she’s all i wanna be by Tate McRae(2022)楽曲解説

1. 歌詞の概要

「she’s all i wanna be」は、Tate McRaeが2022年にリリースしたシングルであり、彼女のデビューアルバム『i used to think i could fly』に収録された楽曲である。この楽曲では、恋愛における嫉妬と自己否定という普遍的なテーマを鋭く描き出し、Z世代のリスナーを中心に大きな共感を呼んだ。

物語の主人公は、好意を寄せる相手が他の女性に心を奪われていることに気づき、その女性に対する憧れと嫉妬が交錯する感情を吐露する。相手の心を奪った「彼女」に対して、怒りというよりも「私もあんな風になれたら」と羨望する視点が際立っており、「彼女は完璧で、私は不完全」と感じてしまう自己否定のサイクルが非常にリアルに描写されている。

この曲のタイトルである「she’s all i wanna be(彼女みたいになりたい)」という言葉が象徴するように、愛されたい気持ちが歪んだかたちで自己イメージに作用し、「自分ではない誰かにならなければ愛されない」という思い込みが感情の軸となっている。

2. 歌詞のバックグラウンド

Tate McRaeはこの楽曲について、「とても感情的でパーソナルな曲」と語っており、実際に経験した恋愛の中で感じた複雑な心境が基になっているとされる。彼女の曲作りには、自らの日記のようなリアルな感情が込められることが多く、「she’s all i wanna be」も例外ではない。

プロデューサーにはGreg Kurstin(AdeleSia、Beckなどを手がけた名プロデューサー)が参加しており、ポップロック寄りのエッジの効いたサウンドに仕上がっている。これは、以前の彼女の作品よりもより攻撃的かつエネルギッシュなトーンを持っており、歌詞の中にある葛藤や怒りを音楽的にも表現することに成功している。

また、Tate McRaeはこの曲で、パフォーマーとしての一面も強く打ち出しており、ミュージックビデオやライブでは演劇的かつダイナミックな表現を見せている。ダンスを通じて、内なる対立や感情の爆発を可視化することに長けた彼女ならではの演出が印象的である。

3. 歌詞の抜粋と和訳

以下に、「she’s all i wanna be」の中から印象的なフレーズを抜粋し、日本語訳を添えて紹介する。

引用元:Genius Lyrics – she’s all i wanna be

“You want her, you need her, and I’ll never be her”
あなたは彼女が欲しい、必要としてる、そして私は決して彼女にはなれない。

“She’s got everything that I don’t have”
彼女は私が持っていないすべてを持ってる。

“I bet she’s beautiful, like you, like you”
彼女はきっと美しいのね、あなたの好みのように。

“You got everything that I want”
あなたは私の欲しいものを全部持ってる。

“And I’m not even half as pretty”
私は、彼女の半分も綺麗じゃない。

これらのリリックは、自己嫌悪と羨望、そして恋愛における無力感を繊細かつ痛烈に描いている。外見、性格、魅力、すべてにおいて「彼女には敵わない」と思い込んでしまう主人公の感情が、まるでリスナー自身の心の声のように響く。

4. 歌詞の考察

「she’s all i wanna be」は、恋愛の中で多くの人が一度は経験する“比較”と“自己否定”を、赤裸々に描き出した楽曲である。特に、好きな相手が自分ではない誰かに惹かれていると知ったとき、人はしばしばその「誰か」に自分を重ね合わせ、「なぜ私ではだめなのか」と問い続けてしまう。

この楽曲では、嫉妬というよりもむしろ「自己変容」への欲望が描かれている。相手に愛されたいがゆえに、自分のアイデンティティを否定し、「彼女になりたい」と願ってしまうこの感情は、恋愛が自己認識に与える大きな影響を示している。

また、この曲には「彼女になれない自分」への怒りや悲しみも込められており、その感情が音楽の疾走感とシンクロしている。静かな嘆きではなく、叫ぶようなエネルギーとして表現されることで、この自己否定は「ただの悲しみ」ではなく、「自己解放」への一歩としても受け取ることができる。

楽曲の終盤に向けて、感情はより激しさを増し、主人公が自分の苦しみを抑えることをやめるように展開していく。この点において「she’s all i wanna be」は、ただのラブソングではなく、心の葛藤を乗り越えるための“カタルシス”としての機能を持つ楽曲であると言える。

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • “jealousy, jealousy” by Olivia Rodrigo
    他人と自分を比べることで生まれる不安と自己否定をテーマにした曲で、共感性が非常に高い。

  • “Complicated” by Avril Lavigne
    ティーンエイジャーの感情の複雑さと混乱をエネルギッシュなポップロックで表現しており、音楽性の近さもある。

  • Skinny Love” by Birdy
    内省的で繊細な恋愛感情を描くバラードで、「she’s all i wanna be」と通じる哀しみがある。

  • “You Ruin Me” by The Veronicas
    愛の中での崩壊と自己喪失をテーマにしており、痛みを伴うリアルな描写が共通している。

  • “my future” by Billie Eilish
    他人ではなく自分自身の未来を大切にしようとするメッセージが、自己肯定への移行という点でつながる。

6. “自己否定”から“自己解放”へ:Z世代が共鳴する新しい傷つき方

「she’s all i wanna be」は、単なる失恋ソングではなく、Z世代特有の「SNS時代における自己イメージの揺らぎ」と密接に関係している。SNSでは常に他人の“良い部分”ばかりが可視化されており、それによって自分を他人と比較する機会が増え、無意識のうちに自己価値を下げてしまう傾向がある。

この曲の主人公は、他人(=彼女)の“完璧さ”に押し潰されそうになりながらも、それを歌にすることで感情を外に出し、「私は私でしかない」と気づく過程を歩んでいるようにも見える。感情を認め、表現することで、自分を責め続けるループから抜け出そうとするその姿は、リスナーにとって大きな癒しと希望を与える。

Tate McRaeは、ティーンエイジャーや若者が直面する恋愛、自己否定、嫉妬といった感情を、極めて誠実かつ等身大の視点で描いており、「she’s all i wanna be」はその集大成とも言える楽曲である。失恋や嫉妬を“弱さ”と捉えるのではなく、“人間らしさ”として肯定する姿勢が、現代の若者たちの共感を集め続けている理由である。

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