
1. 歌詞の概要
「Start Anew(スタート・アニュー)」は、Beady Eyeのセカンドアルバム『BE』(2013年)を締めくくるラストトラックであり、そのタイトルのとおり“やり直し”“再出発”をテーマに据えた、静謐でありながら強い決意を感じさせるバラードである。
歌詞はとても少なく、非常に簡素で、直接的な言葉ばかりで構成されている。
だが、その“語らなさ”こそが重要であり、余白にこそ思いが込められているような構成となっている。
これは愛の歌であると同時に、自己再生の歌でもある。
傷ついた過去を背負いながらも、いま立ち上がって前を向こうとする人間の、静かな祈りと決意が感じられる。
リアム・ギャラガーのキャリアの中でも稀に見る、脆さと優しさが共存する一曲である。
2. 歌詞のバックグラウンド
この楽曲が収録された『BE』は、Beady EyeにとってOasisからの完全な脱皮を図った実験的アルバムであり、その中で「Start Anew」は一種のエピローグとして機能している。
プロデュースを手がけたDave Sitek(TV on the Radio)は、シンプルでドリーミーなアコースティック・サウンドとエフェクト処理を駆使して、まるで“意識と現実の狭間”のようなサウンドスケープを作り出している。
この曲におけるリアムのボーカルは、過去作にはないほど抑制され、優しく、どこか“独りごと”のようでもある。
その囁きのような声は、爆音や態度の裏に隠れていた“リアルなリアム”を感じさせ、Oasis解散後における彼の心情を象徴する瞬間として、深い印象を残す。
3. 歌詞の抜粋と和訳
引用元:Genius Lyrics – Beady Eye “Start Anew”
We’re all part of a dream / Nothing’s ever what it seems
僕らはみんな夢の一部
見えているものが真実とは限らない
Come on, start anew
さあ、やり直そう
Don’t be blue
落ち込むことはないさ
Come on, start anew
さあ、また始めよう
4. 歌詞の考察
この曲の言葉は少ない。
それでも、「Come on, start anew(さあ、やり直そう)」という繰り返しの中には、後悔も痛みもすべて内包されている。
“やり直す”という言葉は、軽く響くかもしれない。
だが、それは“何かを失った”経験を持つ者にとって、最も重く、そして最も美しい希望でもある。
「Nothing’s ever what it seems(すべては見たままとは限らない)」という一節は、現実と幻想、過去の栄光と現在の自分の間で揺れ動くリアム自身の言葉のようにも聞こえる。
だが彼はここで、過去の栄光や痛みにしがみつくことなく、“もう一度、自分自身として歩き出そう”と静かに語っている。
そして、アルバムのラストにこの曲が置かれているという事実も、象徴的だ。
Oasis時代に終止符を打ち、Beady Eyeというプロジェクトさえもこの後終了していくことを考えると、この「Start Anew」は、“一つの旅の終わり”であると同時に、“新しい物語の予告”でもあるのだ。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Little By Little by Oasis
時間をかけて少しずつ立ち直っていくというメッセージを持った曲。内面へのまなざしが共通。 - The Healing by Noel Gallagher’s High Flying Birds
過去と向き合いながら癒しを得ていく、スピリチュアルで繊細な一曲。 - You See Me Crying by Aerosmith
ロックンロールの影で涙するような、静かな感情の歌。
Soul Love by Beady Eye(2013)楽曲解説
1. 歌詞の概要
「Soul Love(ソウル・ラブ)」は、Beady Eyeの『BE』に収録されたバラード調のナンバーであり、タイトルどおり“魂の愛”をテーマにした、静かで神秘的な愛の歌である。
「Soul Love」とは、単なる肉体的な愛や一時的な情熱ではなく、“存在と存在が深く響き合うような絆”を意味しており、この曲ではその愛を信じたいという切なる願いが、比喩や問いかけの形で綴られていく。
抽象的な語り口と、浮遊するようなメロディによって、この曲はリスナーを“現実と夢のあわい”へと誘い、そこにある“信じること”の強さと儚さを描き出す。
2. 歌詞のバックグラウンド
この曲もプロデューサーDave Sitekによる緻密なアレンジが特徴で、空間的なリバーブと揺らぎのあるギター、遠くで鳴るホーンやストリングスが、サウンド全体を霧のように包み込む。
それはまさに“ソウル・ラブ”という見えないものの感触を、音楽で具現化しようとする試みのようである。
また、Oasis時代にはあまり見られなかった、“宗教的・形而上的問いかけ”が歌詞に多く含まれており、Beady Eyeが精神性の高いロックへと歩みを進めていたことが感じられる。
リアム・ギャラガーのボーカルは、ここでは怒りでも高揚でもなく、“静かな確信”として響いており、彼の新たな表現力の一端が覗ける貴重な曲である。
3. 歌詞の抜粋と和訳
引用元:Genius Lyrics – Beady Eye “Soul Love”
I believe that soul love / Can change your mind
魂の愛なら
きっと君の心を変えられると信じている
I believe that soul love / Will make things right
魂の愛があれば
すべてが正しい方向へ向かうはずだ
So if you’re leaving me / You better say it slow
だからもし君が僕のもとを去るなら
どうかゆっくり言ってくれ
4. 歌詞の考察
この曲の語り手は、愛が終わるかもしれない瞬間に立っている。
しかし彼は、そこでもなお「魂の愛」を信じている。
「Soul love」という言葉は、この楽曲において“最後の拠り所”であり、それは“言葉にならない深いつながり”を信じる行為そのものである。
「You better say it slow(ゆっくり言ってくれ)」というラインは、別れそのものを拒絶しているわけではない。
むしろ、“その瞬間をきちんと味わいたい”というような、静かな受容と誠実さがにじんでいる。
また、この曲全体には“光”や“水”のような自然的イメージが漂っており、愛とは“手で触れることのできないもの”でありながら、“確かにそこにあるもの”として描かれている。
それはまさに“ソウル・ラブ”という言葉にふさわしい抽象性であり、リスナーはその中で自分の感情を重ねていくことができる。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Angel by Massive Attack
内省と愛の感情をサイケデリックなサウンドで描いた、闇と光の境界線にある名曲。 -
Spiritualized – Ladies and Gentlemen We Are Floating in Space
宇宙的な愛の感覚、浮遊感、信仰心が融合した傑作。 -
Within You Without You by The Beatles
愛と魂、自己を超えた意識を音楽で表現したサイケデリックな哲学歌。
**「Start Anew」**は静かな決別と再出発。
**「Soul Love」**は失うことを恐れながらも、なお信じる愛の祈り。
いずれもBeady Eyeというバンドの“内なる変化”を象徴する楽曲であり、リアム・ギャラガーという男が怒りと誇りの時代を越えて、より深く、より柔らかな自己へと到達しようとしていた軌跡そのものである。
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