アルバムレビュー：Ten New Songs by Leonard Cohen

アルバムレビュー

2025.04.21

発売日: 2001年10月9日
ジャンル: アダルト・コンテンポラリー、ソフトロック、フォーク、エレクトロニック

静かなる再誕——Leonard Cohen、沈黙のあとに紡がれた“祈りと和解”の10篇
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総評
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静かなる再誕——Leonard Cohen、沈黙のあとに紡がれた“祈りと和解”の10篇

『Ten New Songs』は、Leonard Cohenが2001年にリリースした10作目のスタジオ・アルバムであり、1992年の『The Future』以来、約9年ぶりとなる“静かなる復帰作”である。
その間、Cohenはカリフォルニアの禅僧院マウント・バルディに身を置き、詩人としてだけでなく“求道者”として沈黙と内省の時間を過ごしていた。

本作はその長い沈黙ののちに生まれた作品であり、怒りや政治的メッセージに満ちた90年代のCohenとは異なり、より穏やかで瞑想的、そして親密な語り口が特徴である。
ほぼすべての曲が、シンガー・ソングライターであるSharon Robinsonとの共同制作で構成されており、彼女の柔らかくソウルフルなヴォーカルと、打ち込み中心の控えめなアレンジが、Cohenの低く囁くような声と美しく溶け合う。

全曲レビュー

1. In My Secret Life
“秘密の生活”の中で、傷つきながらも善くあろうとする自己矛盾を、穏やかなメロディとともに描く。 内なる告白のような1曲。

2. A Thousand Kisses Deep
“千のキスの深さ”という詩的タイトルが示すように、深い愛と失われた時間への郷愁が染み込む。

3. That Don’t Make It Junk
自分の人生や過去を“ガラクタ”と断じるには早すぎる。どんなに崩れても、それはそれで価値がある——という優しい視線が感じられる。

4. Here It Is
まるで神の声のような一人語り。愛も死も苦しみも、「ここにある」と提示されるのみ。 シンプルながら哲学的な深みがある。

5. Love Itself
「愛そのものが光となって消えた」と歌う、愛の不在と信仰の不確かさを漂わせる静かな名曲。

6. By the Rivers Dark
旧約聖書の「バビロンの川のほとり」を思わせる曲調。亡命、喪失、霊的な放浪が重なる哀歌。

7. Alexandra Leaving
詩人Constantine P. Cavafyの作品を下敷きにした、別れのバラッド。女神アレクサンドラの退場は、愛の終焉と魂の転機を象徴する。

8. You Have Loved Enough
「もう十分愛した」と語る語り手の声には、静かな肯定と後悔が共存している。 感情の残響が余韻として長く残る。

9. Boogie Street
人生の苦しみと混沌の象徴“ブギー・ストリート”を舞台にした、Cohen的人生讃歌。Sharon Robinsonのヴォーカルが主役を務め、二人の視点が交錯する。

10. The Land of Plenty
飽食と豊かさの裏にある喪失を嘆くラストトラック。「祈りに必要な世界を与えてほしい」と訴える、静かなプロテスト。

総評

『Ten New Songs』は、Leonard Cohenという詩人／歌い手が、世界との闘争から一度身を引き、“内なる神”との対話に焦点を移した穏やかな名作である。
ここには大きな声も怒りもない。あるのはただ、老いと喪失を受け入れながら、それでもなお誰かに語りかけようとする、低く静かな囁きである。

Cohenの声は深く沈み、まるで過去の記憶の底から聴こえてくるようだ。
その声に耳を澄ませるとき、人は人生の苦味すら優しく受け入れる覚悟と、わずかな希望の光を見出すかもしれない。