アルバムレビュー：The Idol, Vol. 1 (Music from the HBO Original Series) by The Weeknd

アルバムレビュー

2025.04.21

発売日: 2023年6月30日
ジャンル: コンテンポラリーR&B、ポップ、オルタナティブ、サウンドトラック

概要
全曲レビュー（抜粋）
総評
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概要

『The Idol, Vol. 1』は、The Weekndが共同制作・主演を務めたHBOドラマ『The Idol』のために制作されたサウンドトラックであり、彼の音楽的野心と映像表現が交錯する特異な作品である。

本作は通常のアルバムとは異なり、ドラマのストーリー展開と密接に連動した形で発表された。
週ごとに小出しにされる構成や、劇中のキャラクターに応じたボーカルの使い分けなど、ドラマ性を重視した作りとなっている。

The Weekndは、劇中で自己啓発カルトのリーダー的存在“テドロス”を演じており、その役柄の人格と結びついた楽曲も多く収録されている。
また、Lily-Rose DeppやSuzanna Son、Moses Sumneyといった俳優陣との共演楽曲も含まれ、フィクションと現実が溶け合うような感覚を与える。

サウンドは、80年代のソウル、シンセポップ、映画音楽風のバラードなどが中心であり、The Weekndの過去作品とは一線を画すレトロかつ実験的なテイストが特徴的である。

全曲レビュー（抜粋）

1. World Class Sinner / Suzanna Son

ドラマ内でアイドル“ジョスリン”が歌う楽曲として発表されたポップチューン。
明るくキャッチーだが、歌詞には皮肉と商業主義への批評が込められており、“罪の意識を感じない世界的成功者”という二重構造が面白い。

2. The Lure (Main Theme)

サントラ的インストゥルメンタル。緊張感のあるストリングスとミニマルなエレクトロが交差し、ドラマの根底にある不穏な空気を象徴している。

3. Popular (feat. Playboi Carti & Madonna)

The Weekndの中でも特にポップ色が強い楽曲。Madonnaとの意外な共演が話題を呼び、ダークでアーバンな雰囲気とキャッチーなフックが融合している。
“人気であること”の光と影を描くリリックが、作品のテーマとシンクロする。

4. One of the Girls (with JENNIE, Lily-Rose Depp)

BLACKPINKのJENNIEとLily-Rose Deppが参加した、幻想的かつ耽美なトラック。
女性の視点で歌われる内容が新鮮で、囁くようなボーカルが抑圧された官能を漂わせる。

5. Fill the Void

The Weekndが演じる“テドロス”としての狂気を反映した一曲。
宗教的なイメージ、ナルシシズム、支配の欲望がサウンドと歌詞の両面で表現されており、聴く者に不穏な没入感を与える。

6. Like a God

タイトル通り、神になろうとする人間の視点から歌われる。
低音の効いたビートと冷たいボーカル処理が、歪んだカリスマ性と支配性を強調している。

総評

『The Idol, Vol. 1』は、従来のThe Weekndの作品とは異なり、“物語の中の音楽”として設計されたコンセプチュアルなサウンドトラックである。

そのため、個々の楽曲は単独で聴くよりも、ドラマのシーンや文脈と共に体感することで真価を発揮する構造になっている。
ポップとエロティシズム、カルト的支配と自由の幻想というテーマが、サウンド面でもリリック面でも一貫して表現されており、まるで一つの暗い寓話を読み解くような没入体験を与える。

音楽的には、80s的な感触、実験的なシンセ構成、現代R&Bの断片などが混在し、The Weekndのアーティストとしての多面性を新たな方向から照らし出している。
特に、キャラクターごとの視点から構築されたボーカル・アプローチや、他アーティストとのコラボレーションの幅広さも本作の特筆すべき点だ。

The Weekndという存在がもはや単なる音楽家ではなく、視覚芸術、物語、コンセプトすべてを横断する“現代のアイコン”であることを示す、極めて戦略的かつ挑発的なアルバムである。