アルバムレビュー：Swings Both Ways by Robbie Williams

発売日: 2013年11月15日
ジャンル: スウィング、ジャズ・ポップ、トラディショナル・ポップ

概要
全曲レビュー
総評
おすすめアルバム（5枚）
ビジュアルとアートワーク

概要

『Swings Both Ways』は、Robbie Williamsが2013年に発表した10枚目のスタジオ・アルバムであり、2001年の『Swing When You’re Winning』以来となるスウィング／ジャズスタイルへの本格回帰作である。
タイトルはダブルミーニングを含んでおり、「どちらの方向にもスウィングする＝ジャンル横断的」という意味とともに、ロビー特有のユーモラスな挑発精神が込められている。

本作では、スウィングの名曲カバーに加え、自作の新曲も多数収録。
また、Lily Allen、Michael Bublé、Rufus Wainwright、Olly Murs、Kelly Clarksonといった多彩なゲストを迎えたデュエットも大きな魅力となっており、ジャズのフォーマットを借りて“ポップ・エンターテインメントとしてのジャズ”を現代に蘇らせるという意図がはっきりと見える。

イギリスではチャート1位を記録し、“時代に逆らいながらも愛されるエンターテイナー”としてのロビーの立場を確固たるものにした一枚である。

全曲レビュー

1. Shine My Shoes

陽気で軽快なスウィング・ナンバーで幕開け。
「俺の靴を磨けよ」と冗談交じりに歌うロビーの“俺様節”が炸裂する。
冒頭から、彼のショーマンシップが全開。

2. Go Gentle

娘に向けた愛情と警告を込めたバラード調のジャズ・ナンバー。
「優しくしてやってくれ、彼女に」と語るロビーの歌声は、親心のこもった“ジャズの子守唄”。

3. I Wan’na Be Like You (feat. Olly Murs)

ディズニー映画『ジャングル・ブック』の名曲を、Olly Mursとのデュエットでノリ良くカバー。
スキャットとトランペットが弾ける、愉快でキッズフレンドリーなジャズ・エンタメ。

4. Swing Supreme

自身の2002年作「Supreme」をジャズ・バラードとしてリアレンジ。
メロディの美しさがより浮き彫りになり、再解釈としての価値が高いセルフ・カバー。

5. Swings Both Ways (feat. Rufus Wainwright)

アルバムのタイトル曲であり、テーマ性を象徴するデュエット。
ロビーとルーファスの異なる個性が絶妙に交差する、洒落と知性に富んだ一曲。

6. Dream a Little Dream (feat. Lily Allen)

スタンダード・ナンバーをLily Allenとの甘いデュエットで披露。
切なさと軽やかさが共存する、大人の“夢見歌”。

7. Soda Pop (feat. Michael Bublé)

Michael Bubléとの共演はまさに“現代スウィング対決”。
弾むようなピアノとコール＆レスポンスが楽しく、軽快な二重唱がジャズ・ステージさながら。

8. Snowblind

本作中最も繊細でしっとりとしたスロウ・ナンバー。
冬の孤独と美しさを描いた抒情的な一曲で、Robbieのバラード力が際立つ。

9. Puttin’ on the Ritz

アーヴィング・バーリンの大名曲を、ド派手なアレンジでアップデート。
ビッグバンド感と現代的な音響が共存し、“古き良きジャズ”と“今”の融合を体現。

10. Little Green Apples (feat. Kelly Clarkson)

アメリカン・ソウルの名曲を、Kelly Clarksonとの厚みあるデュエットで。
ふたりの声の対比がドラマを生み出し、感動的なソウル・バラードに仕上がっている。

11. Minnie the Moocher

キャブ・キャロウェイの代表曲を、原曲さながらのコール＆レスポンス形式で展開。
聴衆との掛け合いを想起させるパフォーマティブな仕上がり。

12. If I Only Had a Brain

『オズの魔法使い』からのカバー。
とぼけた歌詞と柔らかいアレンジが、ロビーのコミカルな面と優しさを両立させる。

13. No One Likes a Fat Pop Star

アルバムのラストを飾る、完全オリジナルの風刺ソング。
芸能界、外見偏重社会、ポップスターの孤独などを、皮肉と笑いで包み込む“ロビー流ジャズ告白”。
最後にして、もっとも“彼らしい”一曲。

総評

『Swings Both Ways』は、Robbie Williamsが単なる懐古ではなく、“スウィングを自分の流儀でアップデートする”ことに成功したアルバムである。
全体を通じて、ジャズという形式を借りつつも、そこに詰め込まれているのは彼のユーモア、誠実さ、皮肉、そして家族愛――まさに**“ロビー・ウィリアムズというジャンル”**が確立された感がある。

芸術的実験ではなく、あくまでショーとしての完成度と聴きやすさを優先した作品でありながら、彼が抱える葛藤や人生観が滲み出ているのも本作の妙味。
このアルバムは、ポップスから離れた場所に見えて、実は“ロビーらしさ”の最前線に立っている。

ビジュアルとアートワーク

ジャケットには、空に飛び跳ねるRobbie Williamsが描かれ、その影は二つの方向にスウィングしている。
“両方に揺れる”というタイトルの意味を視覚化した、遊び心あふれるビジュアル。
ピンストライプのスーツに身を包んだ彼は、古き良きエンターテイナーの顔を持ちつつも、常に現代と対話する存在であることを示している。

ロビー・ウィリアムズは、ジャズの形式を借りながら、その中に自分という物語を歌い込む。
だからこのアルバムは、懐かしいけど、新しい。そして何より、楽しい。