アルバムレビュー:The Shadow I Remember by Cloud Nothings

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※本記事は生成AIを活用して作成されています。

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発売日: 2021年2月26日
ジャンル: インディー・ロック、エモ、ノイズ・ロック、パワーポップ


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概要

『The Shadow I Remember』は、Cloud Nothingsが2021年にリリースした通算7作目のスタジオ・アルバムであり、バンドの過去と現在が交差する“自己回帰”と“再構築”の作品である。
コロナ禍での制作という制約がありながらも、本作ではかつての代表作『Attack on Memory』(2012)を手がけた名エンジニア、スティーヴ・アルビニを再び迎え、“激情”と“ポップ性”の両立を再提示するアルバムとなった。

タイトルの『The Shadow I Remember(覚えている影)』には、過去の自分の面影と現在の自分との対話が込められており、Cloud Nothingsというバンドが自己の起源を再確認しながら、そこに新たな意味を加えていく意図が見える。
その結果、アルバムはエネルギーに満ちつつも鋭利すぎず、かといって穏やかでもないという、バンド10年の歩みが凝縮されたハイブリッドな音像を獲得している。


全曲レビュー

1. Oslo

重厚なギターとスローなテンポで始まるオープニング。
「The shadow I remember」というタイトルの一節がここで登場し、アルバム全体の主題を提示する。
霧の中を手探りで進むような空気感と、後半にかけての高揚が印象的。

2. Nothing Without You

キャッチーなメロディと疾走感が炸裂する本作のキートラック。
「君なしじゃ何もできない」という一見直球なフレーズも、皮肉と愛情が入り混じったようなバルディの声により、単なる恋愛ではなく自己依存の危うさとして響く。

3. The Spirit Of

ハードコア寄りのスピード感で突っ走る、2分弱のショートチューン。
怒り、焦り、不安が凝縮されたような演奏と、叫び声に近いヴォーカルが、かつての『Here and Nowhere Else』を彷彿とさせる

4. Only Light

明るいギタートーンが特徴的で、アルバム中でも珍しく“ポジティブさ”が前面に出た楽曲。
しかし歌詞には「光があってもそれを信じられない」ような、光と闇の揺らぎが見え隠れする。

5. Nara

中盤に置かれた小休止のような静かなトラック。
奈良という日本の都市名を冠したタイトルは、どこかノスタルジックでミステリアス。
サイケデリックなギターと囁くようなヴォーカルが、夢の中の風景のように展開する。

6. Open Rain

ギターのリフレインとリズムのうねりが印象的な楽曲。
「開かれた雨」という象徴的なタイトルが示すように、感情の放出と浄化がテーマになっているようだ。

7. Sound of Alarm

一歩引いた視点で自分を見つめるようなリリックが光る、知的で構築的な一曲。
バルディの内省がここでは優しくも鋭く響き、Cloud Nothingsが“書き言葉”としてのロックを獲得しつつあることを示している。

8. Am I Something

ノイズとメロディのバランスが極めて美しい楽曲。
「自分には何か価値があるのか?」という問いは、シンプルながらも存在論的な深みを持ち、ロックの根源的な不安を鳴らしている。

9. It’s Love

90年代オルタナティヴ・ロックを思わせるざらついたトーンの中で、柔らかく「それが愛だ」と繰り返される。
自己肯定と自己破壊のあいだを揺れ動くような構成が絶妙。

10. A Longer Moon

ゆったりとしたテンポで淡々と進行し、夜の静けさのような余韻を残す曲。
“長い月”という詩的な表現が、終わらない時間や感情の停滞を象徴している。

11. The Room It Was

クロージングにふさわしい、回帰と再出発を思わせる楽曲。
部屋というパーソナルな空間を舞台に、過去と現在、外と内が交錯する。
Cloud Nothingsという“記憶の部屋”にリスナーを再び招き入れるような、静かなエピローグである。


総評

『The Shadow I Remember』は、Cloud Nothingsがこれまで築き上げてきたノイズ、衝動、メロディ、内省、すべての要素を丁寧に混ぜ合わせた総括的作品である。
と同時に、それは過去へのノスタルジーではなく、過去と向き合いながら現在を生きるという意志の表明でもある。

楽曲ごとの振れ幅は大きいが、アルバム全体としての構成力と流れの美しさは際立っており、全11曲わずか30分という短さながら、濃密な自己省察と音楽的進化が刻まれている
スティーヴ・アルビニのプロダクションも冴えわたり、楽器のダイナミクスと声の生々しさを最大限に引き出している。

本作は、Cloud Nothingsがこれまでどのような“影”を生き抜いてきたかを再確認すると同時に、その影を引き受けたうえで、なお進み続ける姿勢を音にしたアルバムである。
“思い出せる影”がある限り、バンドはこれからも前へ進んでいける——その確信に満ちた作品である。


おすすめアルバム(5枚)

  1. Cloud Nothings – Attack on Memory (2012)
     本作の原点とも言える怒りと自己否定の爆発。アルビニとの初邂逅作。

  2. Cloud Nothings – Life Without Sound (2017)
     メロディアスな内省路線。『The Shadow I Remember』との対比に最適。

  3. Ovlov – Tru (2018)
     エモ/ノイズロックの新鋭。音の厚みと感情の揺れがCloud Nothingsに近い。

  4. YuckYuck (2011)
     90年代オルタナ/グランジのリバイバル感と甘酸っぱさが本作と重なる。

  5. Pinegrove – Cardinal (2016)
     内省とアウトプットの境界で揺れる歌詞とフォーク・ロック的アプローチが親和性高。


制作の裏側(Behind the Scenes)

『The Shadow I Remember』は、2020年のコロナ禍の合間を縫うようにして、シカゴのElectrical Audioにてスティーヴ・アルビニのもとで録音された
パンデミック下においても、できる限りのライブ感とリアリティを追求し、クリックも補正も極力排除したという。

また、ディラン・バルディは本作について「自分が10年前に音楽を始めた頃の“理由”を思い出した」と語っており、初心と現在の技術、両方を統合した作品であることを示唆している。
それはまさに、タイトルのとおり、“記憶の中の影”が再び自分に語りかけてきた結果なのだ。

このアルバムは、Cloud Nothingsが“自分は誰なのか”を再定義した瞬間であり、同時に私たち自身が記憶と向き合う力を取り戻すためのロック・アルバムでもある。

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