アルバムレビュー：The New Abnormal by The Strokes

アルバムレビュー

2024.11.12

発売日: 2020年4月10日
ジャンル: インディーロック、ニューウェーブ、ポストパンク

The New Abnormalは、The Strokesにとって約7年ぶり、6枚目となるスタジオアルバムで、これまでのキャリアを総括しつつも新たな方向性を打ち出した作品である。リック・ルービンをプロデューサーに迎え、カリフォルニアのシャングリラ・スタジオで制作された本作は、The Strokesのもつノスタルジーと現代的な視点が巧みに融合しており、彼らの成熟した音楽性が光る。80年代ニューウェーブやポストパンクの影響を強く感じさせるサウンドは、これまでのガレージロックに留まらない洗練された雰囲気を漂わせ、リスナーを懐かしくも新しい音楽の世界へと誘う。

アルバム全体を通じて、Julian Casablancasのボーカルがよりエモーショナルで豊かな表現を見せ、Nick ValensiとAlbert Hammond Jr.のギターが織り成すメロディもさらに緻密かつメロディックになっている。シングル「At the Door」では、シンセサウンドを取り入れたミニマルなアレンジと、切ない歌詞が組み合わされ、The Strokesの新しい一面が感じられる。全9曲が一貫したムードで構成されており、リスナーに深い余韻を残すアルバムに仕上がっている。

トラックごとの解説

1. The Adults Are Talking
アルバムの幕開けを飾るトラックで、鋭いリズムと軽やかなギターリフが特徴的。政治や社会に対する皮肉を込めた歌詞が、Julianの抑制の効いたボーカルで表現され、アルバムのトーンを見事にセットする。

2. Selfless
エモーショナルで温かみのあるメロディが特徴的な楽曲。ギターの響きがどこか懐かしさを感じさせ、恋愛や自己犠牲といったテーマがリリックに込められている。

3. Brooklyn Bridge to Chorus
80年代ニューウェーブの影響が色濃く感じられるトラックで、シンセのリフとダンサブルなリズムが印象的。都会的で洗練されたサウンドが新鮮な一曲。

4. Bad Decisions
Billy Idolの「Dancing with Myself」を彷彿とさせるメロディが特徴的で、リズムが軽快でキャッチーな楽曲。ノスタルジックな雰囲気とポップなフックが絶妙に調和している。

5. Eternal Summer
メロウなサウンドとエフェクトのかかったボーカルが独特の雰囲気を作り出す楽曲で、夏の終わりと再生をテーマにした歌詞が印象的。サイケデリックで実験的なサウンドが楽しめる。

6. At the Door
ミニマルなシンセが支配的なバラードで、バンドの新境地を感じさせる一曲。失われた希望や挫折をテーマにしており、Julianのボーカルが切なく響く感動的なナンバー。

7. Why Are Sundays So Depressing
リズムが特徴的なトラックで、ゆったりとしたビートと淡々としたボーカルが、日曜日の憂鬱さを表現している。シンプルながらも耳に残るメロディが魅力的。

8. Not the Same Anymore
メランコリックなギターと感情的な歌詞が特徴の一曲で、変わってしまった過去への後悔や未練を歌っている。バンドの持つ深みが表れた楽曲。

9. Ode to the Mets
アルバムのラストを飾る壮大なトラックで、切なさと希望が混在するアンビバレントなムードが漂う。サビでの盛り上がりが感動的で、The Strokesの新たな代表曲といえる。

アルバム総評

The New Abnormalは、The Strokesがこれまでのキャリアを総括しつつ、次のステージに踏み出した意欲的なアルバムである。彼らの持つガレージロックのエッジと80年代ニューウェーブの洗練されたサウンドが見事に融合し、これまでのファンはもちろん、新たなリスナーにも魅力的な一枚に仕上がっている。バンドとしての成熟と、Julian Casablancasのエモーショナルなボーカルが、深い余韻とともにリスナーの心に残る作品である。各楽曲が一貫したテーマとムードを持ち、The Strokesが音楽的にさらなる進化を遂げたことを証明するアルバムだ。