Something Just Like This by The Chainsmokers & Coldplay(2017)楽曲解説

1. 歌詞の概要

「Something Just Like This(サムシング・ジャスト・ライク・ディス)」は、アメリカのEDMデュオ The Chainsmokers(ザ・チェインスモーカーズ)と、イギリスのロックバンド Coldplayコールドプレイ)のコラボレーションによって生まれた、2017年を代表するエモーショナル・アンセムである。
この楽曲は、Coldplayのボーカリストであるクリス・マーティンの温かくも切ない歌声と、The Chainsmokersによるエレクトロニックで高揚感に満ちたサウンドの融合によって、恋愛・自己価値・理想への葛藤といった普遍的なテーマを、非常にポップかつ感情的に描いている。

歌詞の冒頭では、語り手がギリシャ神話の英雄アキレスや、スーパーマン、スパイダーマンといった“超人的な存在”に言及しながら、自分は彼らのような力を持たない、ありふれた存在であることを認めている。そして彼は「そんな完璧な存在じゃなくていい、僕は“普通の何か”でいい」と語る。その“普通”とは、決して諦めや妥協ではなく、愛する人と穏やかに、誠実に生きていくという強い意志の表れである。

タイトルの「Something Just Like This(こんな感じの何か)」には、「特別な英雄じゃなくても、君と一緒にいられる“普通の関係”こそが、僕にとっての理想」という、優しくもリアルな恋愛観が込められている。

2. 歌詞のバックグラウンド

この曲は、The Chainsmokersのデビュー・アルバム『Memories…Do Not Open』(2017)に収録され、Coldplayとのコラボレーションというサプライズとともにリリースされた。プロモーションなしで突如公開されたこの楽曲は、瞬く間に世界中で話題となり、リリースからわずか数日でSpotifyの最多再生記録を更新。全米・全英のチャートでも上位に食い込んだ。

Coldplayのボーカルであり作詞にも関わったクリス・マーティンは、子どものような想像力と親密さを歌詞に込めたいと語っており、「本物の愛や関係とは、ヒーローになることではなく、ただ“そばにいる”ことに意味がある」とする価値観が、楽曲全体に流れている。

The Chainsmokers側にとっては、ポップ/ロックバンドとの本格的なコラボは本作が初めてであり、エレクトロニックの枠を超えて、より広い音楽的文脈に踏み出した作品でもある。
なお、曲のライブ初披露は2017年2月のBRITアワードで、ColdplayとThe Chainsmokersがステージで共演し、大きな話題を呼んだ。

3. 歌詞の抜粋と和訳

以下に、「Something Just Like This」の印象的なフレーズを抜粋し、日本語訳を添えて紹介する。

引用元:Genius Lyrics – Something Just Like This

“I’ve been reading books of old / The legends and the myths”
昔の本を読んでた/伝説や神話の話を

“Achilles and his gold / Hercules and his gifts”
アキレスの黄金、ヘラクレスの力…

“And clearly I don’t see myself upon that list”
でも、どう考えても自分はそんな英雄じゃない

“She said, where’d you wanna go? / How much you wanna risk?”
彼女が言った「どこに行きたいの?」「どれくらいのリスクを負えるの?」

“I’m not looking for somebody / With some superhuman gifts”
僕が求めてるのは/特別な能力を持った人じゃない

“Just something I can turn to / Somebody I can kiss”
ただ頼れる人/キスできる誰か、それだけでいいんだ

“I want something just like this”
僕が欲しいのは、こんな“普通の何か”なんだ

この「Just something I can turn to / Somebody I can kiss」というラインは、愛の理想を壮大なヒロイズムではなく、日常の中の小さな親密さに見出すという、今の時代に非常にマッチした価値観を象徴している。

4. 歌詞の考察

「Something Just Like This」は、ある意味で“理想”と“現実”の間に揺れる心を描いた歌である。昔から語られる神話やヒーロー像のように完璧な存在にはなれない自分——でも、それでも誰かと手を取り合い、生きていくことはできるという前向きな諦め、あるいは穏やかな信念がこの曲には込められている。

恋愛においても、自分をより大きく見せようとしたり、理想の人間像を演じようとするプレッシャーがある中で、「完璧じゃなくてもいい」と言えることは、とても強いメッセージだ。それは、“無理をしない愛”を肯定する言葉であり、逆にその愛の真実味を増している。

また、クリス・マーティンの柔らかい歌声が、ヒーローになれない者の切実さを包み込むように響くことで、「普通の愛こそが、いちばん尊いもの」という価値観が、美しくも説得力を持って伝わってくる。

The Chainsmokersのビートは控えめでありながらも、サビではしっかりと感情のピークを演出しており、その音楽的バランスもこの曲を特別なものにしている。激しく踊るためのEDMではなく、“胸の内に静かに火を灯すような”エレクトロニック・ポップとなっている点は、彼らの進化の証である。

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • Fix You” by Coldplay
    不完全な人を支えようとする優しさに満ちた名バラード。

  • “Let Me Love You” by DJ Snake ft. Justin Bieber
    壊れかけた人を愛することで癒すことをテーマにしたエレクトロ・ポップ。

  • “Happier” by Marshmello ft. Bastille
    別れを受け入れつつ、相手の幸せを願う切ないエレクトロニック・ソング。

  • “All We Know” by The Chainsmokers ft. Phoebe Ryan
    失われかけた関係の中で、それでも希望を探そうとするメッセージ性が共通。

  • “Be Alright” by Dean Lewis
    心の傷とそれを乗り越えようとするリアルな感情が美しく表現されたバラード。

6. 完璧じゃなくていい:「英雄ではなく、ただ愛されたい」という現代の声

「Something Just Like This」は、現代を生きる私たちの“理想”が変化してきたことを象徴する歌である。かつての物語では、愛される人間は強く、完璧で、ヒーローのようでなければならなかった。しかしこの曲は、「誰かのそばにいたい、支えになりたい、ただそれだけでいい」と、等身大の愛を肯定している。

だからこそ、この曲は若い世代だけでなく、どんな世代の人にも響く。誰もが“特別ではない自分”に悩んだことがある。そしてそのとき、必要なのは「完璧な誰か」ではなく、「弱さを見せても愛してくれる誰か」なのだ。

「Something Just Like This」は、そんな思いを、エモーショナルなサウンドと優しい歌声で包み込み、静かに、でも力強く届けてくれる。
ヒーローじゃなくてもいい。ただ、寄り添える誰かと、「こんな感じの何か」を見つけられたなら——それこそが、現代の幸せなのかもしれない。

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