Song Within a Song by Camel(1976)楽曲解説

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1. 歌詞の概要

Song Within a Song(ソング・ウィズイン・ア・ソング)」は、Camelが1976年にリリースしたアルバム『Moonmadness』に収録された楽曲であり、そのタイトルのとおり、「ひとつの曲の中に、もうひとつの歌が隠されている」ような多層的構造を持つ作品である。アルバムの2曲目に位置し、まるで霧の中に漂うような静けさと、後半に向かっての感情の噴出が際立つ、Camel特有の叙情性が凝縮された一曲である。

歌詞は短く、全体のうちヴォーカルの入るパートは非常に限定されているが、その少ない言葉の中には、時間の流れ、感情の変化、そして“内なる声”との対話というテーマが詰め込まれている。表層的には、誰かの喪失、または内面世界への没入のようにも読み取れる。だが、はっきりとした物語ではなく、あくまで感覚的な断片の集積――それがこの曲の詩の核にある。

2. 歌詞のバックグラウンド

『Moonmadness』は、Camelがインストゥルメンタル作品『The Snow Goose』を経た後に再びヴォーカルを導入したアルバムであり、各楽曲はメンバー自身の性格や内面を象徴するように設計されていると言われている。「Song Within a Song」は、その中でキーボード奏者ピーター・バーデンスを象徴する曲とされており、彼の内向的で繊細な音楽性が色濃く投影されている。

バーデンスは、歌詞よりもメロディのニュアンスや音の重なりによって感情を語るタイプの作曲家であり、この曲でも歌の部分は導入に過ぎず、本当の「歌」は後半のインストゥルメンタル・セクションにある。すなわち、タイトルの「Song Within a Song」とは、“真の感情は、言葉の中ではなく音の中にある”という信念の暗示でもあるのだ。

3. 歌詞の抜粋と和訳

本楽曲の歌詞は非常に短いが、慎重に選ばれた言葉の中に強い詩情が込められている。

The sun has left the sky
太陽は空から消えた

Now you can close your eyes
さあ、目を閉じていいんだよ

Leave all the world behind until tomorrow
世界のすべてを明日に預けて

The dream is like a song
夢はまるで歌のよう

It leads you on and on
その旋律は君を導いていく

The melody is never gone
メロディは、決して消えはしない

引用元:Genius Lyrics

4. 歌詞の考察

この歌詞に描かれるのは、“一日の終わり”と“夢への滑空”である。
「太陽が沈み、目を閉じる」とは、現実から離れ、内面世界への移行を意味する。そして「世界を明日に預ける」という表現には、現実の一時的な棚上げ――つまり、心の避難所としての“夢”が描かれている。

さらに注目すべきは、「夢はまるで歌のよう」という一節である。これは“夢”と“音楽”を同一視する詩的な表現であり、音楽そのものが感情を繋ぎ止め、導いてくれる力を持っているという、Camel全体の美学を象徴している。
「メロディは決して消えはしない」というラストラインは、記憶や感情の不変性――あるいはそれに対する希望のようでもあり、静かな慰めとして響く。

実際、この曲ではヴォーカルパートが終わった後に訪れる長いインストゥルメンタル・セクションが、最も感情的に高まるパートである。そこでは言葉は使われず、代わりにギター、シンセサイザー、ドラムが呼吸するように絡み合い、心の動きを視覚的に描いてみせる。この構成こそが、「歌の中の歌」という構造を実現している。

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • Ripples by Genesis
    時間の流れと喪失を美しく描いた楽曲で、同様に夢と記憶の境界を漂うような叙情性がある。
  • Time by Pink Floyd
    過ぎゆく時間と内省をテーマにした名曲。歌詞の深みとサウンドスケープがCamelに通じる。
  • Entangled by Genesis
    静謐な音像と夢と現実の交錯を描いた構成で、「Song Within a Song」と精神的に共鳴する。
  • Spirit of the Water by Camel
    『Moonmadness』内のもう一つの抒情的名曲で、内なる声と水のような時間感覚を表現している。

6. “声にならない歌”が奏でる感情の地図

「Song Within a Song」は、Camelの持つ抑制されたエモーションと、音による語りの技術が見事に結晶した一曲である。
その本質は、“音楽の中に秘められたもうひとつの感情”を聴く者にゆだねることにある。

短い歌詞の中で、明確な感情やストーリーを語るのではなく、むしろ“語らない”ことで余白を作り、その余白にこそ聴き手の感情が流れ込む。まるで、誰かの夢の中をそっと覗いているような錯覚すら覚える。


「Song Within a Song」は、夢、記憶、感情、音楽――それらすべてが重なりあったときにだけ聴こえてくる、“もうひとつの歌”を私たちに教えてくれる。
それは静かに響く、心の奥底でだけ鳴り続けるメロディ。
そしてその歌は、決して消えることはない。

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