
“よそ者”の眼で見た祖国——Neil Young、混迷するアメリカへの異議申し立て
『The Visitor』は、Neil YoungがPromise of the Realとともに2017年に発表した34作目のスタジオ・アルバムであり、トランプ政権下のアメリカを真っ向から批判し、“異邦人の視点”で祖国の混乱と再生を見つめ直した、鋭くもユーモラスなプロテスト・ロック作品である。
「アメリカよ、私は君が好きだが、今の君が何をしているのか、分からない」と歌い出すオープニング曲からも分かるように、本作はアーティストとしての誠実さと市民としての憤りを込めた“応答”としてのアルバムである。
前作『The Monsanto Years』『Peace Trail』に続く社会派三部作の締めくくりとして、ヤングはここでも正義や自由、国家と個人の関係に切り込んでいくが、演奏面ではやや肩の力が抜け、希望やユーモアも随所に差し込まれている。
全曲レビュー
1. Already Great
「アメリカは“再び偉大に”なる必要などない、すでに偉大なのだ」と高らかに宣言。トランプのスローガンへの痛烈なカウンターであり、力強いロックンロールによる政治的宣言。
2. Fly By Night Deal
資本と権力の癒着を批判するフォーク調のスロー・ナンバー。取引や裏工作の軽薄さを浮き彫りにする諷刺的な語り口が印象的。
3. Almost Always
環境問題や人間関係をめぐる繊細なラブソング。「ほとんどいつも」は、誠実さと曖昧さの境界にある。
4. Stand Tall
立ち上がること、声をあげることを促すロック・アンセム。曲調はシンプルながら、合唱のようなパートが希望を感じさせる。
5. Change of Heart
愛と赦しをテーマにした穏やかなトラック。社会的メッセージとは対照的に、パーソナルな感情を丁寧に描く。
6. Carnival
ラテン調のリズムと幻想的な歌詞が絡む、アルバム中最もユニークな楽曲。 欺瞞と祝祭の交錯を描くサイケ・フォーク。
7. Diggin’ a Hole
自己破壊的な社会への風刺。「穴を掘り続けているだけだ」と、現代の無自覚な愚行を冷笑的に綴る。
8. Children of Destiny
100人規模のオーケストラと合唱を導入した大仰なプロテスト・ソング。「運命の子どもたちよ、立ち上がれ」という呼びかけは、どこか旧き良き民衆音楽の精神を思わせる。
9. When Bad Got Good
1分台のショート・ナンバー。「悪が良しとされる時代になった」という皮肉をパンク的に吐き捨てる。
10. Forever
アルバムを静かに締めくくる叙情的なバラード。混乱の果てに、なおも“永遠に続くもの”を探すような、寂しさと希望の入り混じったラスト。
総評
『The Visitor』は、Neil Youngが“異邦人＝アーティスト”として、アメリカという祖国に今何が起きているのかを観察し、語り、歌にした“報告書”のようなアルバムである。
皮肉と怒り、風刺と詩情、政治と個人が渦巻く本作は、「歌うことは考えることだ」というヤングの哲学を体現している。
Promise of the Realの若々しくダイナミックな演奏と、ヤングの骨太なメッセージが絡み合い、混迷の時代に鳴らされる“良心のギター”がここにある。
プロテストは、破壊ではなく希望の始まりである——このアルバムはそう語りかけている。
おすすめアルバム
-
Living with War / Neil Young
現代アメリカへの怒りをそのまま音に変えたプロテスト・ロックの極北。 -
American Idiot / Green Day
ポップパンクを通じたブッシュ政権批判。『The Visitor』と同様の政治的熱量。 -
Democracy / Leonard Cohen
アメリカの理想と現実の矛盾を静かに描いた詩的アンセム。 -
New Multitudes / Jay Farrar & Jim James 他
ウディ・ガスリーの未発表詞に現代の音を与えたプロテスト・フォーク再生作。 -
Songs of Experience / U2
個人と世界、過去と未来をつなぐ普遍的なメッセージをもった作品。
コメント