
発売日: 1981年8月25日
ジャンル: パンクロック、ガレージロック、パワーポップ
- 概要
- 全曲レビュー
- 1. Takin a Ride
- 2. Careless
- 3. Customer
- 4. Hangin Downtown
- 5. Kick Your Door Down
- 6. Otto
- 7. I’m in Trouble
- 8. Johnny’s Gonna Die
- 9. Shiftless When Idle
- 10. Raised in the City
- 11. Dope Smokin Moron
- 12. Stuck in the Middle
- 13. God Damn Job
- 14. Basement
- 15. Love You Till Friday
- 16. Shutup
- 17. Raised in the City (Demo)
- 総評
- おすすめアルバム(5枚)
概要
『Sorry Ma, Forgot to Take Out the Trash』は、ミネアポリス出身のバンド The Replacements によるデビュー・アルバムであり、アメリカン・パンクのリアルな生活臭と青春の暴発を詰め込んだ原石のような作品である。
1981年という時代において、イギリスのポストパンクやニューウェーブが知的洗練を進める中、The Replacementsはその対極にあるような、地元のガレージから飛び出した衝動と不器用な情熱を提示した。
ボーカルのポール・ウェスターバーグによるシニカルでセンチメンタルなリリック、そしてバンド全体のラフで荒削りな演奏は、後のオルタナティヴロックやグランジの先駆としても重要な位置を占める。
タイトルの「Sorry Ma, Forgot to Take Out the Trash(ごめんママ、ゴミ出し忘れた)」というユーモラスな一言に象徴されるように、アルバム全体は青春期の無責任さ、家庭と社会への違和感、自己確立の混乱を短い曲の連打で表現している。
パンク・ロックの形式を借りながら、すでにその殻を破ろうとする兆しが見える重要なデビュー作である。
全曲レビュー
1. Takin a Ride
オープニングからフルスロットルなガレージ・パンク。
「とにかく走り出すんだ」という衝動がそのまま音になっており、ウェスターバーグのシャウトとギターの切れ味が痛快。
2. Careless
無頓着な恋、無関心な社会、そして無防備な自分。
パンクのビートの中に、既にメロディアスなセンスが見え隠れする。
3. Customer
顧客というテーマを通じて、消費社会とアイデンティティを皮肉った短い一撃。
60秒少々で終わるが、存在感は大きい。
4. Hangin Downtown
ミネアポリスの退屈なダウンタウンで時間を潰す若者たちの姿。
遊びと退屈の境界をギターがノイジーに切り裂く。
5. Kick Your Door Down
攻撃的なタイトルどおりの反骨パンク。
「ドアをぶち破れ」というメッセージは、社会への怒りというより、何かを始めたい衝動の象徴のように響く。
6. Otto
少し不条理でユーモラスなキャラクターソング。
ラモーンズ的な構成ながら、より生々しい空気を感じさせる。
7. I’m in Trouble
ラブソングとも、告白ともつかない言い訳まじりの一曲。
「やばいんだ」と呟くような歌詞が、青春の不安定さをそのまま伝える。
8. Johnny’s Gonna Die
アルバムの中で異色のバラード。
ジョニー・サンダースを思わせるタイトルと、薬物死への警鐘。
ウェスターバーグの詩的側面が初めて全面に現れた重要曲。
9. Shiftless When Idle
働く気のない若者のテーマ。
シンプルな3コードとチープなアティチュードが、この曲を不思議と愛すべきものにしている。
10. Raised in the City
都市に育てられた感覚=親ではなく街が自分を形作ったというメッセージ。
パンクとアメリカーナの交差点が垣間見える。
11. Dope Smokin Moron
ヘビーにしてコミカル。
ドラッグをテーマにしつつ、説教臭くないのがReplacementsらしい。
短くて強烈。
12. Stuck in the Middle
混乱と停滞を描いたミディアム・テンポのナンバー。
このあたりから、パンクの枠に収まりきらない可能性が浮上する。
13. God Damn Job
過激なタイトルだが、内容は若者の“働きたくねえ”という叫び。
バトラーのように社会に挑戦するのではなく、単に逃げ出したいだけというのが潔くてリアル。
14. Basement
地下室=Replacements的宇宙の中心。
ローファイな響きと閉塞感が、アルバム後半の雰囲気をぐっと締める。
15. Love You Till Friday
ポップでキャッチーな短編ラブソング。
週末だけの恋、という軽さが、逆に切ない。
16. Shutup
叫びそのものが曲になったようなパンクの見本。
「黙れ」という単語をこれほど心地よく聴かせるのはReplacementsくらいかもしれない。
17. Raised in the City (Demo)
ボーナス的トラック。
本編とは異なるラフなテイクで、彼らのDIY精神と雑多なエネルギーを感じさせる。
総評
『Sorry Ma, Forgot to Take Out the Trash』は、Replacementsというバンドの“人間臭さ”と“自意識の暴発”を記録した青春のドキュメントである。
サウンド的には、パンク、ガレージ、パワーポップの要素を持ちつつも、既にポール・ウェスターバーグの詩的感覚とメロディーメイカーとしての才気が明確に表れており、ここからの進化を予感させる。
社会や家族に対する反抗ではなく、むしろ自分自身との戦いと葛藤がテーマである点が、同時代のパンク・バンドと異なる部分でもある。
その等身大の不器用さこそが、後のオルタナティヴロックの精神的出発点となった。
「デビュー作にして、すでに終わりかけているような空気」
それが、このアルバムの最大の魅力であり、唯一無二の温度なのだ。
おすすめアルバム(5枚)
-
Hüsker Dü – Land Speed Record (1982)
同じミネアポリス出身、爆発的な初期衝動を詰め込んだパンク記録。 -
The Ramones – Rocket to Russia (1977)
シンプルなロックンロール・パンク。Replacementsの基礎文法的存在。 -
Dead Boys – Young, Loud and Snotty (1977)
若さ、騒々しさ、下品さというキーワードでつながる初期USパンクの古典。 -
The Modern Lovers – The Modern Lovers (1976)
青春と孤独を語る詩人系ガレージ・パンク。ウェスターバーグの源流的存在。 -
Pixies – Come On Pilgrim (1987)
Replacements以後のオルタナ・ロック精神を継承した重要作。
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