発売日: 1987年9月28日
ジャンル: インディー・ロック、ポストパンク
『Strangeways, Here We Come』は、The Smithsの最後のスタジオアルバムで、バンドの終焉を迎える作品となった。アルバム制作中にメンバー間の関係が悪化し、バンドは解散するが、この作品では、彼らの音楽的・感情的な成熟が顕著に表れている。前作までのインディー・ロック的なアプローチを超え、シンセサイザーやより豊かなアレンジが施されたサウンドスケープが特徴で、モリッシーの歌詞もますます深い内省と皮肉が込められている。この作品は、バンドのキャリアを締めくくるにふさわしい壮大で感情的な作品となっている。
各曲ごとの解説:
- A Rush and a Push and the Land Is Ours
ピアノのアルペジオから始まるこのトラックは、The Smithsの楽曲には珍しくギターが前面に出ていない。モリッシーの歌詞は、失われたものへの渇望と、アイロニックな視点を交えている。彼のボーカルが際立ち、アルバムの開幕を飾るにふさわしい力強い一曲。 - I Started Something I Couldn’t Finish
力強いギターリフとリズミカルなドラムが印象的なこの曲は、未完の恋愛や関係に対する後悔を描いている。モリッシーのボーカルは自嘲的でありながらも、ジョニー・マーのギターと共に楽曲にエネルギーを与えている。 - Death of a Disco Dancer
アンビエントなサウンドと、ミニマルなアレンジが特徴的な一曲。モリッシーは死や虚無に関するテーマを皮肉的に扱い、マーのギターが静かに感情の波を引き立てている。後半に向けてビルドアップしていく構成が壮大な余韻を残す。 - Girlfriend in a Coma
アルバムの中で最もキャッチーでポップなトラックでありながら、歌詞はブラックユーモアに満ちている。恋人が昏睡状態にある状況を皮肉たっぷりに歌った楽曲で、短いながらも印象に残る一曲だ。シンプルなギターリフとポップなメロディが、ダークなテーマと対照を成している。 - Stop Me If You Think You’ve Heard This One Before
エネルギッシュなギターとドラムが特徴のこの楽曲は、失敗した関係や過ちを繰り返す自分に対する自己批判がテーマ。ジョニー・マーのギターワークが楽曲に躍動感を与え、モリッシーの皮肉たっぷりの歌詞が印象的だ。 - Last Night I Dreamt That Somebody Loved Me
アルバムの中でも特に感情的でメランコリックなバラード。冒頭のピアノとストリングスが物悲しい雰囲気を作り出し、モリッシーの孤独感あふれるボーカルが心に残る。壮大なアレンジと感情的な歌詞が、アルバムのハイライトの一つだ。 - Unhappy Birthday
軽快なリズムとは対照的に、モリッシーの毒々しい歌詞が冴え渡る一曲。嫌味たっぷりに描かれるバースデーの祝辞がテーマで、彼のユーモアとアイロニーが存分に発揮されている。ジョニー・マーの軽やかなギターリフが楽曲に活気を与えている。 - Paint a Vulgar Picture
音楽業界や商業主義に対する批判をテーマにした楽曲。モリッシーは音楽ビジネスの腐敗を皮肉的に描写し、ファンの期待に応えるために犠牲にされるアーティストの姿を風刺している。ジョニー・マーのギターが曲全体に深みを与え、叙情的なメロディが際立つ。 - Death at One’s Elbow
アップテンポで短めの楽曲。リズミカルなギターとドラムが楽曲を支え、タイトルの通り死に関するテーマが扱われている。皮肉とユーモアに満ちた歌詞が、モリッシーの独特な視点を強調している。 - I Won’t Share You
アルバムの最後を飾るこのトラックは、モリッシーが個人的な執着や愛について歌い上げるバラード。シンプルなアコースティックギターの伴奏と、彼の優しいボーカルが、バンドの解散を暗示するかのように、感情的な余韻を残す。
アルバム総評:
『Strangeways, Here We Come』は、The Smithsの最後のアルバムにふさわしい作品であり、バンドの音楽的成熟を示す集大成である。ジョニー・マーの多様なギターワークと、モリッシーの皮肉と感情的な歌詞が絶妙に融合し、アルバム全体に豊かな音楽的深みを与えている。このアルバムでは、シンセサイザーやオーケストラの要素が導入され、バンドのサウンドに新たな次元が加わっている。個人的な感情表現と社会批判が絶妙にバランスを取り、The Smithsのキャリアを締めくくるにふさわしい、感動的なアルバムとなっている。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚:
- The Queen Is Dead by The Smiths
バンドの最高傑作とされるアルバム。ポップなメロディとシリアスな歌詞のバランスが取れており、『Strangeways, Here We Come』のファンにも響く。 - Low-Life by New Order
ポストパンクとシンセサイザーを融合させたサウンドが特徴。The Smithsの後期の音楽的な発展に通じる要素がある。 - Seventeen Seconds by The Cure
ダークな雰囲気と感情的なトーンが、The Smithsの作品と共通している。ポストパンクの影響を受けたアルバム。 - Ocean Rain by Echo & the Bunnymen
メランコリックなギターと叙情的な歌詞が特徴的で、The Smithsファンにおすすめ。ストリングスを使った壮大なサウンドが魅力。 - Rattlesnakes by Lloyd Cole and the Commotions
インディーロックとポップの要素を融合した作品で、モリッシーの歌詞に共感できるリスナーにぴったり。知的でアイロニックな歌詞が光る。
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