Olly Murs(オリー・マーズ)は、イングランド出身のシンガーソングライターである。2009年にオーディション番組『The X Factor』へ出演したことをきっかけに注目され、その後「Heart Skips a Beat」「Troublemaker」「Dance with Me Tonight」などのヒット曲を送り出してきた。
彼の音楽は、明るく覚えやすいメロディと、ソウルやファンクの要素を取り入れた軽快なリズムが大きな特徴だ。失恋を扱う曲でも重くなりすぎず、自然に体が動くポップソングへ仕上げることが多い。テレビ司会者としても活動してきた親しみやすいキャラクターを含め、英国らしいエンターテイナーとして長く支持されている。
Olly Mursの背景と歴史
Olly Mursは1984年、イングランドのエセックスに生まれた。若い頃から音楽活動をしていたものの、最初からプロの歌手として成功したわけではない。大きな転機になったのが、2009年の『The X Factor』第6シリーズへの出演だった。
番組ではStevie WonderやThe Beatlesなど幅広いアーティストの曲を歌い、歌唱力だけでなくステージ上で観客を楽しませる力でも人気を集めた。最終的にはJoe McElderryに次ぐ準優勝となり、番組終了後に本格的なレコードデビューへ進んだ。
2010年にはデビューシングル「Please Don’t Let Me Go」を発表。この曲が全英シングルチャート1位を獲得し、順調なスタートを切る。同年にはデビューアルバムOlly Mursも発表した。
初期から特徴的だったのは、当時の流行だけに合わせたポップではなかったことだ。1960年代のポップやソウルを思わせる軽快なリズムを取り入れ、そこへ現代的な制作を組み合わせていた。少しレトロだが古くは聴こえないというバランスが、Olly Mursの持ち味になっていく。
2011年にはセカンドアルバムIn Case You Didn’t Knowを発表。「Heart Skips a Beat」と「Dance with Me Tonight」が全英1位となり、オーディション番組出身という枠を越えて、英国の人気ポップシンガーとして定着した。
続くRight Place Right Timeでは、さらに大きな成功を収める。Flo Ridaを迎えた「Troublemaker」がヒットし、英国以外でも知名度を高めた。この時期にはRobbie Williamsのツアーでサポートを務めるなど、大規模なステージでの活動も広がっていった。
その後もNever Been Better、24 Hrsなどを発表。2018年のYou Know I Knowまでコンスタントに作品を届けた一方、テレビの世界でも存在感を強めた。『The X Factor』の司会を務めたほか、『The Voice UK』では長期にわたってコーチを担当している。
2022年にはアルバムMarry Meを発表。長いキャリアを重ねても、明るいメロディと人を楽しませるポップという基本的な魅力は変わっていない。
Olly Mursの音楽スタイルと特徴
Olly Mursの音楽を理解するうえで最も分かりやすい特徴は、リズムの軽快さである。
一般的なポップだけでなく、ソウル、ファンク、スカなどから取り入れた跳ねるようなリズムをよく使う。ドラムとベースが軽く前へ進み、その上にギターやピアノ、ホーンが加わるため、自然に体を動かしたくなる曲が多い。
初期作品には特にレトロな感覚が強い。「Dance with Me Tonight」では、1960年代のソウルやポップを思わせる手拍子、ピアノ、ホーンを使っている。一方で録音そのものは現代的で、懐メロの再現にはなっていない。
歌声も重要だ。非常に高い声や圧倒的な声量を前面に出すタイプではなく、少しざらついた親しみやすい声で歌う。リズムに合わせて言葉を細かく動かす歌い方が得意で、アップテンポな曲によく合っている。
歌詞では恋愛が中心になる。恋が始まったときの高揚感だけでなく、相手に振り回される感覚や別れた後の未練も多い。ただし、サウンドが明るいため、失恋を扱っていても必要以上に重くならない。
ライブでは音源を再現するだけではなく、ダンスや観客とのやり取りも含めて楽しませる。歌手であると同時にショーマンとして見せる意識が強いことも、Olly Mursを特徴づけている。
代表曲
「Please Don’t Let Me Go」
2010年に発表されたデビューシングルで、Olly Mursにとって最初の全英1位曲となった。
レゲエやスカを思わせる軽く跳ねるリズムが特徴で、失いかけた恋愛を歌いながらも音楽そのものは明るい。後の作品でも繰り返される「少し切ない歌詞を楽しいポップにする」というスタイルが、デビュー時点ですでに表れている。
「Heart Skips a Beat」
Rizzle Kicksを迎えた2011年のヒット曲。ギターとリズムを中心にした軽快な曲で、サビに入ると一気に視界が開けるような明るさがある。
ポップ、ソウル、ヒップホップを自然に混ぜていることもポイントだ。ジャンルを難しく意識させるのではなく、すべてを親しみやすいポップソングへまとめるOlly Mursの作曲スタイルが分かりやすい。
「Dance with Me Tonight」
Olly Mursのレトロな一面を理解するなら欠かせない曲である。1960年代のソウルやポップを思わせるピアノ、ホーン、手拍子を使い、タイトル通り踊る楽しさをそのまま音にしている。
メロディも非常に覚えやすく、ステージ上で観客と一緒に盛り上がることを想定したような作りだ。現代的なUKポップと昔のソウルを結びつける彼の特徴がよく表れている。
「Troublemaker」
Flo Ridaを迎え、2012年に発表された代表曲。Olly Mursのキャリアでも特に大きなヒットの一つで、英国だけでなく海外での知名度を高めるきっかけになった。
ギターの短いフレーズと弾むようなビートを軸にした曲で、ポップとファンクの中間にあるような軽快さがある。頭では問題だと分かっている相手に、それでも引き寄せられてしまうという恋愛を歌っている。
「Wrapped Up」
Travie McCoyを迎えた2014年のシングル。ベースが前面に出たファンキーなリズムと、細かく刻まれるギターが特徴である。
Olly Mursの曲にはもともとソウルやファンクの要素があったが、この曲ではその部分が特に分かりやすい。ダンスミュージック的なビートに頼らなくても、バンド感のある演奏だけで十分に踊れるポップを作れることを示している。
アルバムごとの進化
Olly Murs(2010年)
『The X Factor』出演後に発表されたデビューアルバム。ポップを中心にしながら、レゲエ、スカ、ソウルなどを取り入れている。
「Please Don’t Let Me Go」のように軽く跳ねる曲が目立ち、Olly Mursの親しみやすいキャラクターと相性の良い作品になった。
まだ後の作品ほどサウンドの方向性は絞られていないが、「明るいリズム」「覚えやすいメロディ」「少しレトロな感覚」という基本的な特徴はすでに揃っている。
In Case You Didn’t Know(2011年)
セカンドアルバムでは、デビュー作の特徴を残しながら、より強いポップソングを書く方向へ進んだ。
「Heart Skips a Beat」「Dance with Me Tonight」という2曲の全英1位シングルが生まれ、Olly Mursの代表的なスタイルが完成する。
特に「Dance with Me Tonight」のレトロなソウル感は重要だ。昔の音楽をそのまま再現するのではなく、現代のラジオで流れるポップとして作り直す。この方法は、その後も彼の大きな武器になった。
Right Place Right Time(2012年)
Olly Mursの人気を英国以外へ広げた作品である。
最大のヒットとなった「Troublemaker」では、これまでのソウルやファンクの要素を残しながら、より国際的なポップサウンドへ近づいた。Flo Ridaのラップも加わり、当時のアメリカのポップ市場とも相性の良い曲になっている。
アルバム全体でも大きなサビを持つ曲が増え、ライブやラジオで強く響く音へ変化している。初期3作品の中では、Olly Mursのポップスターとしての魅力が最も分かりやすくまとまった一枚である。
Never Been Better(2014年)
Never Been Betterでは、初期の軽快さを残しながら、より幅広いサウンドへ進んだ。
「Wrapped Up」ではファンクを強く押し出し、「Up」ではDemi Lovatoとのデュエットによって、アコースティックなポップへ接近している。アルバム全体としても、明るい曲だけでなく落ち着いた曲を増やした。
単純な「楽しいポップシンガー」から、異なるテンポや雰囲気の曲を歌える存在へ広がろうとした時期だと分かる。
24 Hrs(2016年)
24 Hrsでは、恋愛や別れを扱う歌詞がより前面に出ている。以前の作品に比べると、明るいショーマンとしての部分だけではなく、大人になった男性の感情を歌う場面が増えた。
一方で「You Don’t Know Love」のように、力強いサビを持ったポップソングも収録されている。サウンドは2010年代半ばらしい電子的なポップへ近づいているが、リズムを重視するOlly Mursらしさは失われていない。
Marry Me(2022年)
You Know I Knowを挟み、約4年ぶりのスタジオアルバムとして発表されたのがMarry Meである。
「Die of a Broken Heart」ではホーンやファンキーなリズムを使い、初期から続く明るく踊れるポップへ戻っている。長いキャリアの中で流行する音は変わったが、自分の強みであるソウル感とエンターテインメント性を改めて前面に出した作品になった。
影響を受けたアーティストと音楽
Olly Mursの音楽的な背景を理解するうえで重要なのが、Michael JacksonやStevie Wonderなどのポップ、ソウル、ファンクである。
Stevie Wonderに通じるのは、リズムとメロディを同時に楽しませる感覚だ。曲が感情的になっても演奏は重くなりすぎず、ベースやドラムが常に前へ進んでいく。
Michael Jacksonからは、歌だけではなくステージ全体で観客を楽しませるという考え方とのつながりが見える。Olly Murs自身もダンスや動きを積極的にライブへ取り入れてきた。
Robbie Williamsと比較されることも多い。音楽そのものが同じというより、親しみやすい性格とユーモアを生かしながら、大きな会場で観客を巻き込む英国的なポップ・エンターテイナーという点で共通している。
UKポップシーンでの存在感
Olly Mursは、まったく新しいジャンルを生み出したタイプのアーティストではない。むしろ彼の強みは、昔からあるソウル、ファンク、ポップの楽しさを、2010年代以降の聴き手にも分かりやすい形で届けたことにある。
『The X Factor』から登場したアーティストの中でも、長期間にわたってヒット曲とアルバムを発表し続けた点は大きい。オーディション番組で得た知名度だけに頼らず、「Troublemaker」や「Dance with Me Tonight」のような本人を代表する曲を作ることができた。
テレビ司会や『The Voice UK』での活動も含め、英国では音楽だけに限定されないエンターテイナーとして知られている。この親しみやすさは、ステージ上で観客との距離を縮める彼の音楽とも自然につながっている。
まとめ
Olly Mursの音楽を特徴づけているのは、明るいメロディ、跳ねるようなリズム、ソウルやファンクから受け継いだ楽しさである。失恋や恋愛の迷いを歌っていても、曲そのものは軽快で、観客と一緒に楽しめるポップへ仕上げることが多い。
『The X Factor』をきっかけに登場しながら、番組出身という肩書きを越え、「Heart Skips a Beat」「Dance with Me Tonight」「Troublemaker」など自分自身を代表するヒット曲を残してきた。
新しい音楽ジャンルを切り開くというより、ソウルやファンクが持つ人懐っこい魅力を現代のUKポップへ自然に取り込むことがOlly Mursの強みである。歌、ダンス、テレビでの活動まで含めて人を楽しませる、英国を代表するポップ・エンターテイナーの一人である。


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