発売日: 1998年3月10日
ジャンル: グラムロック、オルタナティブロック、パワーポップ
1995年のデビュー作『Resident Alien』で一躍注目を浴びたSpacehogが、1998年にリリースした2作目のアルバムが『The Chinese Album』である。タイトルからも感じ取れるように、前作のグラムロック的な華やかさとオルタナティブのエッジを引き継ぎつつも、より広範な音楽的要素と実験的なサウンドに挑戦した作品だ。
本作は、架空の映画『Mungo City』のサウンドトラックというコンセプトを軸に制作され、シネマティックでドラマチックな楽曲が揃っている。アルバム全体に漂う壮大なスケール感、物語性、そしてオリエンタルな雰囲気は、タイトルが示唆する「異国情緒」や「冒険」のテーマを見事に音像化している。
プロデューサーにはブライス・ゴギンズが再び名を連ね、バンドの持つ高い演奏力と多様な音楽性を最大限に引き出している。シングルカットされた「Mungo City」や「Carry On」は、グラムロックの復権を目指すような力強いナンバーとして際立ち、バンドのクリエイティブな進化を証明している。
トラックごとの解説
1. One of These Days
オープニングを飾るのは、ミステリアスなイントロと緩急のある展開が印象的な一曲。映画の序章のような雰囲気が漂い、アルバムの壮大な世界観への扉を開く。
2. Goodbye Violet Race
哀愁を帯びたメロディと透明感のあるギターサウンドが特徴。別れや喪失をテーマにした歌詞が心に響き、バンドのエモーショナルな側面を感じることができる。
3. Lucy’s Shoe
軽快でキャッチーなギターリフが耳に残るポップロックナンバー。日常の一コマを描いたような歌詞が親しみやすく、アルバムの中でもアクセントとなる一曲だ。
4. Mungo City
本作のリードトラックであり、最もエネルギッシュな楽曲。グラムロックの影響を色濃く感じさせる華やかなサウンドと、異国を舞台にしたストーリーテリングが絶妙に融合している。
5. Skylark
アンソニー・ラングドンがボーカルを務める短いインタールード的なトラック。アコースティックなサウンドが心地よく、アルバムに静寂と抑揚をもたらす。
6. Sand in Your Eyes
切ないメロディラインと力強いボーカルが際立つバラード。恋愛の儚さや喪失感をテーマにしており、ロイ・ラングドンの歌声がリスナーの心に深く染み入る。
7. Captain Freeman
アンソニー・ラングドンが再びボーカルを担当する、ストーリーテリングの色濃い楽曲。軍隊をテーマにした歌詞とユーモラスな語り口が印象的で、異色ながらアルバムに深みを加えている。
8. 2nd Avenue
ニューヨークの2nd Avenueを舞台にした、都会的で洗練された楽曲。シンプルなリズムとギターが心地よく、アルバム全体の流れに良いバランスをもたらす。
9. Almond Kisses
幻想的なシンセサウンドと、ロイとアンソニーのボーカルが美しく絡み合う一曲。オルタナティブとアートロックの要素が融合し、アルバムの中でも際立つ楽曲だ。
10. Carry On
シングルカットされたこの曲は、力強いサビと前向きなメッセージが特徴。逆境に立ち向かい進み続けるというテーマが込められ、聴く者に勇気を与える。
11. Anonymous
ダークで内省的な雰囲気を持つトラック。匿名性や自己喪失をテーマにした歌詞が深みを加え、アルバムの終盤に向けての緊張感を高める。
12. Beautiful Girl
アルバムを締めくくる美しいバラード。シンプルなピアノの伴奏とロイの繊細なボーカルが際立ち、余韻を残すエンディングとなっている。
アルバム総評
『The Chinese Album』は、前作『Resident Alien』で確立したグラムロックとオルタナティブロックの融合をさらに洗練させ、バンドの音楽的幅を広げた意欲作だ。架空の映画サウンドトラックというコンセプトが、楽曲全体に物語性とシネマティックなスケール感をもたらし、アルバムを通してひとつの「冒険譚」として楽しむことができる。
シングル曲「Mungo City」や「Carry On」は力強いナンバーとして輝きを放ち、バラード曲「Sand in Your Eyes」や「Beautiful Girl」はバンドのエモーショナルな一面を見事に表現している。Spacehogは本作で、自身のアイデンティティを確立し、90年代後半のロックシーンにおいて独自の存在感を示した。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
『Ziggy Stardust』 by David Bowie
グラムロックの最高傑作。シネマティックなストーリー性と美しい楽曲が共通している。
『A Night at the Opera』 by Queen
多彩な音楽性とドラマチックな展開が光る名盤。オーケストレーション的なサウンドが好きな人におすすめ。
『Mechanical Animals』 by Marilyn Manson
グラムロックとオルタナティブを融合させた作品で、ビジュアルや世界観の強さが共通している。
『The Bends』 by Radiohead
美しいメロディと内省的な歌詞が特徴的な、オルタナティブロックの傑作。
『Goodbye Yellow Brick Road』 by Elton John
多彩な楽曲と物語性のあるサウンドが共通する、グラムロック時代のクラシックアルバム。
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