The Circle Game by Joni Mitchell(1970)楽曲解説

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1. 歌詞の概要

「The Circle Game(ザ・サークル・ゲーム)」は、Joni Mitchellジョニ・ミッチェル)が1970年のアルバム『Ladies of the Canyon』に収録した楽曲であり、彼女の初期作品の中でもとりわけ象徴的で、優しさと深さを併せ持つバラードである。

この曲の核心にあるのは、「時間の巡り」と「成長」、そして「喪失への赦し」である。タイトルの「サークル・ゲーム」は、時間が直線ではなく“輪”のように巡っていくものであることを暗示しており、人生のさまざまな場面で“何かを諦めるたびに、何かがまた始まる”という再生の哲学をやさしく描いている。

子どもが夢を持ち、それが形を変え、時に失われながらも、その過程そのものが“ゲーム”の一部である――そんな人生観が、この曲には流れている。失うことにばかり目を向けず、“その中にある美しさ”を見つめようとする温かいまなざしは、聴く者にそっと寄り添いながら、人生の輪郭をなぞってくれる。

2. 歌詞のバックグラウンド

「The Circle Game」は、実はジョニ・ミッチェルが自らの友人であり同世代のフォーク・シンガー、Neil Youngニール・ヤング)の「Sugar Mountain」に対する“返歌”として書いたことで知られている。ニールのその曲では、「20歳になると夢の国から追い出される」というテーマが語られており、若さの終焉に対するノスタルジーが中心となっていた。

ジョニはそれに応答する形で、「いや、20歳を過ぎても人生は続いていく。夢は形を変え、人生は円のように続く」と歌ったのである。つまり「The Circle Game」は、喪失への恐れに対して、“やさしい肯定”を投げかけた歌なのだ。

レコーディングでは、CSNY(Crosby, Stills, Nash & Young)のバックボーカルを務めた仲間たちのコーラスが加わり、温かくも広がりのあるアンサンブルが形成されている。フォークの素朴な響きに乗せて、語りかけるようなジョニの声が響き、聴く者を「人生という輪」の中へと静かに引き込んでいく。

3. 歌詞の抜粋と和訳

以下に、「The Circle Game」の印象的なフレーズを抜粋し、日本語訳を添える。

Yesterday a child came out to wonder
Caught a dragonfly inside a jar

昨日、子どもが現れて、不思議そうに世界を見つめ
トンボを瓶の中に捕まえた

Fearful when the sky was full of thunder
And tearful at the falling of a star

空が雷で満ちたときには怖がり
流れ星が落ちるときには泣いていた

And the seasons, they go ‘round and ‘round
And the painted ponies go up and down
We’re captive on the carousel of time

季節はぐるぐると巡り
木馬は上下に揺れながら回り続ける
私たちは“時間の回転木馬”に囚われているの

We can’t return, we can only look behind from where we came
And go ‘round and ‘round and ‘round in the circle game

戻ることはできない、ただ来た道を振り返ることしかできない
そしてまた、何度も何度も“サークル・ゲーム”の中を回っていくの

(歌詞引用元:Genius – Joni Mitchell “The Circle Game”)

4. 歌詞の考察

「The Circle Game」の詩は、幼少期から思春期、青年期へと移り変わる“時間”を、静かでやさしい視点で描いている。最初はトンボを追いかける無垢な子ども、やがて年齢とともに「夢」が変質していく中で、自分をどう受け入れるか――その揺らぎがこの曲のテーマである。

印象的なのは、「We’re captive on the carousel of time(私たちは時間という回転木馬に囚われている)」という比喩。人生とは“直線的な進行”ではなく、“同じ場所を何度も通るような体験”であり、常に変わっていくけれど、どこか懐かしさを感じさせるものでもある。

「We can’t return(戻れない)」という言葉は明確だが、それが嘆きではなく、“振り返ることの美しさ”へと繋がっていく語り口は、ジョニの成熟した視点を物語っている。過去へのノスタルジーに囚われることなく、そこに感謝や祝福を見出す。だからこの曲には、どこか“再出発の歌”としての希望も感じられるのだ。

ジョニ・ミッチェルは「The Circle Game」で、人生の循環を受け入れるという“心の柔らかさ”を描いている。失った夢も、叶わなかった願いも、“また新たな季節の一部”として心に残る。その優しさが、この曲を特別なものにしている。

(歌詞引用元:Genius – Joni Mitchell “The Circle Game”)

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • Both Sides, Now by Joni Mitchell
     物事を二つの側面から見つめ、“変化”と“受容”を歌ったジョニの代表作。視点の成熟というテーマが共通する。

  • Forever Young by Bob Dylan
     若さと成長を祝福する言葉が並ぶ、優しい願いの歌。時間の流れを受け入れる姿勢が響き合う。

  • Teach Your Children by Crosby, Stills, Nash & Young
     親から子へ受け継がれていく価値観を描いた、サークル的視点を持つフォーク・ナンバー。

  • Hello in There by John Prine
     老いと孤独を見つめながら、人生の“輪”の終わりに寄り添うようなバラード。哀しみの中の優しさが共鳴する。

6. 時間は過ぎていく、それでもやさしく巡ってくる

「The Circle Game」は、“時間は過ぎ去るもの”ではなく、“繰り返し訪れるもの”として描いている。
それは決して悲しみや諦めの歌ではない。むしろ、過去も現在も未来も、ひとつの大きな輪の中でつながっているのだという、静かな祈りに満ちた楽曲である。

変わるものに不安を抱くとき、この曲はそっと語りかけてくる。
「戻ることはできないけれど、また新しい季節がやってくる」と。

その輪の中で、泣いて、笑って、また夢を見る。
だから人生は美しい。
だから私たちは、何度でも“サークル・ゲーム”を生きていく。
ジョニ・ミッチェルは、そんな人生の優しさと残酷さの両方を、愛を込めて音楽にしたのである。

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