発売日: 2023年2月24日
ジャンル: ポストパンク、インダストリアル・ロック、エクスペリメンタル・ヒップホップ、ソウル
音楽と政治の交差点——Algiersが描く混沌と抵抗のサウンド
Algiersの4thアルバムShookは、ポストパンク、インダストリアル、ヒップホップ、ゴスペルを融合させた、彼らの音楽的探求の集大成ともいえる作品である。
前作There Is No Year（2020年）は、よりミニマルでインダストリアルな方向に進化したが、本作ではその反動のように、荒々しく、エネルギッシュで、実験的なスタイルへと回帰。ヒップホップの要素が強くなり、ゲストアーティストを多数迎えたことで、よりコラボレーション色の強いアルバムとなっている。
また、Black Thought（The Roots）、Billy Woods、Zack de la Rocha（Rage Against the Machine）、Backxwashといった、政治的メッセージを持つアーティストが参加しており、本作のテーマである「社会の不安」「抑圧と抵抗」「文化の多様性」がより際立っている。
サウンド面では、これまで以上にヒップホップやエクスペリメンタルな要素を取り入れ、攻撃的なビートとノイズが際立つ楽曲が多い。Algiersの特徴であるゴスペルやソウルの要素は健在だが、それをさらに過激なサウンドと組み合わせることで、新たな次元へと進化している。
全曲レビュー
1. Everybody Shatter
アルバムの幕開けを飾るカオティックなトラック。ディストーションの効いたギターとノイズが混ざり合い、破壊的なエネルギーが充満する。
2. Irreversible Damage (feat. Zack de la Rocha)
Rage Against the MachineのZack de la Rochaを迎えた強烈なインダストリアル・ラップ・ロック。ノイジーなビートと政治的な怒りを帯びたヴォーカルが、社会の不安定さを映し出す。
3. 73%
ダークなシンセとメタリックなビートが特徴のトラック。タイトルの「73%」は社会的不平等を象徴しているとされる。フィッシャーのヴォーカルは呪術的で、ゴスペル的な要素が強く出ている。
4. Bite Back (feat. Billy Woods & Backxwash)
アンダーグラウンド・ヒップホップの影響が色濃い楽曲。Billy WoodsとBackxwashのヴァースが、楽曲にさらなる暴力性と緊張感を加えている。
5. Out of Style Tragedy
ノスタルジックなメロディと、不穏なビートが交錯する。過去のAlgiersの作品の中でも、最もエクスペリメンタルなアレンジが施されている。
6. Comment #2
短いインタールード的な楽曲。サンプリングとボーカルの断片がコラージュされ、実験的な雰囲気を持つ。
7. A Good Man
シンプルなピアノとボーカルが際立つ楽曲。フィッシャーのソウルフルな歌唱が前面に出ており、アルバムの中でも特にエモーショナルな瞬間。
8. I Can’t Stand It!
ポストパンクとヒップホップの要素が融合したトラック。怒りと絶望を込めたリリックが、現代社会の閉塞感を描き出している。
9. Green Iris
静かで美しいバラード。過去のAlgiersの作品に比べ、よりメロディアスでシンプルな構成になっている。
10. Cold World
エレクトロニックなビートとインダストリアルなギターが絡み合う、ダークなトラック。
11. Something Wrong
ゴスペルとノイズロックを融合させた楽曲。過去作と比べても、実験的な要素が強く出ている。
12. Momentary
シンセを主体としたドリーミーなトラック。静かに始まりながらも、徐々に壮大な展開へと向かう。
13. Born
アルバムのラストを飾る、重厚なバラード。アルバム全体のテーマを総括するような、メランコリックで美しい楽曲。
総評
Shookは、Algiersがこれまでの音楽性をさらに拡張し、ヒップホップ、ノイズ、ゴスペル、インダストリアル・ロックを融合させた、彼らの最も実験的かつ攻撃的な作品である。
政治的なメッセージが強く、アメリカの社会不安、人種問題、権力の抑圧といったテーマが全面に押し出されている。特に、Zack de la Rocha（Rage Against the Machine）、Billy Woods、Backxwashといった、ラディカルなアーティストとのコラボレーションが、本作の暴力性と緊迫感をさらに高めている。
また、過去の作品と比べると、よりヒップホップ寄りのアプローチが増え、ラップの要素が強くなっているのも特徴的。これにより、ポストパンクやインダストリアルの影響とヒップホップのアティチュードが混ざり合い、これまでにない新しい音楽が生まれている。
ただし、その過激なスタイルと多様な音楽性の融合は、従来のロックファンにとっては取っつきにくい部分もあるかもしれない。しかし、「ジャンルの壁を壊し、音楽と政治を直結させる」というAlgiersの本質を理解するならば、本作は間違いなく2020年代の最も重要なアルバムのひとつとなるだろう。
おすすめアルバム
- Run the Jewels – RTJ4 (2020)
政治的なメッセージとヒップホップ、インダストリアルなビートの融合が本作と共鳴。 - Death Grips – The Money Store (2012)
アグレッシブなビートとノイズ、ラップの融合が、本作の暴力性とリンク。 - Rage Against the Machine – The Battle of Los Angeles (1999)
政治的メッセージとロック、ヒップホップの融合という点で共通する。 - Nine Inch Nails – Year Zero (2007)
インダストリアルなサウンドと社会批判的なテーマが本作と通じる。 - clipping. – Visions of Bodies Being Burned (2020)
ノイズとヒップホップを融合させた実験的なアプローチが、Shookと似た方向性を持つ。
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