アルバムレビュー:Take Them On, On Your Own by Black Rebel Motorcycle Club

Spotifyジャケット画像

発売日: 2003年8月19日
ジャンル: ガレージロック、サイケデリック・ロック、ポストグランジ、オルタナティヴ・ロック


反抗の炎と重力のビート——“黒の連隊”が描くロックンロール戦争の続章

2003年、アメリカ発のダークなロックンロール使徒たちBlack Rebel Motorcycle Club(以下BRMC)は、セカンド・アルバム『Take Them On, On Your Own』を投下する。
前作『B.R.M.C.』で示した轟音と内省の均衡を保ちつつ、本作ではより政治的、攻撃的、そして戦闘的なスタンスを明確に打ち出した。
タイトルが示す通り、これは“ひとりでも闘え”という宣言であり、愛と怒りがせめぎ合うロックンロールの塹壕戦なのだ。

音楽的には、引き続きJesus and Mary Chain直系のノイズ美学、Velvet Undergroundのミニマリズム、さらにはNirvanaのグランジ的怒りも感じさせる。
だが同時に、そこには2000年代初頭の混乱と閉塞を映し出すような、濃密で曇った空気感が漂っている。
これは単なるロック・リバイバルではない。
時代の“灰色”をそのままパッケージングした、都市と内面の記録である。


全曲レビュー

1. Stop

爆音ギターとアジテーション的なリリックで幕を開ける、アルバムのアンセム的楽曲。
「やめられるか?」と問いかけながら、音は止まらず、むしろ加速していく。
暴力的なまでのグルーヴが脳を揺さぶる。

2. Six Barrel Shotgun

重たいビートとドライヴするギターが暴力性を具現化したようなナンバー。
タイトルの“ショットガン”は比喩か現実か、いずれにせよ“怒れる若者の咆哮”として響く。

3. We’re All in Love

一転してメロディアスでドリーミーな楽曲。
「僕らは皆、愛の中にいる」と呟くようなコーラスが、逆説的に世界の荒廃を映し出す。
轟音の中に潜む甘美な希望。

4. In Like the Rose

スロウで重厚なビートに、幻想的なギターが漂う。
バラのように美しく、そして棘のように痛い。
夢と傷が同居する、BRMCらしい詩情。

5. Ha Ha High Babe

タイトルからはユーモアも感じられるが、実際は退廃と無気力をテーマにしたミッドテンポ。
虚脱感のような歌唱が、都市生活の疲弊感を象徴する。

6. Generation

「これは俺たちの世代の歌だ」と宣言する、セミ・アンセム的な一曲。
だがそこにあるのは希望ではなく、皮肉と脱力の混じった静かな怒り。
ギターの反復が不穏に響く。

7. Pretend

音数を減らした内省的なバラード。
“フリをする”ことの虚しさと、それでも続けるしかない生き方を描く。
静けさがむしろ鋭い。

8. Rise or Fall

再びギターが唸りを上げるハードロック寄りのトラック。
立ち上がるか、堕ちるか——その二択しかない世界の中で、彼らは前者を選び続ける。

9. Going Under

不安と焦燥が交錯する楽曲。
沈みゆく感覚を“行く”という能動形で歌うことで、自己崩壊すら推進力に変えている。

10. Suddenly

90年代オルタナを思わせる、淡い叙情と歪みのバランスが絶妙な一曲。
突然の別れ、変化、破滅——あらゆる“突然”がここに宿る。

11. Shade of Blue

アルバムの締めくくりは、穏やかでスモーキーなバラード。
青の陰影をテーマに、愛と喪失を静かに反芻する。
耳を澄ませば、世界の終わりと始まりが同時に鳴っているようだ。


総評

Take Them On, On Your Ownは、BRMCが“スタイル”だけでないことを証明した、激情と政治性を内包したロックの記録である。
重い音、曇った視界、遅いビート——それらすべてがこの時代の空気を反映しており、一聴して“2003年の世界”を感じさせる作品でもある。

前作にあったシューゲイザー的恍惚は少し後退し、その代わりに内なる怒り、世界への苛立ち、そして音楽にしかできない“反撃”が前に出てきた。
このアルバムは、“大声を出さない怒り”であり、“銃ではなくギターを鳴らす戦争”なのだ。


おすすめアルバム

  • The Jesus and Mary ChainDarklands
    ノイズの中に繊細なメロディが潜む、BRMCの精神的祖先。
  • The Warlocks – Phoenix Album
    ドローンとロックの重力が共鳴する、サイケデリック・ロックの密室性。
  • The Dandy Warhols – Come Down
    アンセムと退廃が共存する、90年代末のオルタナ・ドリーム。
  • Queens of the Stone AgeSongs for the Deaf
    同時期の重厚かつ知的なロック。音の厚みと反骨精神が近い。
  • A Place to Bury StrangersWorship
    怒りとノイズ、構築と破壊のあいだで鳴る現代のBRMC的サウンド。

コメント

タイトルとURLをコピーしました