発売日: 1997年4月21日
ジャンル: ブリットポップ、オルタナティヴ・ロック、インディーロック
語られざる喪失と、その先の光——Charlatans流ブリットポップの到達点
『Tellin’ Stories』は、The Charlatansにとって5作目にあたるスタジオアルバムであり、1997年というブリットポップの終焉期にリリースされたにもかかわらず、彼らのキャリア最大の成功を収めた作品である。
全英1位を獲得し、複数のシングルヒットを記録した本作は、ダンスビートとサイケの陶酔感を融合させてきた彼らが、よりメロディアスで普遍的なロックバンドへと進化を遂げた瞬間を記録している。
だが、そこに至るまでの道のりは決して順調ではなかった。
レコーディング中の1996年、キーボーディストであるロブ・コリンズが交通事故で急逝。彼の死はバンドに大きな衝撃を与えたが、残されたメンバーは彼の演奏を一部楽曲に残しつつ、新たなサウンドを探求し、この作品へと昇華させた。
その意味で本作は、喪失と再生を同時に刻んだロック・アルバムとして深い感情の層を持っている。
全曲レビュー
1. With No Shoes
エッジの効いたギターとスウィング感のあるビートが印象的。
“靴を履かずに”というイメージが、自由と無防備さの両面を象徴する。
2. North Country Boy
バンド最大級のヒット曲のひとつ。
オープンなギターと軽快なリズム、そして“田舎出身のボーイ”という語り口が、親しみやすくも強い個性を放つ。
Charlatans流ブリットポップの完成形。
3. Tellin’ Stories
タイトル曲にしてアルバムの核心。
語ること、伝えること、そしてその中にある真実と虚構。
哀愁を帯びたコード進行が、ティム・バージェスの語り口と絶妙に絡む。
4. One to Another
力強いビートとドライヴ感あふれるギターが火花を散らす、エモーショナルな名曲。
“君から僕へ、僕から君へ”という繰り返しが、人と人とのつながりの力を強調する。
5. You’re a Big Girl Now
軽やかで爽快なポップチューン。
成長を祝福するような歌詞と、メロディの柔らかさが心地よい。
6. How Can You Leave Us
ロブ・コリンズの死に向けた追悼とも受け取れる静謐なナンバー。
感情の奥底に触れるようなスローな構成と、ティムの囁くような歌唱が染みる。
7. Area 51
ファンキーなリズムセクションと浮遊感のあるシンセが特徴的な実験的トラック。
アルバムの中で異彩を放つサイケ・ポップの一種。
8. How High
本作のなかでも最もエネルギッシュでポップなアンセム。
「どこまで高く飛べるか」という問いが、希望と不安をないまぜにしながら響く。
9. Only Teethin’
グルーヴィーなリズムが先導する、骨太なロックチューン。
“噛みつきはじめ”という比喩が、何かを始めることの痛みや衝動を示している。
10. Get On It
深夜のドライヴのような疾走感を持つナンバー。
ポジティブなメッセージとともに、前へ進む推進力が詰まっている。
11. Rob’s Theme
ロブ・コリンズに捧げられたインストゥルメンタル。
彼の魂がそこにまだ宿っているかのような、静かな余韻を残してアルバムを締めくくる。
総評
『Tellin’ Stories』は、The Charlatansが単なるマッドチェスターの残響ではなく、真正面から時代と向き合い、喪失と希望の両方を語ることのできるバンドであると証明した作品である。
明るく力強いブリットポップの皮を纏いながらも、そこにはロブ・コリンズの死や、90年代後半の不安定な空気が滲んでおり、ただの祝祭には終わらない深みがある。
“語る”という行為——Tellin’ Stories——は、傷を癒し、記憶をつなぎ、未来へ歩みを進めるための術なのだ。
その静かな強さと優しさが、このアルバムの芯には宿っている。
おすすめアルバム
- Ocean Colour Scene / Moseley Shoals
力強いギターとブルース・ロックの影響を受けたブリットポップの名作。 - Cast / All Change
メロディアスで陽性なUKギターロック。Charlatansの持つ“日常と希望”の感触に近い。 - The Verve / Urban Hymns
哀しみと高揚の狭間にある叙情性。『Tellin’ Stories』と同年の名盤。 - Supergrass / In It for the Money
ブリットポップのエネルギーと成熟が交差する。ドライヴ感とメロディの完成度が共通点。 - Paul Weller / Stanley Road
英国ロックの伝統とモダンな感性が融合した傑作。Charlatansが継承する“UKの骨格”に通じる。
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